第66話 フォルフィズフィーナとぶ
色々と失敗を積み上げてきた。
まずは、甲殻騎に取り付けるサイズのドライヤー、もとい、『風熱核石式噴進装備』の作成は簡単に終わった。長さ2メートル、直径70センチという、やたらデカい筒状の物体がオゥラくんの背中に取り付けられ、操作兼モニター用の腱が操縦席まで延ばされた。
「じゃ、じゃあやるよ、フォルテ」
「ええ、行きますわ!」
ゴクリと喉を鳴らすフミネに対し、フォルテは元気いっぱいだ。なにせ練習はしてきたのだ。
当初フォルテは、ドライヤーを12個ぶっ壊した。出力過多である。ファイトンは目頭を押さえ、フミネはパワーと支出に戦慄した。それでもなんとかかんとか、いいから抑えろという周りの掛け声の元、フォルテは壊さずにドライヤーを使えるようになった。ここまで3日。
満を持してのテストである。
「試験、開始!」
「ぬうあぁぁぁ」
フォルテがお嬢様が出してはいけないような気合を見せるが、今更だ。しかし、風熱……、もうスラスターでいいだろう。フミネも心の中ではそう呼んでいるわけだし。しかしそれは、うんともすんとも動かなかった。
「背中! 背中に集中!」
「おうるぁあぁぁ」
掛け声ばかりであった。
「あうっ!」
「どうしたの!?」
「なんか肩のあたりがピキってなりましたわ。ちょっと、いえ凄く痛いですわ!」
「だ、大丈夫!?」
「大丈夫ですわ。……大丈夫じゃないですわ!!」
「どっち!」
という感じで第1回試験は散々であった。
◇◇◇
「まずは自分の身体をスラスターに慣らすことにしよう」
「わかりましたわ」
もう面倒なので、フミネは日本語で『スラスター』って言うんだよと、その名を浸透させてしまった。日本語ではない。
そんなフォルテは今、凄い状態になっている。オゥラくんの背中から外したスラスターの後方には、二つの取っ手が付けられており、右取っ手にソゥドを流せば作動する仕掛けになっている。もうファイトンくんの活躍が目覚ましい。
身長165センチくらいで標準体型の女性が、長さ2メートル、幅70センチの筒を持って正面に構えている光景を見たフミネは、伝説の巨神か何かかと思ってしまっていた。あくまで自然体で堂々と屹立してスラスターを前方に構えるフォルテは格好良いのだ。
「いい、あんまり踏ん張らないで。最初は軽めに、段々強くしていって感触を掴んで」
「やりますわよ! 稼働ですわ!」
ごおおぉぉぉ!!
「にゃああぁぁぁ、ですわあぁぁぁ」
予定通り、フォルテは後方に吹っ飛んだ。まあ予想されていた通りだったため、30メートルほど後ろには藁ので出来た緩衝材が積まれていたわけで、フォルテはそこに突っ込み停止した。
「いや、だからさあ」
フミネたちが駆け寄り、大公令嬢の無事を確認する。
「でも、飛びましたわ。飛べましたわ。もう1回ですわ!」
フォルテに火が付いた。その日、フォルテは20回ほど吹き飛び、最後の方では、見事に着地を決めるようになっていた。フォル・ザンコーの時もそうだったのだが、彼女は出来るまで考え、模索して獲得するまで努力するタイプの人間なのである。
◇◇◇
さらに翌日、ファイトンが持ってきたのは、背中に担ぐタイプに改造されたスラスターだった。取っ手は外され、代わりに背中に固定できる皮ベルトが準備されている。起動用のソゥド伝達は、これまた甲殻腱によって手に握り込むことで実現されていた。
実はこの甲殻腱、ファイトンによって随時改良されており、今では三重に編み込まれ、さらには内部甲殻獣の脊椎神経を仕込むなど、強度とソゥド伝導性の高さを誇っている。フミネの適当な吹き込みだったが、ファイトン最大の発明はむしろこちらとすら言えるだろう。
「もうわたしから言う事は無いわ。というか言っても無駄だと思うし」
「お任せですわ!」
その日、フォルテは飛んだ。
さらにその後、フォルテの要求で中型スラスターを2本装備した背嚢が開発された。ならばとフミネはそれを動かせるように出来ないかと注文を出す。そしてファイトンはそれに応えた。ついでに共同試験担当者、つまりは双子にも小さいのを造った。造ってしまった。
その後の事は言うまでもない。
きゃいきゃいと飛ぶと言うか、自由に跳ね回る3人の姿があった。フェンも喜んで駆け回る。
「いやあ、アクティブだねぇ。わたしも飛びたいなぁ」
遠い目をしたフミネの言葉を、フォルテは聞きつけてしまった。
「では一緒に飛びますわ。フミネも慣れておいた方が良いですわ。ファイトン、準備は出来ている?」
「はい。前方固定装具ですね。言われた通りに」
「えええええぇぇぇ!?」
その日、フォルテの前方に固定されたフミネも、飛んだ。
◇◇◇
「で、この報告はなんだ?」
「はっ。お嬢様方曰く、父の驚く、もとい喜ぶ顔が見たかったので、形になってから報告したかったとのことです」
国務卿ディーテフォーンにしても1時間前に渡されたばかりの報告書だ。ひと読みしてから、大公の執務室に突撃をかけたのだ。息が荒い。
「本日の予定は全て破棄。全員だ、関係者全員を呼べ」
「はっ!」
「他には、メリア、軍務卿、外務卿、各騎士団長、もちろんお前もだ!」
「ははっ!!」
「秘匿だ、秘匿!! 絶対に隠し通せ!! 直ぐにだ!!」
大公の声が響き渡った。何回目だ。
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