第16話 ペルセウスのネックレス
ショッピングモールの一階の入り口にスピード写真の自動販売機がある。そこでパスポートにつける写真の撮影するハンスとエレナの二人。
エレナが、真面目な顔。その顔をは眉間にシワが寄って睨みつける怖い顔。
「何、怒ってっるの?」
「怒ってない」
「顔にシワ。人殺しの顔だぜ」
「違うもん」
エレナ喋っているとシャッターが落ちる。
「邪魔しないでハンス」
笑うハンス。
次はハンス。座ってシャッターを待っていると。
エレナ。カメラに映らないように、ハンスの横のから手を出し、横腹をつつくので、笑ってしまうハンス。
「エレナ。邪魔するな」
笑うエレナ。
そんなたわいもない子供の遊びで、笑い合うふたり。
モールの中央にある食堂広場で、ハンバーガーとジュースとコーラを買うハンス。昔、エレナにおごって貰ったハンバーガーとジュースを、今度はハンスがエレナに買ってあげる。
「今日はリッチだから奢ってやるよ」
貰って嬉しそうに食べ始めるエレナ。 それを見ながらハンスはコーラーを飲み、ゲップをする。
笑いだすエレナ。それを見て笑うハンス。
ハンスはゴミ箱を見つけると、持っていたショルダーバッグの麻薬を全部ぶちまけて捨てる。そしてATMに行き、金を引き出し、そのバックに詰めるだけ詰めて、チャックを閉める。
ハンス外に出ると
「お待たせ。じゃ行くぜ」
バイクに寄りかかり食事をして待つエレナに声をかける。
そして次の目的地である偽造パスポート屋に向かおうとバイクを押し始めると、エレナがハンスの服を引っ張り、聞いてくる。
「ねえハンス。ちょっと寄りたい所があるの。いい?」
「なに?」
「家に寄ってくれない?ちょっとでいいから」
不安そうに顔を曇らせるハンス。
「・・・大丈夫か?」
「すぐに済む。だってほら」
ドレス姿のエレナ。
「服ならここで買えばいいじゃないか。好きなの店に行って好きなの選べよ」
「うーん。服だけじゃなく・・・持ってこなきゃダメなの物が家にあるの」
「大事なもの?」
頷くエレナ。
「・・・そうか」
ハンス、ジュリアのものだと察して
「10秒で済ませよ」
というとハンス、バイクにまたがりエンジンをかける。
「了解」
エレナ食べているものゴミ箱に捨て、ハンスの後ろに乗り、しっかりと腰に捕まる。バイクに乗って走り出す二人。
バイクは再び、町に入り高級住宅街を過ぎて、中級層のマンション住宅街に入る。
そしてバイクはジュリアのマンション。今はパレモとヨナに乗っ取られたエレナのマンションに着く。
二人は降りて、エントランスを抜けて、エレベーターに乗る。
ハンスは、心配で、エレナの前を歩き、階に着くと、人がいないか見回しながら歩く。エレナから部屋のカギを預かり、中を覗くが、静か。誰もいなうようだ。
静かにマンションの扉を開けて、誰もいないのを確かめて、自分の部屋に入るエレナ。一緒に入ったハンスだが、エレナと待つ間は暇。手持無沙汰で台所で冷蔵庫を開ける。
「お、コーラ」
ハンス、缶コーラを掴み出し、封を開けて飲みだす。
エレナ、静かにドレスを脱いで普段着に着替える。
それから貯金通帳や熊のぬいぐるみ・妹のピピ、ジュリアと二人で映っている写真たてを掴むと、小さいリュックに詰み込み、背負って部屋を出る。
そして玄関に向かい、リビングに出て・・・
と、そこで密かに出てきた母親ヨナに後ろから捕まる。
「何処に行ってた、このアバズレ。フランツさんはカンカンだよ。おまえなんか潰してやるって怒ってるよ。あやまってこい」
後ろから掴むヨナから逃れようと暴れるエレナ。
「やめて。離して」
その声を聞いて台所のハンス、コーラを捨ててリビングに行き、押さえているヨナを引き剥し、エレナを立たせる。
「糞ガキ。なにしやがる。強盗だ。強盗だ」
「なにが強盗だ。ふざけんな」
ヨナを蹴り飛ばし、エレナの腕をつかみ玄関から出ようとする。
すると今度はゴルフのクラブを持つパレモが奥の扉から現れ、玄関の手前でハンスの頭を後ろから叩く。
うずくまるハンス。
「くそが、死ね死ね。死んでしまえ」
パレモは床に転がるハンスを背中を、何度も何度も蹴り、踏みつぶして来るので、エレナはハンスに被さって自分の体で受ける。
「どけ、離れろ」
エレナの腕を捩じ上げるパレモ、引き剥がす。
ヨナも加勢してエレナを羽交い絞めにして掴む。
「離して、もう私に関わらないで」
暴れるエレナだが、
