第26話 告白と卒業式

卒業式当日、不意に後藤は沙優に言った。

「荻原…校門裏の桜の木に来て欲しい…ま、待っている…」

沙優の返事を聞かず、後藤は行ってしまった。


え?何?告白?…でも私は…どうしよう?


不意に美穂が近づいてきた。

「沙優ちゃんの気持ちは分かっているけど…見込みゼロなのは分かっているけど…

 後藤君の気持ちだけ受け取ってあげて…」

美穂は悲しそうに言った。


「でも…美穂ちゃんは…うん、分かった」


・・・


後藤が指定した場所で待っていた。

凄く緊張した様子で顔を真っ赤にして告白した。

「お、俺は…いつも困っている人を助けようとする優しい荻原が…

 好きなんだ!付き合ってほしい!!」


沙優は落ち着いた口調で答えた。

「あの…私を好きになってくれてありがとう…

 後藤君には感謝している…クラスで孤立していた私を色々と気遣ってくれて…

 でも…私の心の中には…ある人の事でいっぱいなの。

 ごめんなさい。」


「噂では聞いていたけど…やっぱり…か…分かった…

 一つだけ教えて欲しい…その人どんな人なの?」


「性格は…割と後藤君に似ているかもね。

 ぶっきらぼうだけど…真面目で正義感に溢れていてとても優しい。

 その人は…暗闇の中をもがいていた私にそっと寄り添い…

 甘ったれでどうしようなかった私を…叱ってくれて…優しく見守ってくれて…

 親がくれるような無償の愛を初めて私に教えてくれたの…

 傍にいるだけで…暖かくて…居心地が良くて…まるで太陽みたいだった。

 本当に…本当に…大好きなの…どうしようもなく…大好きなの。

 その人は私を待たないって言ったんだけど…私はどうしても諦められないの…

 だから…ごめんね。」


「…本当に好きなんだな…」


「うん♪

 …後藤君なら私なんかよりもっと良い人見つかるよ…案外近くにいるものよ?」


「こんなに人を好きなったことなかったから…分からないけれど…

 荻原…頑張れ…よ。」

後藤は泣きながら走り去っていった。


「…ごめんね…」


・・・


「ぐすん、ぐすん、うぅ~…」

「こら熱血少年…そんなに泣くな…沙優ちゃんには適わないけど…

私が手を握っていてあげるから・・・」

美穂が悲しみを押し殺して微笑んだ。


・・・


「卒業…できたよ…結子…吉田さん…」

校舎を眺めて、これまでの高校生活を振り返り、

沙優は笑って校門を去ることが出来た。


・・・


その夜私はあさみと電話した。

「沙優チャソ!卒業おめでとう!」

「ありがとう。あさみ。」


「そっか~、そんな事が…卒業式でよくあるイベントだね。

 流石は沙優チャソ!モテモテだね♪」

「そ、そんなことないよ。」


「付き合う事は考えなかったの?不器用そうだけど、良い人そうじゃん!」

「もしも吉田さんと出会ってなかったら…

 でも私の中には吉田さん以外考えられないよ」


「吉田っちは幸せ者だな~、でも吉田っち、後藤さんや神田さん、三島さんとは

 食事したりはしているみたいだよ?」


「え~~~、そうなの?ム~~~

 でも仕方ないか…あんなに優しいし…一応待たないって言われてたし…

 私が勝手に…会いに行くだけだから…さ。」


「一途だね~…まあ何だかんだで吉田っちは待ってると思うけどさ…

 しかし、今回の話を吉田っちにしたら…吉田っちヤキモチやくかな?(笑)」


「ダメ!!絶対に言わないで!!万が一にも誤解されたくないし!!!」


「はいはい。全く、沙優チャソは吉田っちにべた惚れだね(笑)」


沙優は電話越しに顔を赤らめて…

「うん♪」

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