-Winter 後編-タイムリミット、温もり、本当の気持ち-1

 心の膿を吐き出した翼さんは、いつも以上にスッキリした顔を浮かばせていた。


 その顔は、とても清々しくて、輝かしい…これが翼さんの、本当の表情だったのかもしれない…


 心の膿を話してからは「今の彼とは、どうやって知り合ったの?」とか「逆にどうやって知り合うの?」とか、今まで誰にも聞けなかったの話を、俺に聞いてきてくれて…

 俺は、隠さずに掲示板やGPSで、ゲイの人と知り合える出会いの場を教えてあげたんだ。


「へぇ…まだまだ俺の知らないだ…」


「…翼さん、絶対モテますよ?」


「ええっ?!俺が?!」


 あっ…気付いてないんだ…そりゃあ、翼さん…顔も性格もイケメンだからね…


「もし良ければ、出会いの場として使ってみてくださいね?」と俺は翼さんに残して、その日はみんなと合流して、jubeatを楽しむことにしたんだ。


 ◇ ◇


 その後…


 翼さんの本当の気持ちを知ってから、俺の心は揺れ動いていた…


 憧れだった人には、という感情を持ってはいけないとこの1年間、ずっと心に言い聞かせていた。


 絶対に好きになってはいけない…


 それでも…俺の心の中で、の気持ちが芽生えていたのは、隠しきれない事実だ。


 そして今…俺と翼さんは、同じ気持ちを共感出来る仲へと変わった。


 でも、俺には彼氏がいる…俺は、誰が好きなんだろうか…自分でも、どうしていいのか分からない感情になっていた…


 そんな思いのまま…俺は彼と、1泊2日の旅行に行くことになったんだ…


 いつも通り、彼の車でドライブをしながら、目的地の旅館まで向かっていくのに…どこか俺の気持ちは落ち着かなくて…


 旅館に着いてからも、食事を口に運ぶけれど、どこか美味しい味がしない…

 大浴場で身体を癒しても、心の中から…翼さんという存在が消えない…


 全てが複雑で…俺の幸せって、なにが幸せなんだろう…


 と言ってはいけないと思っていた翼さんが、今ではと分かって…

 弱虫な俺は、この事実を知らなければずっと、という気持ちを隠しながら、ただただ、だけでいいと…本当の気持ちを翼さんに伝える事なんか出来ず、ずっと隠したまま過ごしていたはずだ…


 そして、ただ自分が傷つきたくなくて…心の穴を埋めたいがために彼を作って…自己中心的に、動き回ってただけじゃないのか…


 翼さんの存在が…俺から全く消えない…

 むしろ…どんどん温かみを帯びていく…


 ''翼さんって、いっつも傑のこと見てるよね''


 この言葉が…俺の気持ちをどんどん大きくしていた気がしたんだ…


 そんな夜…

 俺は、彼と一緒にベットへ入り、身体と身体を合わせてみたが…なんとも言えない気持ちのまま…俺は、絶頂を迎えることが出来なかったんだ…


 もうだめだ、こんな苦しい気持ち…

 俺には、耐えられないよ…


 ◇ ◇


 -旅行の帰り道


 俺の気持ちは、複雑に織り交じりながら、彼と2人で帰路に向かっていた。


 そんな時、彼からの一言で…俺の心の何かが、一気に崩れ落ちる音がしたんだ…


「なぁ、傑?」


「うん?なに?」


「俺さ…お前に謝んなきゃいけないことあるんだ…」


「…え…な、なに…怖い…」


「…俺な…?実は、今年中にしたいんだ…」


 結婚…え、どういう事…??

 現代とは違って…日本にパートナーシップ制度なんて、存在しない時代…

 そう、この時の結婚はとの結婚を表していて…


「…じ、じゃぁ、俺は…?」


「…今はまだ、考えたくない…でもいずれは…」


「…もういいっ…!聞きたくない…」


 彼は、バイセクシャルだったんだ…この事実を知るまで、彼がバイということも知らなかった…


 待ってよ…俺と付き合いながら、最後は女性と結婚はしたいって…もう…何も考えたくなかった…だって俺は、彼とのを課せられてしまったんだから…


 なんだよ…結局、世間体かよ…!やっぱり俺たちはの恋は…じゃないんだ…!

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