第94話 国を継ぐ者





「何と言うか、生前に言っていた通りのままですわね」


「うん、そうだね」


 遺言を見たフォルテとライドは同じ感想を持った。同時に思う、出来ればはっきりさせておいてもらいたかったと。



『動乱期であれば、フォルテが継ぎ、安定期であればライド』



 要約すればそれだけのことだった。では今は?


「ライドはどう思いますの?」


「どう考えても動乱期だよ」


「同感ですわ」


 フォートラントの策略でヴァークロートが攻め込み、大公夫妻が亡くなった。その上で、フォートラント国王の崩御だ。タイミングが良すぎて、怪しすぎる。


「それは色々考えたよ。シャーラは大公国を奪い取れとまで言った。だけど僕は、姉さんが大公を継ぐべきだと思う。強さも人望も兼ねているから。ほとんどの部分で、僕を上回っているから。僕は僕の出来ることをやり遂げるよ。諸卿もそれでいいかな?」


 国務卿、軍務卿、外務卿がそれぞれの表情で同意する。


「ファイン、フォルン、フミネ姉さんもそれでいい?」


「うん」


「わかりましたわ」


「異論はないけど、それでいいの?」


 余りにも爽やかになってしまったライドにフミネは動揺する。サイトウェルに続き、二人目だ。言うなりライドは膝を付き、フォルテを見上げて言った。


「いいよ。中央からして見れば僕が良いんだろうけど、フィヨルトにとっては、多分これが最善だと思う。僕は王都に戻る。姉さんたちも来るだろう? 『追認』の件があるだろうから」


「行きますわ」


「行くしかないね」


 先王陛下の弔問だ。もしかしたら、即位式にまで付き合わされるかもしれない。


「お父様の葬儀、日程の調整が必要ですわね。追認も貰って明確にしてからにしましょう」



 ◇◇◇



 翌日、大公の子供たち5名が壇上に登った。場所は例によってヴォルト=フィヨルタの正門前だ。


「僕は、ファーレスヴァンドライド・ファイダ・フィンラントは、先の大公の遺言を鑑み、姉、フォルフィナファーナがフォート・フィヨルトとなることを明確に支持する。これは政治的思惑を超えた、僕自身の心からの判断だ」


 ライドは衆目の前で堂々としていた。


「僕は未だ戦場に出たことが無い。それにくらべてどうだ、姉のフォルテとフミネ、ましてやファインとフォルンまでが戦ったと聞いた、僕の気持ちはどうだ」


 ふぅっ息を吐き、ライドが叫ぶ。


「悔しい! 僕が王都でのうのうとしていたことが悔しい! せめて王都の動向を察知してフィヨルトに伝えられなかったことが悔しい! 弟と妹が戦場に立ってしまった事が悔しい!」


 それは悲痛な叫びだった。それを聞いたフミネは煽り上手だなって、思ってしまう。これもフィンラントの血なのだろうか。


「だから、僕は、姉さんを推す。フォルフィズフィーナ・ファルナ・フィンラントこそが、フォート・フィヨルトに相応しいと断言する!」


 ライドの言葉は、静かに聞き入れられた。フィヨルトは武の国である。だからこそ彼の悔しさが観衆の心に沁み渡ったのだろう。



「宣言いたしますわ。父母の遺言、弟妹の同意、3卿の合意、これらを根拠として、わたくしはフォート・フィヨルトになりますわ!」


 観衆はフォルテに注目する。ここら辺が彼女のカリスマだ。強い。


「先日、同時に起きた甲殻獣氾濫と、その後のヴァークロート侵攻。フィヨルトはそれを全て防ぎきりましたわ。街や村はもちろん、畑すらも。ですが、多くの甲殻騎を失い、戦士を喪いましたわ。今は怒りを胸に秘めましょう。悲しみを心に込めましょう。そして、尽力するのですわ。3年! 3年以内に、フィヨルトを今より精強に、豊かにして見せますわ!!」


 フォルテが宣言する。そして溜める。


「わたくしはフォルフィズフィーナ・フィンラント・フォート・フィヨルト。女大公ですわ!!」


 今度こそ歓声が爆発した。



 ◇◇◇



 さて、フォート・フィヨルトとなったフォルテであるが、問題が一つあった。連邦において新たなる国主は、中央の『追認』を得ることが必要なのだ。本来は儀礼的意味合いしか持たない。『承認』でも『合意』でもないのだ。ただ、今回のケースはどうなるのか。


「さて、出陣する面々ですわね」


「出陣って言っちゃったよ」


「似たようなものですわ」


「まあね」


 やたら交戦的なフォルテであるが、フミネも半分同意だ。


「わたくしとフォルテ、ライドとシャーラ、外務卿ですわね」


「全滅したら国が傾くね」


「ですが、必要な人員ですわ」


「追認、外交、ついでに弔問と戴冠見物だね」


「まったく面倒なことですわ。とっとと行って、さっさと帰ってきますわ。機動甲殻小隊で行きますわよ」


「じゃあ、アレをライドに見せてあげないとね」



 ◇◇◇



「これは!」


 ヴォルト=フィヨルタ内の工廠に連れてこられたライドとシャラクトーンは絶句していた。そこでは3騎の甲殻騎が整備されている。1騎は言わずもがなのオゥラ=メトシェイラ。もう2騎は、『白金』の取り巻きであった大型個体から組み上げられた、いわばオゥラくんの姉妹騎になる。


「今回はこの3騎で行きますわ」


「けれど姉さん、僕とシャーラは」


「跳躍機動ですわね。2日あげましょう。練習なさい。ある程度で構いませんわ。その後は道中で実地訓練ですわ」


「外務卿たちは、もう必死にやっているわ。その内、跳べない者は騎士と呼べなく時代が、来るかもしれませんね」


 フミネがトドメを刺しにいく。


「……やります。わたしはやります。フィヨルトの機密にして最新騎体。体験せずしてどうしましょう」


 シャラクトーンが言い放った。それ顔はライドを向いている。


「わかった。やるよ」


 悲壮な覚悟が伝わって来た。やるしかない。


「そういえば名前が決まっていませんわ。ライドはどうしたいのかしら」


「ファインとフォルンは、ニホン語で付けてもらったんだよね。『メトシェイラ』も。ならフミネ姉さん、狼にちなんだ名前ってあるかな?」


「うーん、『フェンリル』はフェンに付けちゃったし、ここはまんまで、いやちょっとイジって『ハクロゥ』なんて、どうかな?」


「いいね。うん、それにするよ」


 ということで、ライドとシャーラの騎体は『ハクロゥ』となって。なんともニホン語であった。珍しい。


 そして今日から、二人の特訓が始まった。これまでに培われてきたノウハウはある。後は二人の努力次第だ。



 さて今回の王都行。何日で到着するのやら。そして、無事戻ることは出来るのか。


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