-Spring- 憧れ、新しい友達-2
雄介にカミングアウトをしてから数日後、俺は1人で、ゲーセンに向かっていた。
気持ちを塞ぎ込んでいた俺の心は、今となっては、少し前向きに考えて進めるようになっていた気がして…
堂々とはいかなくても、普通に過ごそう、ありのままに…そんな風に感じられるようになっていたんだ。
◇ ◇
-ゲーセンに着き、jubeatに向かう。
(おおっ…?!今日は、誰もいないな…!)
誰もいない=誰か来るまでやり放題!
誰もいない限り連コインは大丈夫、誰か来たらちゃんと離れればいい。
誰も来ない環境で、筐体の光るパネルをリズム良くいつも通り、叩きまくる俺。
ん?なんだ、今日はやけに綺麗に叩けてるなな…?そう、なんだか凄く調子が良かったんだ。
何曲もベストスコアを叩き出したり、手の動きも安定していて、今日なら何でも出来る!そんな気がしたんだ。
気持ちが高揚していたその時…
「…あれ?傑くん?」
曲が終わった瞬間に後ろから声をかけてきたのは
「…///!翼さんっ!?」
そう、翼さんだった。
この2ヶ月、翼さんとは何度か会ってはいたけど、2人きりで会うのはこれが初めてで…
一目見てかっこいい…その感情はあったけど、好き…その感情はやっぱりなくて…
なんでなんだろう…多分、好きになってはいけない…だって、それで高校時代に大失敗を犯したから…
ノンケを好きになって、隠し通すのが精一杯で…いつの間にか好きな人といる為に、何でもする俺がいて…その当時、流行っていた我慢比べと称した肩パンの餌食になり、自分自身を傷付けてしまったこともあった…
それでも…好きな人から突き放されることが怖かった自分は、自分を犠牲にしてまで好きな人の隣にいたかったんだと思う…
結局、その気持ちは実ることも無く…我慢の限界で俺自身が爆発してしまい…
俺は一瞬にして居場所と好きな人を同時に失ったんだ…
なんにも…悪いことなんかしてないのに…
男の子を好きにならなきゃ良かったのに…
尚更、自分のことが憎くなったんだ…
だから俺は、2度とノンケに恋をしない…そう心に誓っていたんだ…
「珍しいね、今日1人なんだね?」
「はいっ!なんか今日調子良くて!」
「ははっ!調子いい時は、なんでも出来る気がするよねっ♪」
(…俺と同じこと思ってんのかよ…///)
「そうだ、傑くん?良かったら
この店は、筐体が2台あるから一緒に出来るってことで…俺は迷わず「はい!もちろんです!」と翼さんに返してあげたんだ。
いつも通り、2曲ずつ好きな曲を投げ合う。
難しい曲から俺の知らない曲まで…
現に200曲近くの楽曲が、jubeatの中に詰め込まれていたから、俺自身、全ての楽曲に手をつけられてはいなかったんだ。
それでも、着実に成長していた俺…今なら…翼さんに少しは勝てる…かも…!?
そんな訳の分からない、淡い自信を胸に俺たちは。4曲を走り抜けて行ったんだ。
◇ ◇
結果は完敗…全然歯が立たなかったんだ…
「か、勝てません…」
「ははっ、負けません♪」
「…くそっ…」
「ん?なんか言った?」
「…い、いえ!なんにもっ!♪」
自分には、何が足りてないんだろう…こんなに頑張ってきたのに…
まだまだ考えが幼かった俺には、負ける事の意味や理由が分かっていなかったのかもしれない…そう、自分が努力しているなら他の人だって、その分努力している事を理解していなかったんだ。
いつもなら負けん気だけで、我流で行こうと勝手に決め込んで、意地でも他人の動きを認めたくなかったのに、俺は…
「あの…翼さん…良ければやってるところ…見ててもいいですか…?」
翼さんの真似をしたい、技術を盗んでやりたい…そんなふうに感じたのかも知れない…
「うん?いいよ?でも、練習したいんじゃないのかい?」
「いいんです!しっかり見てみたいんです…!」
「分かった、恥ずかしいけど…いいよ?」
翼さんは100円を投入して、俺にプレイを見せてくれたんだけど、翼さんのプレイに、度肝を抜かれたんだ。
翼さんは、綺麗な指使いで光るパネルを確実に、そしてジャストタイミングでタッチしていく…。
まるで筐体に、ピアノの鍵盤が乗っかっているかのようにしなやかに…そして丁寧に指をしならせながら、音楽に合わせてパネルにそっと触れていく…
翼さんの演奏に、俺の身も心も引き込まれていく…
(…な、なんなのこれ…!!…か、カッコよすぎるよっ…!!!)
時折、光るパネルも予期せぬ方向に配置されることがあり、力まなければ、手で取れない箇所もあって…その時は、翼さんの表情も少し強ばる…そんな翼さんの手さばきと横顔を、俺はじっと…見つめていた…
かっこいい、そして綺麗だ…俺もこんなふうに、出来るようになりたいな…!そう、この時から翼さんは、俺の憧れの人に変わっていったんだ…
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