第63話 藍苺と書いてブルーベリーと読みます


「このブルーベリー、カナさんが作ってくれたパンケーキにすごぉく合う! 美味しい……」

「生クリームはもちろん、カスタードクリームとの相性も良いですね。バニラアイスに載っけて食べるのも最高……」


 うっとりと瞳を細めながらも、女子二人がパンケーキを口に運ぶスピードは衰えない。

 昔懐かしホットケーキの方が好みだとうそぶいていたはずの甲斐でさえ、無言で貪り食べている。


 うん、奏多さんのスフレパンケーキは絶品だ。ふわもち食感の焼き上がりに感動する。

 レシピ通りに頑張っても、なかなか綺麗に膨らまないので、尊敬しかない。

 特にダンジョン産ブルーベリーのほどよい酸味がスフレパンケーキの上品な甘さをより際立てているように思う。


「ホント。このブルーベリー最高ね。スイーツのランクを一気に上げてくれるわー。ジャムも期待ができるわね、ミサちゃん」

「ですね! 明日の朝ごはんで味見するのが楽しみすぎるー」


 美味しすぎて、一気に食べ尽くしてしまうのが心配なほどだ。採取したブルーベリーの半分は既にジャムに加工してしまった。

 洗ったブルーベリーはテーブルに置いておくと、つい手が伸びてしまいそうになるので、【アイテムボックス】に収納してある。

 二十粒ほどは試しに冷凍庫で凍らせていた。冷凍してシャーベット状にしたフルーツの美味しさはまた格別なのである。

 旬のいちごやバナナを凍らせて、夏にアイス代わりに食べると最高に美味しかったことを思い出した。


(うん、うちの畑の美味しいいちごちゃんも冷凍しておこう!)


 ちなみに我が家では、冷凍庫が着々と増えている。便利屋『猫の手』のお仕事で引き取った中古の冷蔵庫や冷凍庫たちだ。

 晶さんが浄化クリーンで綺麗にして、錬金スキルで弄ってくれたので、新品同様で元気に稼働している。

 冷凍庫にはダンジョンでドロップした大量の肉を保管した。これはご近所さんへのお裾分け用の肉。

 ジビエ肉を大量に購入しているのだろうと思われているので、市販品のお裾分けのテイで渡している。

 ジビエ肉は寄生虫が怖い。

 生肉そのままで渡すよりも、冷凍肉の方が安心に思えるようなので、今ではきちんと凍らせたボア肉やディア肉を渡している。


 毎食、奏多さんに頼り切るのは申し訳ないし、冷凍食品も備蓄を兼ねて大量に買い置きしてあるので、冷凍庫は大賑わいだ。

 大量に作り置きしたトマトソースなどもジップロックで小分けにして冷凍してある。

 

