咲来ショートショート

DITinoue(上楽竜文)

誕生

 オギャアー!オギャー!

4月8日、並木咲来なみきさくらは生まれた。


その月は、サクラが満開で、桜前線はもはや最高領域だった。でも、お花見を楽しむ客は、少なかった。コロナウイルスという伝染病が流行っていたため、お花見というものは感染拡大につながる。そう言われていた。


咲来の両親もそう思っていて、花見はしていない。けど、この子が大きくなるころには、家族みんなで、友達も一緒にお花見を楽しみたい、そう思って付けたのが咲来だ。


 長い時間をかけて、産んだため、母、玲子れいこの顔、首、背中、そして、股間は、汗でいっぱいだった。

「お疲れ様だったな、玲子。待望の子供だ。これから、また大変だな。頑張ろう」

「うん・・・・・あなた、私も頑張るわ・・・・・よろしくね・・・・・」

疲れで、玲子は途切れ途切れと、言葉を発す。

父、春男はるおは、グーをさあ、というように近づけた。玲子は手をブルブルと震わせながらも、それをしっかりと受け取った。


 オギャオギャ!

隣の部屋でも、小さな命の雄叫びがこだます。

隣の部屋の主婦、津田奈美つだなみは、妊娠中、共に戦った同士のような存在だった。そして、彼女は二人目の出産らしく、様々なことを教えてくれた教師のような存在でもあった。


シャーッと、カーテンが開いた。入ってきたのは、小さな少女だ。

「おかあさん、赤ちゃん産んだよ。しゅっさん、おめでとう!って、言ってきてって言われたの」

「そうなのか、偉いな、名前は何だっけ?」

津田淳奈つだじゅんなです!」

と言って、淳奈はにやにやと人懐っこい笑みを浮かべた。


 数日後、玲子と成実は出産祝いをしていた。

「女の子なのね。名前はもう決めたの?」

「咲来。今はコロナであれだけど、この子が大きくなるころには花見ができたらいいなって」

「ステキー!私は、男の子でね。まだ名前は決めてないんだけど、めっちゃにこにこ笑うの。将来は活発な子になるのかな?」

「あたしも、お姉ちゃんとしてがんばる!」

「フフ、頼もしいわね」

玲子は淳奈の頭をそっと撫でた。

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