第37話 ポケット
宝物神殿の隠し部屋でミミックスライムが守っていた宝箱に、倒したミミックスライムの魔石を嵌めこむと、青銅色の宝箱はキラキラと光を放ち、金色の宝箱へと変わりました。
「おおっ!! 宝箱の色が変わったぁ!」
駿助が驚愕の声を上げました。
「今の光、駿助、お前いったい何をやったのだ?」
「あ、いやぁ、ミミックスライムを倒して手に入れた魔石を、宝箱の窪みに嵌めたらこうなっちゃいました」
宝箱をまじまじと見つめながら問いかけた綾姫様に、駿助は、あはは、と頭を掻きながら答えました。
「なるほどな。よし、早く宝箱を開けてみよ」
宝箱の中身がよほど気になるようで、綾姫様がワクワク顔で急かします。
駿助が宝箱を開けると、中には平たい木の箱が入っていました。
シンプルですが、なかなか高級感漂う箱です。
「木の箱が入ってる」
駿助は木箱を取り出します。
「何か文字が書いてあるっぽいけど、読めないや・・・」
駿助は渋い顔で呟きました。
異世界から召喚された駿助は、まだ文字が読めないのです。
「どれどれ、『マジックポケット;この箱を開けた者に使用者権限を与えます』と書いてあるな。ふむ、駿助、開けてみろ」
「えっ?いいんですか?」
「ああ、ミミックスライムを倒したのはお前だ。それに宝箱の色が変わったのは、お前が魔石を嵌めたからだろう。だから、これは、お前の物とするがいい」
「ありがとうございます!!」
綾姫様の寛大な計らいに、駿助は嬉しそうに頭を下げました。
「使用者権限付きのお宝はレアだからな、かなり良いものだぞ」
「マジっすか!?」
目を見開いた駿助に、綾姫様がコクリと頷いて見せました。
木箱を開けると、中からキラキラ輝く不思議な布が浮かび上がり、すうっと駿助のお腹へ張り付きました。
「あっ、これってマジックポケットって言ってたっけ」
「うむ、そう書いてあったぞ」
お腹に張り付いたポケットを見つめながら、今更ながらに呟く駿助に、綾姫様は頷いてみせました。
「お腹にポケットって・・・、どこかのネコ型ロボットみたいだな。秘密道具でも入れろってか?」
駿助が、なんとも言えない微妙な顔つきで呟くと、ガイアが笑い出しました。
なんのことだか分からない綾姫様達は首を傾げました。
ふと、綾姫様が木箱の裏に何か見つけたようです。
「ほうほう、盗難防止に認識阻害がついていると書いてあるぞ。凄いな」
どうやら、木箱の裏にアイテムの詳細説明が書いてあったようで、綾姫は、その内容を読み上げ、感心しています。
「そんなに凄いんですか?」
「ああ、盗難防止は、おそらく使用者権限がないとマジックバックへの出し入れが出来ないのだろう。認識阻害はポケットへ意識が向かなくなる魔法だ。おそらく知らない奴が見た場合、ポケットがあることに気付かないのだろうな」
駿助の問いに、綾姫様が自身の推測を教えてくれました。
「おお、なんか凄ぇな」
駿助は、自分のお腹についた真っ白なポケットを手で触りながら、まじまじと見つめました。
それから隠し部屋をみんなで調べて、他に何もないと分かると、駿助達は祭壇の前へと戻りました。
「ニーナ、マジックアイテム類のリストは出来たか?」
「綾姫様、こちらに」
綾姫様は、ニーナが差し出したリストにざっと目を通しました。
「ほう、この辺りのアイテムはどこだ?」
「綾姫様、こちらにございます」
綾姫様がリストを指さすと、ニーナは祭壇の一角を示しました。
そこには木箱が2つ並んでいます。
「準備がいいな」
「綾姫様なら、すぐにご覧になられるかと」
「ふふ、さすがニーナだ。分かっているじゃないか」
「綾姫様、どうぞご覧ください」
嬉しそうに笑みを浮かべる綾姫様に、ニーナはさも当然とした顔をして見せます。
綾姫様は、おもちゃをプレゼントされた子供の様に、ワクワク顔で木箱を開けました。
「おおっ! これは!!」
木箱から取り出したのは、猫耳のついたカチューシャでした。
綾姫様は、宝物を見つけた子供のように、キラキラした目で見つめています。
「綾姫様、早速つけてみてはいかがですか?」
「もちろんだとも」
カチューシャを付けると、綾姫様のお尻にポンッと尻尾が生えました。
虎縞模様の長い猫の尻尾です。
「うおっ、尻尾が生えたー!!!」
「凄いじゃん!!」
駿助とガイアが叫びました。どうやら2人とも、いや、綾姫様も含め、3人のテンションが駄々上がりとなっている模様です。
「尻尾が動くぞ!!」
「「マジっすか!?」」
「おっ、猫耳も動かせるぞ!」
「「おおおっ!!!」」
綾姫様が嬉々として尻尾と猫耳を動かしてみせると、駿助とガイアが目を輝かせます。
ゆらゆらと揺れる尻尾と、ピコピコと可愛らしく動く猫耳に、第7騎士団の面々も釘付けです。
「もう1つの方は・・・、おおっ、ウサ耳タイプか!」
綾姫様が尻尾をゆらゆらさせながら、もう1つの木箱から、真っ白いウサ耳のついたカチューシャを取り出しました。
そして、綾姫様は悪戯を思いついた子供の様な笑みを浮かべました。
「これは、駿助だな」
そう言って、綾姫様はウサ耳カチューシャを駿助の頭に着けました。
「なんで俺!?」
驚く駿助のお尻に、ポンっと真っ白なウサギの尻尾が生えました。
「ふふん、白い髪に白いウサ耳が似合っているぞ。どうだ、尻尾とウサ耳を動かしてみろ」
「動かせと言われても・・・、っと尻尾動いた!?」
駿助の尻尾がピヨピヨと小さく揺れました。
「かわいい尻尾だな。ウサ耳はどうだ?」
「えっと・・・、なんか難しいな」
どうやら、うまく動かせないようです。
駿助が必死にあくせくしていますが、ウサ耳は微妙にプルプルと震えるだけです。
「ふむ、ウサ耳を動かす訓練が必要だな」
「く、訓練っすかぁ!?」
訓練と聞いて、ウサ耳がビクッと動きました。
「ああ、剣術の訓練よりも優先させなければな」
「ええー、なんでウサ耳優先なんすか?」
顎に手を当て、真剣に考える綾姫様の姿に、駿助が顔を引きつらせます。
「ほう、嬉しそうだな。では、今からウサ耳の特訓を始めようではないか」
「も~、勘弁してくださいよ~」
ニヤリと口角を上げる綾姫様に、トホホと駿助が項垂れてしまうと、ウサ耳もまた、ぺたりと垂れ下がるのでした。
どうやら、ウサ耳は駿助の感情に反応するようです。
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