廿楽あいかはロボットなのか? 4/6話
「……と、斉藤さんは優しい人だと感じました。以上です」
……あぁ、とうとう僕らの番が来てしまった。
結局あれからなんの進展もないまま時間だけが過ぎ行き、発表の時間となってしまっていた。
彼女に興味を持ち自分から話しかけてみたものの……何もわからないどころか、絶体絶命のピンチに陥っている。
「はい、ありがとうございます! じゃあ次、平野くんと廿楽さんですね!」
どうする……どう紹介すればいい……?
頭の中には彼女の名前だけがグルグルとメリーