色々書いた詩
榛
詩
『蜜』
蜂は飛び回り、蜜を集める
蜂蜜はいかにも甘そうにとろけており
黄金に輝きながら市販に並んでいる
ここで不思議なのは、
本来花の蜜は薄く、
あっさりとした味わいであることだ
あのとろみはどこから来ているのだろうか
蜂たちが身を削った結果によるものなのだろうか
蜂は、小さな身を削って、
あのとろみと甘さを生んでいるのだろうか
他人の不幸は蜜の味
といった表現もよく目にする
身を削られた結果がとろみと甘さを生んでいるならば
他人の身の欠片が、最上の甘露を生んでいるならば
さぞ、美味かろう。
と、蜂蜜をトーストに塗りたくり、思う
『眠い』
眠い
眠い
とにかく眠い
日なたぼっこに勤しむ野良猫を見る
のんびりしていていいな、オマエは
のんべんだらりと寝そべる姿すら、
持て囃されるのか、オマエは
猫はいい
しかし、多分、ゴキブリはダメだ
猫だから、眠っていようが、
腹を丸出しにしていようが、
持て囃されるのだ
これがゴキブリなら、いるだけで、
嫌悪され、悲鳴を上げられ、潰されて、終わりだ
姿形が違うだけで、
こんなにも受け入れられるし、拒絶もされる
つまり、ダラダラ眠ることを許されたいので、
猫になりたいと願う、春の正午
『意味』
何の変哲もない、フライパンがある
フライパンがホームセンターにあったら、
「それは料理に使うモノだ」と察する
何の変哲もない、フライパンがある
フライパンが美術館にあったら、
「これはどんなアートなのか」と考える
何の変哲もない、フライパンがある
フライパンが自分の手にあったら、
「これは何なのか」と、思うのだろうか
『海の底』
どうせなら、自分が見たことのないような、
そんな未知の世界であってほしい
知らないモノがたくさんあるのだろうな
未知の世界が広がっているのだろうな
願わくば、人類には理解できないような
そんな場所であってほしい
ふと砂浜から空を見上げ、海を見る
風が凪いだ
波がさざめいていた
裸足になって砂浜を歩いている
今、未知の端を歩いている
『ゴミ』
煙草の吸い殻
コーヒーの缶
折れた割り箸
菓子パンの袋
しわくちゃのレシート
落とされたゴミに目を落とす
誰かが吸った煙草
誰かが飲んだコーヒー
誰かが使った割り箸
誰かが食べた菓子パン
誰かが買ったレシート
落とされた記憶を目が拾う
『草』
コンクリ地面に草が生え。
地上にやわらと草が生え。
まっしぐらに草が生え。
震える節節らんらんと。
夜空のもと草が生え。
草、草、草が生え。
コンクリ割れ目に草が生え。
何の草かも花かも知らぬ。
電光照らされ草が生え。
電柱隙間に草が生え。
道端のもと草が生え。
草、草、草が生え。
『羽』
蝶の羽が落ちていた
蝶は片方を捥がれれば息絶えるのだろう
ひとひら程度であれば
これが鳥であれば
抜け落ちたそれを横目に
また空を飛ぶのだろう
蝶は片方の羽だけを地面に残し
鳥は両翼で空を飛んでいる
『朝と昼と夜』
朝は昼を追う
昼は夜を追う
夜は朝を追う
隣り合い滲む輪郭は輪を描き
互いのかすかな尻尾を追い続ける
朝が来る 昼が来る 夜が来る
朝が去る 昼が去る 夜が去る
日が巡る
『下』
展望台から見た景色は、雑多である
ビルがミニチュアのように
クルマがトミカのように
ヒトがゴマのように
大きな街に蠢く
眼下に見た景色は、街よりも単純である
ハイイロのアスファルト
ミドリのザッソウ
クロいアリ
あぁ、アリが横切った
『手』
自らの手を見つめる
紫が薄く見える
赤が見えない
青が見える
見える色こそが生命だとでも?
『パレット』
赤 橙 黄 緑 青 藍 紫
虹の色を全て混ぜれば黒になるという
幼心のまま
言葉通り全ての色を混ぜたことがある
完成したのはどだい黒とは言い難い
汚らしく濁った色だった
ただ混ぜるだけではいけない
全ての色を、均等に混ぜなければ
虹は黒になれない
七色を順に並べて
七色を順に、均等に、混ぜる
それだけのことが、こんなにも難しい
『水面』
たとえば、プールの時間。
潜って、すれすれから見上げた水面。
青い世界。水中の世界。
それは鏡のように。
もうひとつの像が、こちらを覗き込んでいる。
揺らめきながら。煌めきながら。
像を追って水面に顔を出せば、
境界に存在する世界も抜け出てしまった。
そこに足が着く、自分の意思で抜け出せる世界だった。
色々書いた詩 榛 @Maomaon
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