第188話 クリスマスパーティ


 クリスマスはあいにく平日だったが、シェア仲間である四人で過ごす初めてのクリスマスなので、パーティを開くことにした。

 パーティとはいっても、ご馳走を食べるだけだ。

 プレゼントの交換は迷ったが、お金をかけずにそれぞれが得意なことをすることにした。

 甲斐はダンジョンで食材や素材の確保。晶はその素材を使ってのモノ作り。奏多は甲斐が手に入れてくれた食材を使ってご馳走を、美沙はクリスマスケーキを焼いた。


 ダンジョン五階層から伐採してきたモミの木には晶がハンドメイドしたオーナメントが飾られており、なかなかに良い雰囲気に仕上がっている。

 ツリーの他にも、甲斐が手作りしたクリスマスリースもそこかしこに飾ってあった。


 クリスマスのご馳走作りに張り切った奏多は三日前から仕込みを開始した。

 仕上がった料理は美沙が【アイテムボックス】に預かっているため、どれも出来立てを楽しめる。


 前菜はワインに合うピンチョスを。

 オリーブや生ハム、ガーリックバターやクリームチーズなどの具材をカッティングボードにお洒落に盛り付けてある。

 トマトとバジル、モッツァレラチーズでクリスマスカラーにしたカプレーゼも可愛くて、晶と二人で思わず歓声を上げてしまったほど。


「うふふ。動画の撮り溜めもできたし、イベント料理を作るのはやっぱり楽しいわね」


 上機嫌な奏多が、とっておきのシャンパンを出してくれた。

 皆で乾杯をして、ロゼピンクのシャンパンが満たされたグラスを傾ける。

 華やかで口当たりの良いシャンパンが美味しすぎて、何度もおかわりを頼んでしまった。

 ピンチョスにカプレーゼもあっという間に完食した。

 

「次は鴨肉のテリーヌよ」

「わぁ、綺麗!」

「ブイヨンも美味しいです」


 茹でた野菜と鴨肉を固めたテリーヌは見た目も華やかだ。上品な味わいにうっとりする。

 鴨肉はダンジョンの九階層で仕留めたマガモなので、滋味豊かでとても美味しい。


「美味いけど、ちょっと物足りないかも」


 お上品すぎて、甲斐は一口でぺろりと平らげてしまっている。特に気分を害することなく、奏多はくすりと笑った。


「カイくんなら、そう言うと思って」


 艶っぽいウインクを投げかけられた美沙は打ち合わせ通りに【アイテムボックス】から取り出した料理をテーブルに置いた。

 大皿に飾られているのは、コッコ鳥のローストチキンだ。柔らかなモモ肉をオーブンでじっくり焼き上げており、香ばしい匂いが堪らない。


「すげぇ! しかも、一人一本食っていいの⁉︎」

「もちろん。おかわりもあるわよ」

「カナさん最高ッ! いただきまーす!」


 さっそく、ローストチキンにかぶりつく甲斐。パリパリの皮ごと、がぶりと齧り付いて溢れる肉汁に嬉しい悲鳴を上げている。

 幸せそうに咀嚼する様に誘われるまま、三人も甲斐の後に続いた。

 ガーリックと黒胡椒のきいたローストチキンは赤ワインがすすむ。

 ここからは、焦らすことなくご馳走をテーブルいっぱいに並べた。


 薄切りにした鴨肉のローストは柑橘系のソースが良く合う。

 ワイルドシープのスペアリブ、ワイルドボアのトマト煮込み。

 スコッチエッグはボアとディアの合挽肉でコッコ鳥の卵を包み込んである。そのため、かなりの大物だが、皆で美味しく味わった。

 

