第16話 日常の精霊
「すっごいおっきいにゃ~」
ファウノの家に着いたが…普通の家ってより屋敷だな。
レンガ造りの二階建て左右の端は円柱の造りで小さな塔のがある。
全体の色は白く、塗装されているように見える。
農場を営んでると言ってたがそんなに儲けているのだろうか。
一般的な建売住宅なら2軒分はあるであろう庭を抜け玄関へ向かう。
玄関は街にもいた球体の薄く黄色い精霊が明るく照らしている。
チャイムはなさそうだ、扉には鉄の輪っかが付いている。これはチャイムの代わりなはず、手に取りコンコンと叩く
「ごめんくださーい!」
すっかり日が沈み暗くなってしまったな
「奥様、お客様がお着きです。」
「はいはーい」
奥から女性の声が聞こえる
いつも聞いていた覚えのある声
ガチャガチャと鍵をいじる音が聞こえる。
「あら?なかなか開かないわね…どうやってたかしら…」
扉の向こうから聞こえる声に心配になる
ガチャリと鍵が外れる音と共に扉が開く
「はーい、いらっしゃーい」
「た…お邪魔します。」
ファウノの妻であるセレネが迎えてくれる。
やはり母親にそっくりだ、のんびりしてるところまで似ている。
思わずただいまって言いそうになった。
「ユーノさん案内お願いしますね!」
「畏まりました、奥様」
ユーノと呼ばれたメガネをかけた女性は服から見るにメイドさんだろう見た目は的に人族だろう。
凄くキッチリしてそうな人だ。
「では皆様、お食事の時間までこちらへ」
エントランスは目の前に大きな階段があり先の踊り場で左右に別れている。
ユーノに案内され階段を進む、踊り場の壁面には石像が置かれており、その姿は【光の神】アテンに似ている。
「おっきいお家だにゃ~!」
物珍しいのかチャペは楽しそうに周りを見渡している。
「こちらでお待ちください」
ユーノに案内された部屋は学校の教室くらいはありそうな大きさをしている。
中央にはテーブルと複数のソファーが置いてありその上にはシャンデリアが設置されここには複数の精霊がシャンデリアの上で浮かび上がっている。
貴族の応接間って感じがする。
「お待ちいただく間、果物や飲み物を準備いたしましたのでご自由に召し上がってください。」
テーブルの上には様々な果物や飲み物が用意されていた。
「では少々お待ちください。」
一礼し部屋を出ようとするユーノに声をかける
「すみません、トイレ…お手洗いありますか?」
「こちらをご使用ください。」
部屋の片隅にある扉の前までわざわざ案内してくれたユーノが再び一礼し部屋を後にする。
「トイレも広いな…」
入ると共に灯りがつく
ただのトイレなのに装飾が凄い
便器は一般的な洋式の形だ。
異世界のトイレも同じで少し安心する。
ただ、蓋とタンクがない代わりに水滴の形…丸にとんがりが付いているような形の水色の何かが浮いている。
用を済ませたが問題がある。
「これ…どうやって水流すんだろ?」
そう思っていると、水色の何かの黒い点2つがこちらを向く。
目が合う。
「こいつも精霊なのか?」
思わず手を伸ばし触ろうとした時、便器のなかに水が流れる
精霊が反応して水が流れたのだろう、この世界は本当に精霊により生活やインフラが回っているのか…
手洗い器の蛇口の上にも同じ精霊がいる。
手をかざすと水が流れ、再びかざすと水が止まる。
「ほんと異世界なめてたかもしれないな…こういうところは日本と変わらないくらい便利だ。」
トイレから出るとチャペがリンゴを食べながら部屋のなかを見て回っていた。
トゥランは座って飲み物を飲んでいる。
「何か面白いものあったか?」
「ここは獣人族のおもちゃにゃ!他にも色んな種族の物が置いてあって面白いにゃ!」
チャペが持っていたのは骨の形をした木の棒だった。
小さい頃に歯が痒い時に噛んだりしてたらしい。
にぃっと歯を見せてくるチャペには人にはない立派な犬歯がある。
「ほんとに色々置いてあるな」
部屋の壁面には絵画や文化の違いそうな様々なものが置いてある。
用途が分からないものからどこか見たことあるもの、この中で1つ目につくものがあった。
「これは…日本の刀?長さ的には脇座か!?」
手に取り鞘から引き抜くと刀身には綺麗な波紋が走り顔が映るほど綺麗に研ぎ澄まされている。
「それは鬼人族の武器ね!私も始めてみたけど…凄く綺麗、何か洗礼さを感じるわね…」
知らぬまにトゥランが後ろに立っていた。
鬼人族の事はあまり知らないと言っていたから珍しいのだろう。
鬼人族…鬼なのに武器は棍棒じゃないのか。
刀を鞘に戻したその時、部屋に鈍い音が響く
入ってきた扉に何かぶつかったようだ
「ハクト~!助けて~!」
扉の向こうからウルの声がする
急いで扉を開けるとウルとファウノの次女ルナが部屋に飛び込んでくる。
「もう1回やって~!」
おそらく5歳頃であろうルナはひたすらウルを追いかけ回している
「ハクト~!おいらもう限界だよ!代わってくれよ!」
疲れきった目をしたウルがパタパタと頭の上に乗ってくる。
「お兄ちゃん!ウルおろして!」
ルナの頭を撫でながら聞いてみる
「ルナちゃんはウルに何して欲しいの?」
「ウルがね!飛ぶの!足に掴むと飛んでくれるの!」
なるほどな子供は浮いたり飛んだりするの大好きだからな、この頃の癒真も1度楽しくなると何回やっても満足せずに「もう1回もう1回」って大変だった。
頭の上に乗ったウルを鷲掴みにする
「待つんだハクト!なにする気なんだ!」
ウルがバタバタ逃げようとするが離さない
「ルナちゃんは命の恩人なんだからいっぱい遊んであげなさい!」
そう言うとルナにウルを渡す
「お兄ちゃんありがと!」
キラキラした目でウルを抱き締めたルナは部屋の外へパタパタと走っていった
「ハクト~」
ウルの断末魔が屋敷に響き、どんどんと遠くなっていくのだった
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