第38話 転移装置
数々のお宝を手に入れた第7騎士団は、宝物神殿エリアを出ると、第24階層にある転移装置へと向かいました。
- ダンジョン第24階層 -
第24階層は、ごつごつした大きな岩が転々とする荒野のエリアでした。
第7騎士団は、相も変わらず斥候部隊が魔物を倒し、小走りで行軍を続けます。
しばらく進むと、一団は大きな岩の前で止まりました。
山のように大きな岩には洞窟がありました。
「デビット、2人1組で対応させろ。事前に留意事項を確認、徹底させるのを忘れるな」
「了解でござる」
綾姫様の指示で、デビット副団長が騎士達を集めてなにやら説明を始めました。
「駿助とガイアはこっちだ」
2人は顔を見合わると、綾姫様の後をついて行きました。
「何をするんですか?」
「うん? まぁ、訓練だな。お前達は見学だ」
駿助の問いに、綾姫様は淡々と答えました。
「訓練? 転移装置へは向かわないのですか?」
駿助は素朴な疑問を投げかけました。
この階層の転移装置を使うと聞いていたのですから、そう思うのも自然なことでしょう。
「うむ、その転移装置を探しているのだよ」
「へっ?」
綾姫様の答えに、駿助は間抜けな声を漏らしました。
転移装置をこれから探すなどとは思っていなかったと顔に書いてあります。
隣でガイアも目をぱちくりさせています。
「転移装置は大岩の洞窟の中にあるのだが、毎回場所が変わっているのだ。だから、調べて回らねばならないのだよ。面倒なことにな」
綾姫様は、心底嫌そうに肩を竦めてみせた後、口角を上げて話を続けます。
「まぁ、どうせだから、騎士団の訓練を兼ねようじゃないかというところだ」
「転移装置を探すのさえも訓練に結び付けるとは、さすが鬼姫様じゃん」
不敵な笑みを見せる綾姫様に聞こえないほど小さな声で、ガイアが呟きました。
「でも、見学するには近くないですか?」
駿助が素朴な疑念を言葉にしました。
たしかに、見学ならば、もう少し離れていてもよさそうなものです。
「近くで見た方が、お前達の為になるだろ。もう少し近づくか?」
「いえ、ここでお願いします」
綾姫様の提案を、駿助は、すばやく、そして、きっぱりと拒否しました。
騎士2人が、警戒しながら洞窟へと踏み入ろうとした時、咆哮と共に魔物が勢いよく飛び出して来ました。
「グワオオォォォォーーー!!!」
「「うひぃ!!!」」
駿助とガイアは魔物の咆哮に気圧されて、情けなくも尻餅をついてしまいました。
騎士達は、2足立ちして暴れる熊の魔物を相手に奮戦し、あっという間に倒してしましました。
「さて、お前達、いつまでへたり込んでいるつもりだ?」
駿助とガイアは綾姫様に声を掛けられ、ハッとしました。
すっかり魔物の気にあてられていたようです。
「まぁ、さすがに勇者だけあって、ちびらなかったようだな」
「いや、3滴ほどちびったかも・・・」
「駿助汚いじゃん」
要らんことを言ってしまったため、駿助は、綾姫様とガイアから白い目で見られました。
「いや、でもマジでビビった。さすがに近ずき過ぎじゃね?」
「まだ足が震えてるじゃん」
「あれは穴熊という魔物でな、あの咆哮による威圧は強烈で、騎士達の訓練にちょうどいいのだ」
「なるほど、それで訓練っすか」
駿助は得心がいったようです。
「あれの咆哮を間近で受けて、怯まなければ一人前だな。どうだ、お前達もやってみるか?」
綾姫様の言葉に2人は首を横にブンブン振ります。
「確実に死ねます」
「うんうん」
真っ青な顔で真剣に答える2人に綾姫様は吹き出していました。
騎士達が洞窟を調べましたが、どうやら、転送装置は無かったようです。
第7騎士団は、すぐに次の岩山へと向かいました。
訓練として穴熊を退治しながら、いくつも岩山を調べて行きました。
そして、ようやく、転移装置を見つけることができました。
第7騎士団は、綾姫様を先頭に洞窟の中へと入ります。
幅3メートルほどの狭い洞窟は、すぐに行き止まりとなっていました。
穴熊の魔物が巣穴にするには程よい奥行でしょうか。
最奥の壁には魔法陣が描かれていて、綾姫様がそっと触れると、その魔法陣は緑色に輝き、奥へと続く入口が現れました。
「なんかすげぇな・・・」
「ファンタジーじゃん」
目にした不思議な光景に、駿助は驚きを隠せず、ガイアはワクワクが止まらないようすです。
魔法陣が開いた入口を奥へと進むと、そこはドーム状の部屋になっていました。
真っ白な壁は雪で作ったかまくらの中みたいで、騎士団の迷彩装備が目立ちます。
中央に2人用くらいの小さな丸テーブルがあるだけの殺風景な部屋でした。
「えっと、転移装置ってどこ?」
駿助はキョロキョロと中を見回しますが、それっぽいものが見当たりません。
「ふふ、この部屋自体が転移装置といってよいだろうな」
「へぇ、なんか思ってたのと違うなぁ」
微笑みながら答える綾姫様に、駿助が呟きました。
ガイアもちょっと残念そうな顔をしています。
綾姫様や駿助達を中央に、騎士団全員が部屋へ入ると、結構圧迫感があります。そう広くはない部屋なので仕方がないでしょう。
綾姫様は、テーブルの上に赤色と青色の勾玉を取り出しました。
そして、テーブルの中央にある2つの窪みに、その勾玉を嵌めこみました。
すると出入口が真っ白な光に包まれました。
続いて、床と壁、出入口から天井に至るまで、魔法陣が青く浮き出て光り出しました。
魔法陣の光が強くなり、色が青から白色に切り変わると、駿助とガイアが大きくよろめきました。
倒れそうになったところをデビットが支えます。
すぐに魔法陣が白色から緑色に変わり、ゆっくりと光は弱まっていきます。
やがて魔法陣が消えると、出入り口の光がすっと消えました。
「転移完了だ。2人とも大丈夫か?」
「いや、なんかくらっときて・・・」
「船酔いみたいじゃん・・・」
どうやら転移した時に、三半規管が揺らされたようです。
「転移酔いだな。始めて転移したときは、そんなもんだ」
「転移って酔うのかよ」
あっけらかんとした綾姫様に、駿助はげっそりとした顔で呟きました。
- (マ国側)ダンジョン第11階層 -
転移装置の部屋から出ると、全体が木質で出来たような洞窟でした。
洞窟からはすぐに外に出られました。
洞窟の外は、草原に森が点在する景色が広がり、ところどころに巨大な丸太が見えます。その丸太は横倒しになっているのですが、幹の太さだけでも周りの木々よりも高く、その巨大さは、すこし遠近感をおかしくさせるほどに違和感があります。
振り返れば、おおきな丸太にあいた洞から出てきたところでした。
どうやら、こちらのダンジョンでは、転移装置の入口は大きな丸太の洞の中にあるようです。
「ようし、ホームに返って来たぞ!!」
「綾姫様、気を抜かないようにお願いします。家に帰るまでが遠征です」
「そうだな。気を引き締めるためにも、駿助、ガイア、肝試しをするぞ!」
「うぇっ? 何? なんで肝試し!?」
綾姫様の唐突な発言に、駿助は、転移酔いもさめきらないまま叫びました。
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