第48話 突撃! 王立騎士学院





 悶々と眠れずに一夜を過ごしたライドを他所に、早速翌朝フォルテとフミネは行動を開始した。


「王宮は無視ですわ。わたくしたちの目的は一つですわ」


「わかってるって」


 目指すはそう、王立騎士学院である。



 ずしぃぃん、ずしぃぃん。



 オゥラくんが貴族街を闊歩する。騎体の色からか、それとも迫力からか、人々は道を避ける。だがその歩みが優雅、流麗であることに気づく者もいた。


「あの色って、フィヨルトだよな。なんでこんなところに」


「変わった甲殻の配置だ。どういう調整なんだ」


「妙に足音が軽いな、どこかで軽量化をしているのか?」


 一部甲殻騎マニアらしき者も混じり、オゥラくんに注目が集まっていた。しかしそれでもフォルテとフミネは動じない。堂々と歩き続ける。



 王立騎士学院は貴族街と平民区画の間に、広大な面積を誇っている。実に王都ケースド・フォートランの5パーセントに当たる面積を占める。


 そしてそれ以上に、この学院の存在を確固たるものにしている理由がある。貴族たちが3年間通い学び立場を得ていくこと、もう一つは各種認定制度だ。この学院にて与えられる各種の証は、連邦全土において絶対の意味を持つ。フォートラントが連邦の盟主たる理由の一つが、この学院であった。


 今その名誉ある学院に、二人の容赦無い暴風が訪れる。言わずもがな、フォルテとフミネである。一度は騎士失格として卒業していったフォルテが、片翼を得て再び現れたのだ。



「これは、フィンラント大公令嬢様。本日はどういったご用件で」


 貴族街側の門にたどり着いたオゥラくんを見上げ、衛士が質問する。


「お勤めご苦労様ですわ。今日は、証を得るための予約に参りましたの」


「なるほど、それは」


「わたくしは右騎士、こちらのフミネは戦士と左右両騎士ですわ」


 フォルテは宣言するように、目的を告げた。


「門前ではなんでしょう、駐騎場へ案内いたします。その後、担当者を呼びます」


「感謝いたしますわ」



 ◇◇◇



「あ、証をお求めという事ですね。お、おお、お二人の意思確認と、しょしょ書類への記載をお願いいたします。ごめんなさい」


 担当者と呼ばれた30代くらいの女性は、ビビりまくっていた。


「あの、そんなに怯えなくても」


「そうですわ、失礼ですわ」


「ちょっとフォルテ、追い詰めないで」


「仕方ありませんわね。わたくしは右騎士をとりあえず最低でも1級、出来れば特級ですわ」


「と、と、特級っ!?」


 哀れな程に怯える担当者を他所に、フォルテが続ける。


「ほら、フミネも意思表示をしてくださいな」


「はい。わたしは、戦士と左騎士の証を最低で1級、出来れば特級を希望します! 右騎士は何級でも構いません」


 担当者は何を言われているのか分からなかった。特級? 数年に一度現れるかどうかの希少な存在だ。ここ数年では、あ、目の前の大公令嬢が戦士特級を持っていた。それが再度押し寄せて、特級を所望していらいらいらっしゃる、って、ああ。


 昨年度は、それと左騎士特級がもう一人いた。他にも1級が何人も。伊達に『黄金の世代』とは呼ばれていない。


「かしこまりました。特級判定に相応しい場を用意いたします!」


 知るかと。これはもう自分の責任ではない。しかるべき場所にぶん投げ、適正な判断を仰ぐだけだ。繰り返す。自分は関係ない。


「合格を期待しています」


「有難うございます!」


「感謝いたしますわ!」


 担当者の目に、爽やかな悪魔としか思えない二人の笑顔が焼き付いていた。



 ◇◇◇



「さて、用事は済みましたわ。これからどうしましょう」


「王都観光と行きたいとこだけど、あれだけ大口を叩いたんだし、特訓しよう」


「特訓、良いですわ」


「試験までどれくらいか分からないけど、やるぜー」


「その意気ですわ」


 彼女たちに王都観光とかいう考えはなかった。



 そして2日後。学院から連絡が届く。


「5日後の昼過ぎかららしいですわ」


「じゃあ、そこに合せて調整だね」


「それと、ライドも呼ばれていますわ」


「どうして?」


「なんとなく想像はできますわ。わたくしたちが証を求めに来たことは、どうせすぐ王宮に伝えられたでしょうし」


「ああ、なるほど。それじゃ親玉が出てくるのかな」


「どうでしょう。どちらでも関係ありませんわ」


「ははっ、そう」


 フォルテは完全に振り切っている。むしろ自由を得て、フミネまでもが現れ、毎日が楽しくて仕方がないくらいだ。


「あと、そうですわね、学院が観衆を入れたいそうですわ。学生たちの後学のためだそうですわ」


「それ、王太子殿下の匂いがしない?」


「さあ。でも結構。どんとこいですわ。まずは戦士特級とれますの?」


「うーん、1級くらいが限界かなあ。相手は誰なんだろう」


 フミネとしては、一人の武術家として特級に興味はあるが、今は甲殻騎でどこまで行けるかに興味が向いている。


「まあ、必殺技もあるしね!」


 必殺技とはなんぞや。


「あれを必殺とは呼ばないのでは。むしろ滅殺技ですわ」


「いいね、それ。そう呼ぼうか」


 のんびりとした会話ではあるが、彼女たちの心は冷静に燃え上がっていた。



 王都の連中よ、見物するのは構わないけど、覚悟はできているんだろうな。ということだ。


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