第12話 秘密の話
放課後、夕日が二人きりの教室を照らし、外からは部活動生の掛け声が聞こえてくる。オレンジ色の空を背景に教室に残っていた紫崎蘭は、鎗本
「今日、何で八雲さんに対してケンカ腰だったの? 珍しいじゃない」
紫崎が窓に背を預け腕を組みながら水影を見ると、水影は顔をしかめた後大きなため息をついた。そして自分の席から立ち上がり、紫崎のいる場所へ机をよけながらゆっくりと歩いていく。紫崎の目の前に行ってから口を開いた。
「別に、大した理由があるわけじゃない。転校初日にお前、あいつが昌のこと睨んでたって言ったろ。だから、あいつの行動がちょっと気になったんだ」
水影は閉め切られた窓に手を当て、外に目をやった。外には烏が一羽、羽を広げ悠々と空を飛んでいた。水影が窓を開けると、夏の生ぬるい風が二人の頬を優しくなぞっていく。紫崎の肩まで伸びた髪が風に乗って揺れた。
「なるほどね。私の見間違いかもしれないのに。日月くん、少し困ってたけど」
「だから?」
「日月くんの前で喧嘩するのはやめてってこと。内容が内容なんだから、本人が喧嘩を止められるわけないでしょ。もうちょっと気にしてあげなよ。ただでさえ、貴方が離れて傷ついてるんだから」
「......分かった。お前こそ、何で八雲と一緒に盗み聞きなんてしてたんだ?」
「一緒に盗み聞きをしていたわけじゃないから! 私が二人の会話を聞いている途中にあの子が来たってだけ!」
紫崎をまっすぐ見つめる水影の表情が和らいだ。紫崎はそれを見ると頬をほんのり赤く染め、わざとらしく視線を逸らす。空調で冷えたはずの教室はわずかに熱を持ち始め、水影は開けた窓を閉め鍵をかけた。それから自分の席に戻ると、机のフックにかけていたリュックを背負う。
「そろそろ帰ろう。暗くなってきたから家まで送る」
「う、うん」
紫崎が鞄を取ったのを確認すると、二人は教室の電気を消して昇降口に向かった。廊下に出ると、外から聞こえてくる部活動をやっている声はどこか遠くに聞こえてくる。
「紫崎は、八雲のことどう思う? 昨日少し揉めてたろ」
「別になんとも思ってないよ。昨日のあれは周りに流された私が悪いんだもの。それに、あの子が言ってたことは何も間違っていなかったし。私たちがやっていることは、八雲さんが言っていた通り汚いことなんだから」
「そうか......そうだな。俺たちは周りに流されて、人を傷つける汚い人間だ。今更前みたいに仲良くする権利も謝る権利も、俺は持っていないんだ」
静かな廊下を暗い表情で歩く二人。申し訳なさそうな、それでいてどこかさみしそうな表情をしていた。もし許されるのなら、また一緒に肩を並べて歩きたいし、休み時間を共に過ごしたいと思っていた。それを許すか否かは昌が決めることだ。
「どういう選択が昌の為になったんだろうな......」
「さあ、どんな選択をとっても日月くんを苦しめていたと思うわよ。あんな状態で私たちと仲良くしていても、彼が一方的に悪く言われるだけだもの」
「あんな状態......昌が俺たちの中を引き裂くなんてこと、するわけないのにな。誰よりも俺たちの背中を押してくれたあいつが......」
「そんなこと言ったって、周りの人が私たちのこと知るわけないじゃない。茶化されるのが嫌で、周りに気付かれないにしてたのはあなたなんだから」
「それはそうだが......」
誰もいない廊下の中、二人は静かに頭を悩ませていた。自分たちは今、何ができるのだろう。日月昌の為に何をしてあげられるだろう。壊れた関係は修復できるのだろううか。そんな疑問ばかりが、紫崎と水影の頭の中に駆け巡った。
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