「このブルーベリーでアイスクリームを大量に作り置きしたいなー。いつでも食べられるように」

「ミサさん。私、手伝います!」

「じゃあ、これから作っちゃう? 良さげなレシピを検索しよう」


 料理は苦手だが、お菓子作りは好きな晶さんは即戦力だ。

 何を作ろうか、とウキウキしながらタブレットを覗き込んでいると、甲斐に呼ばれた。


「ミサ、五階層で手に入れた木材、庭に出してくれよ。バスの改装に使いたいから」

「ん、分かった! 中古バスのDIYは順調そう?」

「順調ですよね、今のところ。カイさん、私も行きます。使えるように加工しなきゃなので」


 錬金スキルは素材を最適化させることが出来るらしく、木材の水分を除くことが可能なのだ。

 水魔法でも水分を取り出すことはできるが、素材としてはイマイチな状態になるらしく、もっぱら晶さんが加工をしている。

 ダンジョン産の素材は魔力を含んでいるからか、錬金スキルで加工がしやすいらしい。


 作業場にしている庭の片隅に三人で移動する。奏多さんは夕食の下準備中。

 回収した際には錆と汚れで凄まじい状態だった中古バスは、今では現役と言われても納得できるほどに見違えていた。


「すごいね。新品みたい」

浄化クリーンを何度も掛けましたからね。かなり汚れがこびりついていて、なかなか大変でしたけど」

「錆も錬金スキルで除去してくれたんだよな。すごかったぜー?」


 外装には汚れも傷も見当たらない。ピカピカだ。錆の除去も相当苦労したらしく、晶さんはおかげで錬金スキルのレベルが上がったと苦笑している。

 中に入らせてもらうと、運転席や座席部分は全て撤去されていた。

 バスの形の大きな箱だ。  

 まっさらで、ここから内装を考えてひとつずつ作り上げていくのだと言う。


「いいなぁ。楽しそう!」

「おう、めっちゃ楽しいぞ」


 バスの中では、奏多さんが設置した定点カメラが稼働しているらしい。

 後で見栄え良く編集して動画に上げるのだろう。出来上がりが楽しみだ。


「じゃあ、甲斐が伐採してきた木を庭に出すね。ちょっと離れて」


 かなりの大きさの木々を三本ほど【アイテムボックス】から取り出して、慎重に庭に並べていく。

 晶さんがさっそく木材の加工に取り掛かっている。乾燥と切断を手慣れた様子で行う様は圧巻だ。あっという間に見事な木の板が大量に積み重なった。


「晶さん、さんきゅ! 助かった。この綺麗な木目の板で床を作るよ」

「フローリングの床にするんだね、カイ」

「本当は畳素材にしたかったけど、ダニやノミが怖いからな……」

「あー…」


 虫の問題からは、目を逸らせない。

 掃除をするにしても、フローリングの床の方が楽だった。特に小学生男児はよく飲み物や水を床に撒く生き物なのだと、甲斐が言う。物凄い説得力だ。

 水やお茶ならまだマシだが、たいていがジュースを零すので、さらに厄介なのだとも。


「ちゃんと拭き取ってないと、あっという間にアリが寄ってくるんだよな……」

「そうだね。お菓子クズも気を付けないとだね。外だし」


 アリだけでも厄介だが、ゴキブリが繁殖するのだけは勘弁してほしい。

 甲斐は神妙な面持ちで頷いた。


「……ちゃんと見張っとく」


 四人兄弟の長男は大変そうだ。



 内装をトイレ以外全て撤去した中は、かなり広かったので、どんな家が出来るのか今から楽しみだった。

 木材ならダンジョンから仕入れ放題。せっかくだし、高級な材木を中心に使っても良いだろう。


「トイレももう少し広くしたいし、簡易キッチンもあったら便利だよなー」

「これまで回収してきた家電にミニ冷蔵庫があったから、それも付けちゃいましょう!」

「お、いいな。テンションあがる」


 物作りが好きな二人が盛り上がってしまったので、ブルーベリーのスイーツ作りは一人ですることにした。

 キッチンには奏多さんがいるから、寂しくはない。……寂しくはないんです!


 

 夕食を作る奏多さんの隣で、黙々とアイスクリームを作った。

 甲斐が牧場から貰ってきた乳製品の在庫が大量にあったので、ヨーグルトアイスを作ることにした。

 生クリームとプレーンヨーグルト、ブルーベリーに蜂蜜をフードプロセッサーで攪拌して凍らせるだけだから、簡単だ。

 甘過ぎずに夏にぴったりの味になった。

 ガラスの器に盛ってミントの葉を飾れば、目にも鮮やかで美味しそうだ。

 ヨーグルトが余ったので、ついでにいちご味でも作ってみる。


 残ったブルーベリーはスムージーにした。

 ヨーグルトと牛乳、蜂蜜、ブルーベリーはケチらずたっぷりと使った。

 ミキサーで滑らかになるまで撹拌し、ブルーベリーの粒を三つとミントで飾り付ける。


「あら、これも綺麗ね。良い香りがするわ」

「カナさんもどうぞ。贅沢にたっぷりブルーベリーを使ったので美味しいはず」


 ブルーベリーのスムージーとヨーグルトアイスは皆にも好評だった。

 冷たくて美味しい物はやはり強い。

 鹿肉を使ったロースト料理にブルーベリーソースを使ってみた奏多さんはまだ改良の余地があると首を捻っていたが、柑橘系のソースよりは好みの味だったと思う。


「マフィンやパウンドケーキ、スコーンにも使ってみたいし、また五階層に採取に行きたいな」


 木材の伐採と果物の採取、お肉の確保も兼ねて、明日もまたダンジョンに潜ることになった。

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