ひげを剃る。そして女子高生を拾う。・・・あれから

まかろん

1章 2年後…

第1話 再開 その1

「こんな夜遅い時間に何してるんだ?とっとと家に帰れ!」


「帰る所はあるんだけど、とっても遠いの…だから…おじさん、泊めてよ」


沙優はにっこりと笑った。


「懐かしいな…2年ぶり…か?元気だったか?

 …積もる話もあるし…とりあえず家に来いよ。」


吉田はうっすらと涙を浮かべつつもにっこりと答えた。


「あさみも小説の感想会で家にきているはずなんだ」


っと…


「吉田さん…吉田さん!!

 会いたかった!!会いたかった!!

 ぐすん…約束通り…大人になって…会いに来たよ!」


沙優は涙を流して、耐えきれずに吉田に抱きついた。


「相変わらず…クールな顔して泣き虫だな…」


吉田も少し涙ぐみながら言った。


・・・


「ごめん。感極まっちゃって…我慢できなくなっちゃった。」

「いや…あ、でもあさみを待たせてるんだ」


「それなら大丈夫。実はあさみとはずっと連絡していて…今日は来ないよ?

 私のために内緒で吉田さんと約束してくれたんだ♪」


沙優はいたずっらっ子のように舌を出して笑いながら答えた。


「え?そうなのか!ったく…あいつ…」

「ん?じゃあ家に泊まるのは…」


「ダメ?積もる話もあるし…ゆっくり…話したいの…

 兄さんには…許可もらっているから…」


「よく許可貰えたな!

 こんなかわいい妹が面識あるとはいえ男の家に泊まるなんて…」


「吉田さんは特別なんだよ♪」


ゆっくりと懐かしむように吉田のアパートへ向かう。


「懐かしい…この公園も…夜中に来た事あったな…

 吉田さんの優しさが分からなくなった時に…」


「あの時は…びっくりした…なぜか三島もいて…

 ん?そもそも何であの時三島がいたんだ??」


「ふふっ。内緒♪ユズハさん優しかったな…ユズハさんは元気?」


「相変らずだ…あいつは。ただ仕事面では成長したかな。

 大きなプロジェクトも任されられるようになってな。」


「ユズハさん、凄いね。頑張ってるんだね♪」


そして少し緊張した顔をしながら、俺を覗き込むように聞いた。


「後藤さんも…優しかったな…後藤さんとは…その…進展…あったの?」


「いや…良い関係は築けていると思うが…特に進展はしてないよ。

 たまに2人で焼肉行くくらいの上司と部下の関係…かな?」


「どうして最後疑問形になるの?」


最大の難関だと思っていた後藤との関係性に変化がない事を知って

沙優は少しほっとした顔で笑顔で答えた。


アパートに着いた。そして鍵を開けた。

懐かしい匂いが…あの頃の思い出が…沙優を優しく包んだ


「…ただいま…」沙優の頬に涙が流れた。


「…おかえ…」吉田は、はっとした。別に今日は話すだけだ。


「適当に座っててくれ…俺はお湯を沸かすから」


沙優は座らずずっと涙ぐみながら部屋をじっくりと見回していた…


「懐かしいな~…色々あったな…」心の中で沙優は呟いた。


ピーーーー、やかんの音が鳴った。お茶を入れて、沙優に差し出した。


「あれから…どんな生活していたんだ?」


「うん…あれからね…高校に行って…最初は色々あったんだけど…

 クラスメートとも 打ち解けて…楽しい学校生活を送れたんだ」


「お母さんとも蟠りはあるものの、兄さん含めて、

 食事くらいは一緒にとったりして多少の話はするようになったんだ…」


「吉田さんのおかげでごく普通の楽しい高校生活を送ることが出来たんだよ…

 ありがとう。」


「そうか…それなら良かったよ。

 学校生活が楽しめたならば…良かったよ…」


「でもね…やっぱり私はずっと心に穴が開いていて…」


チクチクチク・・・時計の音が響いた・・・


「吉田さんは…どんな生活していたの?」


「俺は…その…ふ、普通だよ…これまでと同じ様に会社に行って…

 後藤さん、神田先輩、三島ともいつも通り仕事して…

 家では休日にたまにお前が残してくれたレシピを参考に

 料理とかもたまに作ったり…

 まあ…中々上手くいかなかったがな(苦笑)」


沙優は少し切なそうな目になって

「寂しく…なかった?…」


チクチクチク・・・時計の音が長めに響いた・・・


「…あの日…北海道から帰ってきて…味噌汁作ったんだ…

 お前がいなくても味噌汁くらいって…そしたら…くそ不味いんだよ。

 何でこんなもん作れないんだ…情けなくて…涙が出てきた…


 部屋が広く感じてな…お前との思い出が次々と頭の中を駆け巡り…

 大丈夫じゃないのは…俺の方だったと自覚した…

 俺の方がよっぽどガキだった…

 あれから…心に穴が開いてる…そんな感じがずっとしていた…」


あの時の寂しさを思い出し、勝手に涙が流れていた。


沙優は不意に近づき、目を潤ませながら俺の頬に手を当てた。


「私も…寂しかったよ?

  …ずっと…ずっと…お互い…寂しかったね…」


沙優は少し声を震わせながら・・・


「大人になったら会いに行くって約束だったから…

 兄さんの会社に就職したし、今日で20歳になったから会いに来たんだ…

 もう…私、大人だよ?

 あの時…待たねーよって言っていたけど…待っててくれた?

 今…吉田さんの心に…私が入る隙間はありますか?」


チクチクチク・・・時計の音が更に響いた・・・


「沙優と久しぶりに会えて…さっき涙ぐんじまった…

 純粋に嬉しいと思った…

 ぽっかり空いていた心の穴が…今日…埋まった感じがした…

 でも…正直…この気持ちが本物なのか?整理できてない…

 今日の今日だしな…時間が欲しい…真剣に考えてみる」


「ありがとう…考えてくれるだけで嬉しい…」


チクチクチク・・・沈黙が続く・・・

もっといっぱい話したい事があるはずなのに・・・言葉が出てこない

俺も沙優もずっとお互いに黙って見つめ合っていた・・・


「2年…か…随分大人びて…奇麗になったな…

 もうガキなんて…言えないな…」


心の中で吉田は呟いた


・・・


知らぬ間に・・・朝になった


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タイトル再会では?という読者様いらっしゃると思いますが

あえて再開にしてます。

再び会うだけではなく、やり直したいという想いを込めての言葉です。

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