ドクターカーンと奇妙な患者

しらは。

第1話 ロクでもない親友

 私が親友のロレンスについて言えるたしかなことは、優秀な男に違いないが、いつかその好奇心で身を滅ぼすに違いない、ということだ。


 その日、私の治療院を訪ねてきた彼も、クールで皮肉げないつもの調子を装ってはいたが、その内心には隠しきれない興奮が見てとれた。


 ロレンスは患者のいない私の治療院に視線を巡らせてから、楽しげに声をかけてくる。


「やあドクター、今日も健康そうで何よりだ。医者にとって最大の敵は過労というが、さすがドクターのところは予防がしっかりしているね」


「まあね」


 私は短く答えて、2人分の珈琲を用意する。

 この程度の皮肉で怒っていては彼との付き合いはとてもできない。


「そんなドクターに対し心苦しいのだが、ひとつ仕事を頼まれてほしい」


 そう言ってロレンスは、私の目の前に紙の束を放り投げる。

 私はまだ手にとることはせず、まずは一番上に置かれた1枚にさっと目を通す。

 それはどうやら、あるキャラバンの調査報告書のようだった。


「ウィンチェスタ商会という、王国内を中心に活動している中規模のキャラバンだ。まあそのこと自体は珍しくもなんともないんだが、彼らが違法な商品を扱っている疑惑がある」


 彼はそこで一度言葉を止め、珈琲を口にすると、満足そうに首を小さく振る。

 私と同じく彼も重度の珈琲愛好者であり、あまり共通点の無い2人にとって、分かり合える数少ない嗜好の一つだ。


「それで君のところに調査の依頼がきたってわけか」


「まあ、そんなところさ」


 私はその資料に少しだけ興味が湧いたので、手に取り適当にめくってみる。

 とはいえ私はただの医師であり、やたらと数字ばかりが並ぶその資料を読んでも分かることないので、どんどん読み飛ばしていく。


「しかしそれだと、私が必要な理由が分からないな。この程度の調査、君一人で充分こなせるだろうに……ああ、なるほど。これが理由ってわけか」


 ページをめくっていくうちに、その理由について見当がついたので手を止める。

 それはこんな書き出しで始まる求人募集の写しだった。


『急募 キャラバン付きの医師 ライセンス所持者限定 拘束期間は5~6週間 待遇は応相談』

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