-Spring- 憧れ、新しい友達-3
「…ふぅ、終わったねぇ♪」
翼さんのプレイに、俺は食い入るように見つめてしまい、あっという間に4曲が終わってしまった…
「ははっ、つまらない物を見てくれてありがとね?」
自分のプレイを見られていて。少し恥ずかしそうにしながら声をかけてくる翼さん。
「そ、そんな事ないです!むしろ…凄すぎて…っ!ほんとに凄い…っ!!」
「つ、翼さんは…俺の憧れの人です!!」
自然と俺の口から言葉が溢れ出ていて、随分直球に言えたもんだな…なんて、心の中ではめちゃくちゃ恥ずかしいと思ったんだけれど…
「あはは、ありがとう♪」とニコッと返してくれる翼さんに、俺の心が少しだけドキッとしたのは、そっと端に置いておいて…
「どうやったらそんなに、上手く出来るんですか?」
率直に上手くなる秘訣を、俺は翼さんに投げかけてみたんだ。
「うーん…実はね?俺、仕事も色々あってさ、なかなかゲーセンに来れないから、ネットに上がってる譜面動画ってのを、暇な時に見ては、リズムとか光る配置を覚えて来てるんだ!」
「ほら、遊びに来た時にねっ?絶対にスコアをあげたい曲を絞ってイメトレ見たいな感じかな??」
そう、翼さんのjubeatへの向き合い方や考え方は、俺とは正反対だったんだ…
ただがむしゃらに目の前のモノをこなしていく俺と、計画的に且つ確実に仕留めたいものをターゲットに、時間を見つけては、イメトレと譜面の研究をする翼さん。
プレイの仕方は、人それぞれではあるものの、人のプレイから学び、スコアを上げていくことはゲームだけではなく、どんな場面でも必要であって、大切なんだな…と翼さんに感じさせられた瞬間だったんだ…
「つ、翼さん、俺でも…上手くなれますかね…?」
俺は、今までの努力と頑張りを誰かに評価されたかったのかもしれない…そう、それを出来れば、憧れの人に…
「ははっ!そんな暗い顔しないでっ!傑くんは絶対上手くなるよ?だから…俺も抜かされないように努力する」
「ほらっ!お互い、頑張っていこうね?」
お互い頑張っていこうね?
そうか…少なからずとも、翼さんの中に俺が存在している…!それだけは、鮮明に感じ取ることが出来たんだ…!
「…はいっ!もちろんです…!俺も負けません!…絶対、追いついてみせますからっ!!」
この日から、翼さんが1つの目標となり、そして…俺の憧れの人になったのは、紛れもない事実だった。
◇ ◇
プレイを終えて俺たちは、少しプライベートの話をした。
俺は、翼さんの住んでいる町で仕事をしていることや一人暮らしをしていること。
料理が好きな事など、あらゆる自分のことを包み隠さずに話していったんだ。
翼さんは、経営コンサルタントとして働いている事や今時期も、すごく忙しいことを教えてくれて、その中でも「今日ここで会えてよかった」と言ってくれて…あ、猫も飼ってるんだって!
いつもは、あまり話さない内容で俺たちの会話は、彩られていったんだ。
でも、翼さんにはまだ、俺がゲイだと言うことは伝えられなかった…
いや、伝えたくなかった
なんでだろう…ずっと、憧れの翼さんでいて欲しかった…多分、この気持ちが勝っていたんだと思う。
憧れのままで。それでいいと…それ以上求めて、この空間を失いたくない…
その気持ちがすごく強かったんだ…
そんな2人の会話の中で、翼さんが切り出してくれたのが、コミュニティ内の友達の話だ。
「来月、聖地にみんな集まるみたいだけど、傑くんも来るのかい??」
聖地とは、jubeatが1番輝いて設置されている店舗の事で、俺らは勝手にそのゲーセンを【聖地】と呼び、そこから離れた、俺らがよく行くゲーセンを【拠点】と呼んでいたんだ。
聖地には、色んな拠点からプレイヤーが集まり、交友関係を広げていく…言わば出会いと力の見せつけ合いの場。
その分、聖地や拠点で派閥があるのは、コミュニティから読み取れていて、ちょっとした恐怖心もあったんだ。
俺もコミュニティで知り合った友人が、聖地に集まる話を聞いていて、愛も雄介も行く予定でいたんだけど…
なんでかな、また不安だった…はぁ…なかなか抜けない俺の悪いクセ…同性愛の事なんか、その時さえ忘れられたらいいのに…
「うーん…」と悩む俺に翼さんがそっと
「なら、雄介くんも愛ちゃんも含めて、みんなで行こう?そしたら行きやすいでしょ?」と俺の気持ちを汲み取りながら、優しく提案してくれた翼さん…
(…今の俺なら…大丈夫だよな…愛も雄介も来るし…翼さんもいるんだもんな…)
俺は、翼さんの提案に意を決して「じゃあ…!一緒に行ってみます!」と翼さんに返したんだ。
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