許嫁、お借りします~ヤクザな俺の同棲彼女はS級美少女――だけど彼女には許嫁がいる~

マナシロカナタ✨2巻発売✨子犬を助けた~

第1話 偽りのラブレター

 あれは俺――薬沢やくざわ良太が小学校6年生の時だった。


薬沢やくざわくんへ💗

 放課後、体育館裏に来てください。

 どうしても伝えたいことがあります。

            新垣美衣』


 それはもう可愛らしい丸文字で書かれたピンク色の手紙を手に、俺は放課後、体育館裏へと向かっていた。

 どうしようもない程に期待に胸が膨らんでいる。


 それもそのはず。

 同じクラスの新垣さんは学年一の美少女として有名だったから。


 そして新垣さんと俺は、この前の席替えで席が隣になってから、あれこれ話したりするようになっていた。

 宿題を見せっこしたり、昨日見たテレビの話をしたり、新垣さんが苦手な給食のレバーを食べてあげたり、そのお礼に『とくれんゼリー』を貰ったり。


 そんな新垣さんが俺に伝えたいことがあると、お昼休みの間にこっそり俺の机に手紙を入れてくれたのだ。


 お昼休みの後も新垣さんはいつも通りに振る舞っていたけど、状況を考えるまでもない。

 間違いなくラブレターだった。


 きっと周りにバレないように普段通りに振る舞っていたに違いない。

 新垣さんはおしとやかで恥ずかしがり屋さんだからな。


 実のところ俺は恋愛とかまだよく分からないし、そもそも人間関係があんまり得意じゃない。

 そんな俺でもこの手紙の意図くらいは察しが付いた。

 だってハートマークが付いているんだぞ?


 これで告白を期待しない男子はいないだろうし、かくいう俺ももちろんルンルン気分で体育館裏に向かっている。


 新垣さんはなんて言って告白してくるのかな?

 そして俺はそれになんて答えればいいんだろう?


「なんて言われても、告白を断るって選択肢はないよな。新垣さんは綺麗だし、可愛いし、すごく優しいし」


 できればカッコよくスマートに答えたいところだ。

 せっかく好意を持ってくれた新垣さんに、いきなり幻滅されたくはないからな。


「なんて答えようかなぁ……悩むなぁ……」


 こうして胸をドキドキでいっぱいに膨らませながら体育館裏についた俺を待っていたのは――、


「あはははは! ヤクザのやつ、ほんとに来たし!」

「マジでウケるんですけどwwww」

「しかもあの顔見て! まだ気づいてないみたいだよ(爆笑)」


 クラスでも何かと騒がしい女子グループのメンバー3人組だった。


「え? あれ? なんでお前らがいるんだよ? 新垣さんは? 俺、新垣さんに呼ばれたんだけど」

 状況がさっぱり飲み込めなかった俺は、困惑しながら辺りを見回すが、新垣さんの姿はどこにも見当たらなかった。


 ちなみにヤクザというのは俺のあだ名だ。

 顔が怖くて名字が薬沢やくざわだからヤクザ。

 小学生らしく実に安直で、そして人の尊厳を踏みにじる酷いあだ名だった。


 顔が怖いのは生まれつきだからどうしようもないっつーの。

 笑顔で人を殴りそうな顔で悪かったな。


「ヤクザ~、お前まだ気づいてないのか~?」

「お前騙されたんだよー」

「ぷー、くすくす」


「は? 騙された……?」

 カシャっとスマホのシャッター音が鳴る。


「あのさぁ、ヤクザみたいな怖い顔したあんたに、モテカワの美衣ちゃんが告白するわけないっしょ(笑)」

「ちょっと考えればわかるっつーの」

「ちょ、みんな見てみて! 最高の写真撮れたし!」


「うわっ、なにこれw こっわw」

「このアホ顏、マジでウケるんですけどw 怖いけどw」

「男子ってほんと馬鹿だよねーwww」


「え? え? で、でも俺は新垣さんから手紙をもらって……」


 俺は右手に大事に持ったピンク色の手紙をこいつらに見せる。


「ああ、それ書いたの私だからw 美衣ちゃんっぽく可愛く書けてたでしょw」

「プッww」

「美衣ちゃんは手紙なのことなんて、なんにも知りませーん(笑)」


「え……? え……? ええっ!?」


 まったく想定していなかった事態に、俺は混乱したままただただその場に立ち尽くすしかできなかった。


 手紙のこと、新垣さんは何も知らない?

 書いたのは新垣さんじゃなくてこいつら?


 え?

 ってことはつまり俺が貰ったのは偽のラブレターで、俺はこいつらに騙されたってこと?


「やっと気づいたの?w」

「おっそw」

「ウケるーw」


「じゃ、いいもん見れたし帰ろっか」

「あとでみんなに写真送ってあげよー(笑)」

「あー楽しかったー。じゃーねー、ヤクザ~w」


 騒がしい3人が笑いながら立ち去り、俺は体育館裏に一人ポツンと取り残された。


 状況を理解するとともに、騙された悔しさと、バカにされた恥ずかしさとで胸がないまぜになってくる。

 いつの間にか、俺の右手はピンク色の手紙をきつくきつく握りしめていた。


「う――ぅ――」

 目の前がグルグルして気分が悪い。


 呼吸が苦しい。

 ゼェハァ、ゼェハァと喉から嫌な呼吸音が聞こえている。


 お昼に食べた給食を吐いて戻しそうだった。

 胸がズキズキする……。



 この一件がきっかけとなり、俺は気付いた時には女性と話すだけで気分が滅入る体質──プチ女性恐怖症とでも言えばいいのだろうか──になってしまっていた。


 それが改善することはなく、瞬く間に6年の月日が流れ。

 俺はこの春から大学生になった。



――――――――


お読みいただきありがとうございます(*'ω'*)b


1年ぶりとなる新作の現代ラブコメがスタートしました。


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