「この恩知らずが。誰のおかげて生きていけてると思ってんだ」
パレモはエレナの頬を叩き、黙らせようと髪の毛を掴んで揺する。
床で転がっているハンスは、パレモたちがエレナにかまっているその隙に銃を抜き、パレモの脚に狙いを定めて撃ち抜く。
「うぎゃー」
転げ回るパレモ。
「キャー。人殺し、人殺し。パレモが死ぬ。殺された」
ヨナがパニックになり、エレナを突き飛ばし、絶叫する。
起き上がるハンスは、うるさいヨナの髪の毛を掴んで振り回し、壁に叩きつけて動きを止めて、ヨナの口に銃を入れる。
「ヒッ」
驚いて硬直するヨナ。
「殺してねえよ。本当に殺してやろうか」
手を振って、「逆らいません」の表示をしたので、銃を抜くハンス。
銃声の大きさで驚いて固まっているエレナの前に行き、
「いくぞ」
ハンスを見つめているエレナの手を掴み、部屋から出る二人。
ボタンを押すとちょうど来ているエレベーターの扉が開き、飛び乗る二人。
中に入ってやっと我に返るエレナ。
「凄い音。びっくりした」
「怖いか?」
首を振るエレナ。
「もう慣れた」
笑うハンス。
「一回で慣れたか?」
うなずくエレナにもっと笑うハンス。
一階につき、エレベーターの扉が開くと、エレナの手を引き飛び出すハンス。
エントランスも手を繋いで逃げるハンスとエレナ。
外に出て、バイクに笑いながら飛び乗るエレナとハンス。
乗り走り出すバイク。
マンションを出て、住宅街を出てバイパスに乗り、都市から離れて隣の街に行く。
バイクに乗るハンスとエレナ、その目は二人とも輝いている。
ハンス、隣町の中央で、電車やバスやタクシーが拾える場所にバイクを止める。そこでエレナを下ろすと、
「パスポート造っている所は、ヤバイ場所にあるから一人で行ってくる。山沿いの空港には、先に行ってくれ」
「わかった。空港で待ち合わせね」
言われたエレナ、了解し、バイクにまたがるハンスのほっぺにチューをする。
驚くハンス固まって見つめる。
「約束のチューよ」
「・・・もう一回」
「えっ?」
「もう一回、いいかな?」
見つめるエレナとハンス。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ハンスに近づいて目をつぶるエレナ。
ハンス、バイクにまたがったまま、エレナの唇にキスをする。
「・・・・・・」
エレナ、目を開くと、見つめているハンス。
エレナ恥ずかしくなり、ハンスを突き離す。
「早く、・・・早く行って」
「オッケー、空港でな」
ハンス、元気よく飛び出すの見送るエレナ。
エレナ、バスターミナルに向かい、空港行の路線バスのあることを確認し、時間を確認。まだ時間があるので、町の風景を見まわしながら散歩するエレナだが、ふと気づき思い出す。
「そうだ。ここは」
空港と反対方向にある丘の方の上に立つ高級住宅地を見上げ、歩き出すエレナ。
元ジュリアの持ち物だったエレナのマンションに警察と救急車が来る。
警官と救急車医師はジュリアの部屋に行き、泣いているパレモと叫んでいるヨナを確保する。
警察官は痛がるバレモを救急車に乗せ、大声でさわぎまくっているヨナに事情聴取を始める。
「パレモを撃ったの。殺そうとしたの。撃たれたの。銃で撃たれたの。ハンスっていうスラムのごろつき。そう銃を持ってるの。私の口に銃を入れたの。殺そうとしたの。逃げたの。危なかった。パレモも足だけで済んだ。エレナを誘拐して逃げてる。ハンスを殺して。あんなごろつき殺して」
警察官たちは、一方的に喋るうるさいヨナに懐疑的だが、銃所持ハンスを「エレナ誘拐」「殺人未遂」で無線で指名手配する。
エレナ、タクシーを拾うと坂の上の一等地の超高級住宅街に進んでいく。
そして頂上にある巨大な鉄のゲートを持つ、大豪邸の前でタクシーを降りる。
頑丈な大きな門。
そこにあるインターホンを押すエレナ。
インターホンから重く静かな声で、返事が来る。しゃべりだすエレナ。
「私はエレナ・バンビーナというものですが、ヴォレオー・ミレーヌ夫人にお話がありまして」
「どのようなご用件でございましょうか?」
「『ペルセウス』についてのお話なのですが、お会いできませんでしょうか?」
するとすぐさま、大きな門が動きだし、開いていく。
「中にお入りくださいませ。エレナ様」
とインターホーンから声がする。
豪邸を前にすこし緊張していたエレナ。ほんの少しだけ気合いを入れて、はいっていく。
