第215話 リクのダンジョンキャンプ 5
四階層は兄とノアさん、ブランのフォローのおかげで、どうにかワイルドボアを倒すことができた。
ノアさんが落とし穴で足止めをしてくれるので、存分に攻撃できたのはありがたい。
ワイルドボアは今の自分にとっては強敵なため、一頭を倒すだけでもかなりの経験値が入ってくるようで。
黙々と倒していると、頻繁にレベルアップのアナウンスが頭の中で響いていた。
「レベルが上がると、こんなに違うんだ……」
「すげぇよな。体力に魔力も桁違いに増えてる感じがする」
レベルは既に10。昨日はレベル5だったので、一日でかなりのレベルアップだと思う。
腕力や素早さなども、数倍上がっているようだ。
「ブランが見本を見せてくれたから、新しい魔法も覚えることができたし……」
【氷属性魔法】は使い勝手が難しいものだと思っていたけれど、攻撃魔法としてはかなり優秀だと判明した。
雪や氷を出すくらいしかできなかったのに、氷の
「ノアさんの落とし穴とリクの【
能天気な兄の軽い発言に、ほいほい頷く陸人ではない。胡乱げな眼差しで兄に尋ねてみた。
「ちなみに五階層に出るモンスターは何?」
「ワイルドウルフだな」
「無理っ!」
すぐ傍らで不思議そうに小首を傾げるブランを一瞥して、陸人はきっぱりと首を振った。
文字通りの猪突猛進攻撃を仕掛けてくるワイルドボアならともかく、オオカミのモンスターなのだ。
巨体に似合わない素早さと、何より群れで襲い掛かってくる相手をそう簡単に倒せるとは思えない。
「まぁ、俺らも最初は苦労したけど、慣れたら平気だぞ?」
「そう簡単に慣れるものでもないと思う」
そんな風にぼやいていた陸人だが、長兄の言葉通りに慣れた。慣れてしまったのだ。
四階層のワイルドボアを延々と間引いたおかげで、レベルアップと共に魔力量も増えたらしく
「やるな、リク! 俺たちよりも早いスピードで攻略しているんじゃないか」
「それは周りがスパルタ方式だからじゃないかな……っ?」
肩で息をつきつつも、陸人も満更ではない気持ちになる。
頑張ったら頑張った分だけ、結果につながるダンジョンでのレベル上げは意外と楽しい。
(去年はずっと受験勉強で忙しくて、ゲームも一切していなかったからかな……?)
これはゲームじゃなく、
魔法を中心に倒しているからかもしれないが、ダンジョンモンスターを倒すのはとても楽しかった。
「素材や肉がドロップするのが嬉しいよね。ゲームと違って、肉は美味しく食べることができるし」
狩猟が中心だが、休憩がてらにベリーを採取するのも楽しい。
魔法を使うと腹が空く。
美沙が手渡してくれたポーション入りのアップルティーやカロリー爆弾な焼き菓子などを口にしつつ、ボア狩りとベリー狩りを心ゆくまで堪能した。
頃合いを見計らった長兄が笑顔で「じゃあ、次は五階層な」と宣言した時には、頬が引き攣ってしまったが。
◆◇◆
三匹まではどうにか倒せたけれど、群れは五、六匹で襲い掛かってくる。
苦戦する陸人を見兼ねたのか、ノアさんが動いた。適度に弱らせたウルフを陸人の前に転がして、トドメを刺せと促してくるようになったのだ。
「ニャッ」
「え、いや……あの、ノアさん?」
「ニャニャッ」
「ええと……もしかして、これを僕に倒せって言ってる?」
「ニャッ」
「う……え、いいのか、そんなズルして」
戸惑う陸人に、兄が雑に頷いている。
「いんじゃね? 今回はレベルアップも目的だけど、この一週間で十階層へ到達することだからな」
「十階層で、ダンジョン内転移を覚えるため……だね?」
「そうそう。覚えておくと便利だぜ?」
「それは分かっているけど……」
戸惑いながらも、弱ったワイルドウルフの脳天へバールを振り下ろした。
ノアさんだけでなく、彼女の意図を察したブランがせっせと弱らせた獲物を引きずってくるので、陸人は大忙しだ。
トドメを刺すだけの攻撃でも経験値はしっかり入っているようで、レベルアップのアナウンスが脳内に響く。
「うぅん……なんか罪悪感が」
「変なとこで真面目だよな、リクは。こういうのはラッキー、サンキューでいいんだって。ほら、トドメだ、リク」
長兄が無造作にワイルドウルフを殴り倒して、意識のない体をこちらに投げてくる。
「ちょっ……投げないでよ、ユキ兄!」
危なげなく、バールで仕留める陸人。
トドメを刺すだけなら、魔法よりも打撃を与える方が早くて確実、かつ疲れない。
「なんか……猫科の野生動物が子供に狩りの仕方を教えているみたいな?」
「なーん?」
そうだけど? といった表情で小首を傾げる、ふわふわ長毛の三毛猫。
(野良猫も獲物を弱らせて運んでくるんだよね……。僕って、ノアさんにとっては子猫扱い⁉︎)
複雑な気分になるが、着実に経験値は溜まっているので、文句も言えない。
レベルが上がれば強くなるので、せめてこの一週間の間で、一人でウルフの群れを倒せるようになろうと思う。
「レベルが上がったよ! あ、新しい魔法を覚えたみたい」
ステータスを確認すると、【氷属性魔法】のひとつ、【
「氷で盾を作れるみたい」
ちょうど新たな群れがやってきたので、分断するように【
「これはいいかも」
突如あらわれた氷の壁に狼狽えるワイルドウルフたちに、【
「お、一人で倒せたじゃないか」
「うん。でも、これ魔力の消費がすごいや」
腹を押さえて、陸人は苦笑する。
「ほれ、食え。黄金のリンゴのパイだ」
「ん、ありがと。……美味しいね、これ」
さくさくのアップルパイはまだほんのりと温かい。ほどよい酸味のあるアップルフィリングは絶品だ。魔力回復効果のある果実のおかげで、空腹はあっという間に満たされた。
「っしゃ! あとちょっとで下への入り口があるから、頑張れ」
長兄に背を叩かれながら、陸人は立ち上がった。足元にすり寄ってきたノアさんの素晴らしい毛並みを指ですいてやりながら、バールを油断なく持ち直す。
兄曰く、六階層には風光明媚なキャンプ地があるらしい。湖を眺めながら入るドラム缶風呂は格別だと延々と自慢された。
それに、弟たちも大好物のコッコ鳥の肉と卵が手に入る、夢のような階層なのだとか。
鮎やサクラマスを釣るのも楽しそうだ。
存分にそれらを愉しむために、陸人はワイルドウルフの群れに立ち向かった。
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