-Winter 前編- 彼氏、告白、心の膿-3

 -別の拠点からの帰り道

 翼さんは、珍しく電車で来ていて俺は、愛を家まで、翼さんは駅まで送ってあげることにしたんだ。


 駅までの道中、助手席に座る翼さんが徐に口を開いた。


「…傑くん、彼女さんとは順調なの?」


 悪気もない翼さんの一言に、俺は何故か動揺を隠しきれなかったんだ…


「…んっは、はい!じゅ、順調ですよっ?!」


「そっか、それなら良かったんだけどね?…彼女さん、どんな人なの?」


 いつも冷静なはずの翼さんが、いつも以上に俺との話を聞き出そうとしてきていて、グイグイ俺に入り込んできた…


 後部座席では、愛もじっと…話を聞いていて…いつもと違う、なんだか張りつめた空気感に、こ、答えるしかないから、とりあえず答えてみたんだけど…


「…そ、そうですね…ちっちゃくて、髪の毛が綺麗です…」


(ま、間違っちゃいねぇ!だって、小さいもん…か、髪だって綺麗にセットされてる…!)


「そうなんだ…彼女さん、可愛いのかい?」


「…っ…!」


 俺はこの

 という質問で…とうとう言葉に詰まってしまったんだ…可愛くなんかない…男だから人なんだ…


 でも…「かっこいいんですよ!」なんて…とても言えるわけがなくて…「なんでかっこいいの?」と聞かれた時の返しが、全く見つからなくて…


 もう、限界だったんだ…これ以上…俺自身が…翼さんにを言い続けることが申し訳なくて…苦しくて仕方なくて…


 俺は、その場で車を停めてしまい…愛の顔を見つめてしまった…愛、た、助けてっ…!

 愛は、直ぐ様に言葉を紡いでくれたんだ。


「はぁ…ここなんじゃないの?傑、ここで逃したら…もっと言えなくなるよ?…翼さんなら…きっと大丈夫だって…!」


 その愛の言葉と共に、翼さんは「…なんの事…?」と戸惑いながら俺の顔を見つめてきたんだ…


 時が来てしまったようだ…神様、お願い…翼さんが事実を知っても…俺から離れていきませんように…


 心でこれからもとして、翼さんがそばに居てくれることを信じながら、俺は1つ1つ言葉を紡ぎ始めた。


「翼さん…今までずっと、嘘をついていてごめんなさい…」


「…ど、どういう事だい…?」


「…俺、実は…彼女とは、付き合っていません…」


「…えっ…?」


「つ、付き合ってるのは…か、…」


「………」


「お、俺…なんです…」


 とうとう…全てを打ち明けてしまったんだ…人生で1番…緊張したカミングアウトだ…

 場は一瞬にして…外の寒さと同じ程に、凍りつくような沈黙が流れていた…


 もう…俺の心は砕けてしまいそうだった…

 怖い……怖いよ…翼さん、どんな風に俺の気持ちを捉えたの…?


 ねぇ、早く…早く、なにか喋ってよ…!


 少しの沈黙の後に、翼さんは口を開き…

「…ご、ごめん…急な告白だったから正直…びっくりした…」


 俺はゴクッと聞こえない音で唾を飲み込んだ… 翼さん…それは…どっちの意味なの…?


「…大丈夫、だろうが嫌いになんてならないよ?むしろ…教えてくれて本当にありがとう…」


 翼さんが…俺を受け入れてくれた瞬間だった…

 嬉しい…本当に…自分の憧れの人が、の事を理解してくれたことが、とにかく嬉しかったんだったんだ…


 でも…でもさ、なんで…翼さん…

 そんな悲しい顔してるの…??

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る