門から入り口まで長い車道があり、突き当りには古いルネサンス調の白い縁取りがされている赤い宮殿の館が現れる。それは圧倒される程、大きい。
その入り口が開かれていて、初老の痩せた執事が迎えに出てきている。
そしてエレナを招き入れ先導し、エントランスから階段を上り、応接室を案内する。そしてそこで待つように言われるエレナ。
メイドがお茶を運んできたので、それを飲み、待っていると先ほど執事に先導されて、60歳くらいの初老女主人・ミレーヌ夫人が入って来る。
立ち上がり挨拶するエレナ。
「初めまして。私、エレナといいます。突然お邪魔してすみません」
ミレーヌ女主人はエレナの顔を見て、笑って喜ぶ
「あらやっぱり、貴方は有名なエレナちゃんね。初めまして」
「初めまして。」
「お茶、お代わりいかが?」
「ありがとうございます。でも今日は、少々急ぎのものですから。またそのうちにということでよろしいでしょうか」
「本当に急ね。たまたま用事かが無くて、映画にでも出かけようかと思ったけど、家にいて大正解だった」
ミレーヌ夫人、座席に座ると、エレナにも座るように促す。
「それで、なにかしら、どんな用事?」
ミレーヌ夫人、楽しそうに聞いてくる。
「あの、実は今日、来たのは、ちょっと内密でお話がありまして」
うなづくミレーヌ夫人を見てエレナ、話し始める
「2016年に、こちらで盗まれた宝石のことなんですが、盗難にあった宝石の中で、一番大きなダイヤの『ペルセウス』を嵌めたネックレスが戻ってませんよね」
微笑みうなずづくミレーヌ夫人。
「ペルセウス。・・・それがもし戻るとしたらどうします?」
「貴方がペルセウスを持っているの?」
エレナ、うなづき、
「それで実は、そのペルセウスを買って欲しいんです」
女主人ミレーヌ夫人、嬉しそうにだが、ちょっと冷たく
「エレナちゃん。盗まれた物を買えなんて、ちょっと酷くない?」
と言ってくる。エレナも微笑んで話を続ける。
「でもそれは盗難が認められ、保険会社に処理されて保険金が入りましたよね。2018年5月13日に8割の2億4000万」
「まあ、すごい。どうしてそんなこと?」
「私、記憶力だけはいいもので。・・・そのダイヤ・ペルセウスネックレスは時価3億。ダイヤ・ペルセウスの石の部分だけでも2億5000万、もし別々に売り出しても相当な金額になると聞いてます」
ミレーヌ夫人、ゆっくりと頷くと静かに切り出す。
「なるほど要件はわかったわ。ではエレナちゃんは、ペルセウスを私にいくらで買えというの?」
「10分の1、3千万でどうです?」
「どうして3千万?」
「それ以上、私には持って歩けません」
ミレーヌ夫人、エレナの言葉に何度もうなづく。
「いいわ。それならまったく文句ない。それぐらいならすぐに出せる金額だし、いいわよ。買わせていただくわ」
エレナ、うなずくと熊のぬいぐるみ・ペペの背中のチャックを開き、ダイヤ・ペルセウスのネックレスを出す。
目を輝かすミレーヌ夫人、エレナの手からそれを受けとる。
「本物よ。間違いないわ。どうやって手に入れたの?」
「私が拾ったんです。そしてずーっと持っていました」
ミレーヌ夫人、じっと見つけている。
「やっと戻ってきたペルセウス。これは我がヴォレオー家に伝わる幸運のお守りなの」
「わかります。このお星様にいっぱい助けてもらいましたから」
執事が持ってきたビロードの布の上にペルセウスを置き、いつまでも愛おしそうに撫ぜるミレーヌ夫人。
「ねえ、本当にいいの?3千万で?あとで取りにくればもっと上げるわよ」
首を振るエレナ。
「これで大事な願いが叶います。これで十分です」
ミレーヌ夫人、納得して呼び鈴を鳴らし、別の召使を呼ぶ。その召使は、すぐにお金とそれを入れるカバンを持ってくる。
「はい、エレナちゃん」
「ありがとうございます」
エレナ、お辞儀をするとテーブルに置かれたお金を鞄に入れて受け取り、それを持って来たリュックに入れて蓋を閉じる。
「嬉しいわ。有名なエレナちゃんと会えて。また来て頂戴、待ってるから。・・・そして、これのことは内緒ね」
手を小さくパチパチと拍手のように併せながら楽しそうにいうミレーヌ夫人。
「もちろんです」
熊のぬいぐるみ・ピピを抱きかかえ、立ち上がるエレナ。いっぱいに詰まったリュックを背負う。
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