第63話 公都に帰って、やらかそう
オゥラくんは『白金』を背中に乗せる様に停止していた。『白金』既に死んでいるのだろう、ぴくりとも動かない。これが死んだふりなら大したものだ。目にはオゥラくんの腕が肘まで突き刺さっているので、目の光が消えたという表現は使えない。
「追撃だ! 背中を見せたぞ。狩り放題だ! アレッタ、コボル、お嬢たちの保護!」
クーントルトが命令を下す。オゥラくんと『白金』の戦いに見とれていた者たちは、一気に逃げに転じた甲殻白狼を追撃し始めた。
「特に大型を狙え! 1匹残っているじゃないか」
それは、サイトウェルとオレストラが相手をしていた大型白狼だった。完全に背を向け、真っ先に逃げている。
「くっ、不甲斐ない」
「申し訳ありません!」
「いいよ、防御主体なる2騎なのは分かっていて命じたんだし、気にしないで」
落ち込む二人をクーントルトは慰める。元より織り込み済みだ。彼女は本気でそう思っている。
結果、多くの中型個体を倒すことは出来たが、大型1体と多数の小型には逃げられた。小型は後回しにされていたので仕方のない結果だ。
「ふむ、これで縄張りがどうなるかな」
大公の懸念は未来にあった。
「南西に向かったようですし、元の巣に戻ったと思われます。数年は問題ないかと」
第1騎士団副長、フィートが答える。東や北に逃げられていたら、かなりマズいことになっていたと、示唆していた。
「お嬢! フミネ様!」
そんな時に響いたコボルの声に、全員が振り返った。
「泣かないでくださいよ! どうしたんですか!?」
続くアレッタの叫び声に、皆が駆け寄った。
◇◇◇
「ぐすっ、ぐひっ。だって、だって」
「泣かないでくださいですわ、フミネ。ずびびっ」
「オゥラくんの腕が、腕がさあ、騎体も傷だらけで、甲殻割れてるし」
「仕方がないですわ。直せますわ」
「ごめんね、オゥラくん。わたしが不甲斐くて」
「わたくしからも謝罪いたしますわ。精進して、もっともっと上達いたしますわ」
物言わぬオゥラくんであったが、二人が甲殻装甲にそっと触れると、薄蒼く輝いたような、そんな気がした。
そんな二人を見ていた騎士たちが、膝を折る。これこそが騎士の魂かと、フィヨルトで最も新米な騎士であるはずの二人に教えられたのだ。各々は自らの騎体に触れ、帰ったら自ら磨いてやろうと思いを新たにした。
「さあさあ、湿っぽいのはそこまでにして、とっとと撤収するよ!」
敢えて大声でクーントルトが言う。
「フミネ、貴女はよくやったわ」
「メリアさん……」
「あら、お義母様とは言ってくれないの?」
「それはまだちょっと、なんというか」
「お義父様とは言うくせに」
「あれは、おねだりしてるだけで」
「それはどうなのだろう」
「お父様にはそれくらいが良いのですわ」
親子4人の会話に、周りがほんわかとしていた。大公だけが微妙な表情だ。
◇◇◇
結局、白狼の素材関係が凄いことになったので、往路で集められた素材は殆どが廃棄となってしまった。代わりと言ってはなんだが、大型上級個体『白金』である。しかも、眼窩以外ほぼ傷の無い超一級品だ。これを中央に流したら、どんなことになるか。相場が荒れる。
それ以外にも白狼の大型が2体分。一体はライドに回すと大公夫妻は息巻いていた。もう一体は、フォルテとフミネの新騎体の装備用と、ファインとフォルンのベアァくんにも使われる予定だ。綺麗な白色の甲殻なのだが、フィヨルトにかかれば、まあどういうペイントにされるのかはお察しだ。
「ふんふん、ふふーん」
「ご機嫌ですわね」
「うん。フォルテだってそうでしょう」
「まあ当然ですわ。これだけの大物で造る新生オゥラくんを考えれば、高鳴りますわ」
帰りの道中、両肘から先を失ったままの、オゥラくんの上での二人の会話だ。
「そうだね、でもそれだけじゃないんだよ!」
「なんですの?」
「『白金』にあった大型の風核石!!」
「核石を変えたら、それはオゥラくんではありませんわ! 認めませんわ!」
「そもそも無色じゃないから核石には使えないんでしょ。わたしが考えているのは別の事」
「何を仕出かすつもり、ですわ?」
「すっごいこと。だけど、まだどうなるか分からないから、実験実験。それでさ、残り二つの大型上級とか他にも、熱の核石持ってそうなのいるのかな?」
3騎を使って、ずりずりと『白金』を引きずる騎士たちは、フミネの言葉に戦慄するのだった。
◇◇◇
さて極秘裏に、いつかはバレるにしても、こんな事を外部に漏らすわけにはいかない。よって、先行した2騎によりヴォルト=フィヨルタは厳戒態勢に入り、極秘裏に一行は公都入りした。元々、『新たなフィヨルト最高騎士を見定めるのための長期野外演習(なお過保護により、全騎士団団長同行)』という、かなり微妙な作戦要綱建前だったのに、予定を1週間も越えていたのだ。ヤバい。
「ふぅ、なんとか帰って来られましたわ。情報も秘匿されたようで何よりですわ」
本当にか?
「さあ、やるわよやるわよ。ここからは知識チートの時間。ああ、グレッグさんにもお話聞かないと」
ちなみにグレッグさんとは、食肉用甲殻獣専門の狩人さんの元締めだ。『白金』討伐行の前に、フミネは彼にお願い事をしていたのだ。
甲殻牛とか猪なんかの、なるべく草食系でついでにミルクを出すようなのの赤ん坊を、とっ捕まえておいてくれ、と。
フミネの内政アンド知識チートが始まろうとしていた。
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