Eleven Back ー君はもう、独りなんかじゃないー

翔(カケル)

プロローグ〜成人式〜

 ''ちょっと時を戻してみようか…''


 -まだまだLGBTという言葉がこんなに世に浸透していない…そんな頃のとある物語-


 ◇ ◇


「うおおぉっ!!!俺ら20歳だぁ〜っ!!」


 20歳を迎えた俺は、大人になった喜びとこれでやっと自由なんだっ!と、どこか意気揚々としながら幼なじみと一緒に、生まれ故郷の成人式へと足を運んでいた。


 式場に着くなり、俺は喫煙室を探した。式典が始まるまで時間もあって、式典は長くなるだろうからと、少し身体に煙を吸い溜めておきたかったんだ。


 喫煙室には、知った顔が何人もいて、当時のワルから如何にもタバコを吸いそうな男女の溜まり場になっている…いや、でも問題はそこではなくて…


「…はっ?!お前がタバコ吸うのかよ?!」

「えっ?!さ、酒も飲むのっ?!!」


 中学時代の仲間と喫煙室で再会し、俺を見て皆は、驚いた様子だったんだ…。


「え、うん…?俺…なんか、変か…?」


「…い、いや…すぐる…なんか、変わったな…?」


「中学時代と一緒にしないでくれる…?そりゃ…社会に出れば、大人にもなるでしょうよ…」


 俺の名前はすぐる


 中学時代、至って真面目ちゃんだった俺は、別に高校デビューとかそんなこともしなくて、19歳で社会に出て、いつの間にか20歳になっていた。


 社会に出てから、タバコも遊びで手をつけて挙句の果てには、辞められなくなってしまって…


 社会でお酒を交わす機会も増えていき、俺ってこんなに酒が飲めるんだ〜…と酒が強かった事実も知れて…なんだ、色々ダメダメじゃん…。


「…タバコってのが、なんか似合わねぇんだよなっ…」


「そうかな?…あっ!車に火、忘れた!ライター貸して!」


 子どもから大人に変わった今、変わったことって会話が少しだけ、大人になったぐらいなのかな?


 中身は、まだまだ子どものままで…変わりたい、でも変わりたくない、出来るのならばこのままでいたい…

 そんな葛藤を抱きながら、俺たち新成人は、日々を過ごしていたのかも知れない…。


 -その後、式典の会場へ足を運ぶ俺たち

 市民会館の大ホールで式典は行われ、各々空いている席に腰をかけて行ったんだ。


 なんだよ、思ったより…みんな変わってないじゃんかっ…ただ、歳を重ねただけで容姿や行動は、昔のままに等しい…周りを見渡しながらそんな事を思っていると


「おうっ!傑じゃん!元気だったか?!」

「……お、おう、ひ、久しぶりっ…!///」


 俺に話しかけてくれたのは、野球部だったモロ、俺タイプの男の子だったんだ。


 中学時代、彼とは仲良くしていたし、むしろ恋愛感情として俺は、彼の事が好きだった…でも、気持ちなんかを打ち明けられることも無く、お互い中学を卒業し、高校はバラバラになって…社会人になってからも連絡を取りあったりするような仲でもなかった…。


「髪…伸びたんだね」


「ほらっ!野球部はさ、坊主が必須だったけど、高校に入って野球を辞めてからは、ずっと伸ばしてたよっ!…傑は、あははっ!変わんねぇなっ!」


 外見だけ見たら、何にも変わってないかもしれないけれど「俺、タバコ吸うんだよ?」なんて言ったら、みんなと同じようにやっぱり驚かれて…


 久々の再会と他愛もない会話、それだけで楽しいし嬉しかったのに、彼から徐に「彼女は出来たのか?」と聞かれた瞬間、俺の胸は、何かでキュッと締め付けられた感覚を覚えたんだ。


「あ〜っ…いないねぇ〜…」


 中学時代の友達に、自分がゲイということは、誰1人として伝えていない。

 むしろ、伝えられなかったんだ…。


 ゲイが同性愛がと捉えられない時代…そして、周りの偏見や軽蔑な態度を見て、自分の考えや捉え方、思考すら変なのかもしれないと、塞ぎ込んでいた時代…。


 思春期を迎え、俺は異性より同性に目が行くようになり、そこにという感情すら芽生えていた、それでも…


 好きとは言えない…

 愛してはいけないんだ…

 だって普通じゃないから…

 そんな苦痛と俺の心は、ずっと戦っていた。


「お前さぁ~モテそうなのにな?」


「はっ?馬鹿にしてる???」


「…ははっ!!んなわけっ!!!」


 はぁ、やっぱり、カミングアウトって難しい…だって、この人は俺をとして見てるんだもん…。


 『お前のこと、好きだったんだ…!』


 そんなことが堂々と言えたら、気持ちも楽なはずなのになぁ…。

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