第12話 残念勇者

 駿助とガイアのペアは、ゴブリンとの戦いを繰り返した結果、ゴブリン1体であれば落ち着いた戦闘を行えるようになっていました。


 そして、今日、第4グループは、初めてのダンジョンへと挑むのでした。



「やあ、『残念勇者白タイツ』君。君もダンジョンへ入るのかい」


 ダンジョンの入口で待機していた駿助に、アーサー・ペンドラゴンが話しかけてきました。


 アーサーは、今回召喚された勇者の中では中堅どころの第2グループに所属しています。


 勇者のグループ分けは、勇者スキルの威力をもとに分けられていて、第1グループが最も高い威力を発揮したグループで、以下第2、第3、第4グループと勇者スキルの威力が高い順にグループ分けしています。


 つまり、駿助のいる第4グループは勇者スキルが弱い者の集まったグループということです。


「誰が、残念勇者だ、こら!」

「ははは、みんなそう呼んでいるさ。二つ名持ちなんて羨ましいかぎりなのさ」

「勝手に二つ名なんかつけるんじゃねぇよ」


 誰が呼んだか、『残念勇者白タイツ』という駿助の通り名が勇者達の間に広まっていました。


「君達弱小勇者班もようやくダンジョンデビューなのさ。だからダンジョンの先輩からアドバイスでもしてあげようかと思って来たのさ」

「ったく、数日先にダンジョンに入っただけで、先輩面すんなよな」


「そう邪険にしないで欲しいのさ。初ダンジョンだと、今日は1階層でゴブリン共と戦うはずさ。外の奴らと違って2~3体同時に襲ってくるから、ビビってお漏らししないように気を付けるといいのさ」

「誰が漏らすかよ!」


 アーサーが駿助を揶揄うのを見て、アーサーの仲間らしき勇者2人が隣でニヤニヤしています。


「ちなみに私達は今日から3階層へと行く予定なのさ」

「ふん、すぐに追いついてやるよ」


「あはははは、無理無理、無理なのさ。召喚された時点で、君達と私達とは随分と差があるのさ。今から追いつかれることなんてありえないことさ」

「ちっ」


 思わず舌打ちしてしまったぜ。

 だが、アーサーの言うことも一理ある。


 召喚された時点で、勇者の間、とりわけ勇者スキルの威力には、かなりの差があるといえよう。


 更には、戦闘センスの違い、まぁ、運動神経の差というのだろうか、それが出てきている。


「それより、君達は自分の命の心配をしておいたほうがいいのさ」

「何だよ、いきなり」


「聞いた話じゃ、1年前に召喚された勇者達の3割が既に死んだらしいのさ」

「えっ?マジで?」


 驚く駿助に、アーサーはなぜか鼻高々に話を続けます。


「当然のことだけど、君達のような弱い勇者から死んでいくのさ。勇者召喚機構が下位にランク付けた勇者達の生存率はやはり低いらしいのさ」

「ちょっと待て、なんだよ、そのランクってのは。聞いてないぞ」


「勇者召喚機構が独自に勇者をランク付けしているって話なのさ。まぁ、私達勇者には秘密にしているようだけどね。噂程度の話はその辺の兵士や職員達の間にも流れているのさ」

「マジかよ」


 周りにいた護衛の兵士たちが、そっけなく目を逸らしました。

 やはり、そういう噂が流れているようです。


 マーロン教官が大きな声で第4グループの者達に召集を掛けると、アーサー達はダンジョンの中へと入って行ってしまいました。


 マーロン教官から、ダンジョン1階層に出現する魔物の情報と、注意事項とを聞いた後、いよいよ、初ダンジョンに挑みます。


 洞窟のようなダンジョンの中は、道幅がかなり広くて天井も高く、ところどころに大きな岩が転がっています。


 ダンジョンの地面や壁面は、うっすらと明かりを放っていて、薄暗くも視界が閉ざされることはありませんが、初めての人間にとってはやや不安になりそうです。


「駿助ぇ、あれって本当かな・・・」

「何の話だ?」


 キョロキョロと魔物を警戒しながら、ガイアが駿助に話しかけました。


「アーサーが言ってたことじゃん、勇者の3割が死んだって話」

「ああ、ガイアも聞いてたのか」


「やっぱり、弱い勇者から死んでいくって本当かなぁ」

「なんだ?ビビってんのか?」


「び、ビビってなんかないじゃん!・・・けど、僕達弱小勇者って言われているだろ。だから僕達が真っ先に死ぬのかなって・・・」


 ガイアが不安そうな顔で俯きました。


「強い奴が生き残るなら、これから強くなればいいじゃないか。勇者機構の連中が言ってたろ、勇者の成長は驚異的だって」

「まぁ、そうだけどさぁ・・・。あー、勇者として異世界に来たのに、弱小勇者なんて呼ばれて、なんか騙された気分じゃん」


「あー、それな。もっとチート能力全開で無双できると思ってたよ」

「そうそう、そして美人の女の子たちと冒険して、ムフフな毎日を送るんだってワクワクしてたじゃん」

「だよなー。現実って、なんか、思ってたのと違うよなー・・・」


 最後は2人で盛大に溜息を吐いていました。

 そんな中、ダンジョン内に大きな声が響き渡りました。


「やばいぞ! ヒュージスライムだ!!!」


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