第42話 夏の思い出 その2


海で遊び終わった後、俺たちは花火大会を見に行った。

沙優はあの時と同じように艶やかな浴衣を着ていた。


「どう?」


「ああ…奇麗だよ…」


「ふふっ。ありがと♡」


「さあ…行こうか。何か屋台で食べたいものあるか?」


「う~ん…またあの時と同じように綿あめ食べたいな♪」


「ガキだな~~!(笑)」


「だって~美味しいんだよ?」


「甘すぎないか?」


沙優は少し拗ねた顔をしながら

「ふーんだ…じゃあもうあげないから!」


・・・


俺は沙優が小腹空いた時にとベビーカステラを買ってちびちびと食べていた。

沙優は子供のようにはしゃぎながら綿あめを堪能していた。

「う~ん…やっぱり甘くて美味しいね♪

 吉田さんもちょっとは欲しいんじゃない?」


「いや、甘すぎてな…」


「素直じゃないな~~♪

 ほらまた手で食べさせて あ・げ・る♪

 あーーーん♡」


俺は少し恥ずかしかったが、それ以上に悪戯心が芽生えて

綿あめの欠片ごと沙優の指を吸った。


「あ…ん…」


綿あめの甘さと沙優の指の匂いと沙優の色っぽい声が絡み合い

甘さ以上に心臓の音の煩さが気になった。


「も~~~う、何か吉田さんだけズルい!

 私もお返しにベビーカステラを食べさせて♪」


今度はお返しとばかりにベビーカステラごと俺の指を沙優が吸った。

俺の目を見て悪戯っぽい目で、俺の指先をわざと舌で絡めてきた。


思わぬ破壊力に俺は顔が真っ赤になった。

沙優はしてやったりの顔で


「本当はもっと舐めていたかったんだけど…これで勘弁してあげる♪

 ねえ?…ムラムラしちゃった?♡」


俺は顔を背けるのがやっとだった。


「ごめんね♡

 もう…恥ずかしがらないでよ♪」


沙優はまだ少し自分の唾液がついている俺の手を握って


「花火がもっと見える場所に行こう♪」


俺を引っ張って行った。


・・・


空には盛大な花火が上がっていた。

「…奇麗だね…」

「…そうだな…」


・・・


「吉田さん!ゴミを捨ててくるよ。

 あっ…私居なくなるわけじゃないからね。

 一旦手を放して離れるから寂しいかもしれないけど、

 ちゃんと良い子で待ってるんだよ♡」

沙優は悪戯っぽい笑みを浮かべながら俺の耳元で囁いた。


「ガキじゃないつーの!」


「だって…あの時みたいにすっごく焦って

 迷子の子供のような不安な顔させたら嫌だから…ね♡」


「…そうだな…でも沙優はもう離れないのは分かっているから

 安心しているよ(苦笑)」


その言葉を聞いて、沙優は俺の頬にキスをしてゴミを捨てに行った。


・・・


沙優視点


戻ってくると、あの時と違って吉田さんは慌ててはいなかったけれど、

空をぼーっと眺めていた。

何か考え事しているのかな?


「どうしたの?吉田さん?

 僅かな間でも私と離れて…寂しくて、茫然としているのかな?」


私は意地悪な言い方をした。

本当は少しだけ私がそう感じていたから…


「この間の実家での事を少し思い出していた…」


「実家?吉田さんの?」 


「高校時代に俺が失恋して、自分の無力さに虚しさを感じていた時に…

 沙優がもしも同じ高校生だったら…

 傷ついた俺を慰めに来てくれたのにって…沙優は言ってくれたが…


 多分高校時代に沙優と会っていたとしても…

 その頃の俺では相手にされなかったと思う。


 嬉しい経験や痛い経験、心躍る経験やほろ苦い経験…

 様々な経験を踏まえて今の俺がある。


 それと同様に沙優も良い経験も悪い経験も含めて今の沙優がある。

 それら全てを踏まえて沙優なんだし…それが俺が惹かれている部分だし

 反対に沙優も俺に惹かれている理由でもあるんだろう…」


「…うん…そうかもしれないね…」


「何を言いたいかと言うと…

 今までの経験全て踏まえた上で俺達は出会って惹かれ合っている

 だからもしも高校時代にとか…そんなのは無意味だなって…

 今を…未来を…大切にしよう!」


私は…その言葉を聞いて嬉しいと感じた。

過去は私にとって、普通の人よりも苦い経験が多いけれども…

それも含めて今の私が好きだと言ってくれている…

これからの未来を歩もうって言ってくれている…

ああ…この人は本当に…


私は本当にこの人が大好きだ…

そして私は世界で一番大好きな人に愛されている…

こんな幸せな事があるだろうか?


「吉田さん…」


「うん?」


「吉田さん!」


「だから何だよ(苦笑)」


「私…吉田さんが大好き!!!

 毎日毎日どんどん大好きが大きくなるの…どうしよう?♡」


私は彼に熱いキスをした。



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