「カナさん、これって……!」

「クリスマスキッシュよ。良い焼き加減でしょ?」

「美味しそうー!」


 冷凍のパイシートを使ったから手抜きなんだけどね、と舌を見せる奏多だが、充分だと思う。

 オーク肉を加工した手作りのチョリソー、玉ねぎにブロッコリーにたっぷりのチーズで焼き上げられたキッシュが不味いわけがない。

 ブラックオリーブのアクセントも良い。ブイヨンがきいており、ほうっとため息を吐くけど味わい深かった。


「低温調理器で試しに作ってみたんだけど……これも食べてみる? オーク肉を使ったローストポーク」


 肉料理が続いて申し訳ないのだけど、と前置きされたが、三人とも「喜んで!」と笑顔で受け取った。

 うっすらと赤みの残った豚肉なんて、普段は怖くて口にできないけれど、奏多はしっかり鑑定で確認してくれているので安全だ。

 薄切りにされたローストポークはしっとりと柔らかく、絶品だった。

 ベリーソースも添えてあったが、肉汁をたっぷりと溜め込んであり、単体でも充分美味しいと思う。


「美味しいです、カナさん。クリスマスはローストビーフだと思い込んでいましたけど、ローストオークもありですね!」

「ふふっ。気に入ってくれたなら嬉しいわ。まぁ、私は諦めていないけれどね、牛肉」

「来年は狩れるといいですね、牛のモンスター」


 肉料理を堪能したあとはデザートだ。

 せっかくのクリスマスなので、美沙はブッシュドノエル作りを頑張った。

 残念ながらダンジョンで手に入る食材はコッコ鳥の卵だけだったけれど、大人向けの味付けで仕上げてみた。


「ん、ラムレーズンね」


 奏多はすぐに気付いてくれた。ロールケーキの生地にラム酒に漬けたレーズンを練り込んだのだ。


「ガナッシュがほんのりビターで美味しいです。大人の味ですね」

「えへへ。物足りない人用に甘いスイーツも用意してあるよ」


 ミニシュークリームをツリーのように重ねてベリーやクリームで飾り付けたクロカンブッシュだ。

 ミニシュークリームにはたっぷりのホイップとカスタードクリームを詰めてある。


「おお! すげぇな、これ。弟たちが喜びそうだ」

「さすがに、コレは送れなかったんだよね。弟くんたちクッキーは気に入ってくれたかな?」

「今頃、ラッピングを開いている頃だと思うぞ」


 甲斐がクリスマスに弟たちへ送る荷物を詰めていたので、美沙も便乗したのだ。

 アイシングクッキーをたくさん焼いてラッピングした物をクリスマスプレゼントにした。

 晶は新作のぬいぐるみを三つ、甲斐に託している。ちなみに奏多は手作りのラスクだった。

 なぜか、ノアさんがスライムの魔石を三個ダンボールの中にそっと落としていたのは、あれもプレゼントのつもりなのだろうか。

 雫型が多いスライムの魔石の中では珍しく、球体だ。見た目は綺麗なビー玉そのもの。

 アイツらも気に入りそうだな、と笑顔で甲斐が詰め直していた。


 ちなみに本日はノアさんにブラン、シアンの三匹にもクリスマスのご馳走を用意してある。

 調味料は使わず、素材の味を大事にした肉料理をメインに、ちゃんとケーキも作った。

 チョコレートは犬猫には大敵なので、ヤギミルクを使ったクリームでデコレートした。

 ヤギミルクは牧場で飼っているヤギからのお裾分けだ。我が家で猫と犬(オオカミだが)を飼っていると聞いて、オーナーが厚意で分けてくれたのだ。

 使いどころに困って【アイテムボックス】に保管していたヤギミルクだったが、今回しっかり役立った。

 ブッシュドノエルを食べる際に一緒に切り分けて三匹に提供すると、大喜びで食べてくれた。

 ブランが特に気に入ったようで、綺麗にお皿を舐めきっていた。


 食後のデザートワインを心地良く堪能していると、晶がマジックバッグを手にする。

 ほんのりと酔いに頬を染めた晶がじゃん、とマジックバッグから大物を引っ張り出した。


「私からのクリスマスプレゼントです!」


 そう言って差し出されたのは、何と布団だった。それぞれが好みの色のカバーを掛けられた、ふわふわの羽毛布団。


「もしかして、九階層の?」

「当たりです! カナ兄が頑張って集めてくれた羽毛を詰めたお布団ですよ」

「すげぇ! もう出来たんだな」

「頑張ったのよ、私も」


 羽毛布団はちゃんと四人分あった。

 相当な量の水鳥を狩ってくれたのだろう。素材を集めた奏多と、布団を塗ってくれた晶の二人を甲斐と一緒に拝んでおいた。


「ありがとうございます。ふわっふわだぁ!」


 分厚いけれど、かなり軽い。そっと両手で押すと、ふわりとした反発を感じる。

 とても暖かそうだった。


「今年中には間に合わせたかったので、ほっとしてます」

「ありがとう、アキラさん! カナさんも!」

「おう。これは手放せそうにないな」

「余った羽毛でノアさんのお布団も作りたいです」


 素敵なプレゼントを抱えて、あらためて乾杯する。

 クリスマスが終われば、あっという間に年末だ。

 甲斐は年末年始と里帰りの予定だが、北条兄妹はここに残ってくれるので、寂しくはない。


(去年までは一人寂しく、炬燵で寝正月だったけど……)


 今年は賑やかな年末年始を過ごせそうだった。



◆◆◆


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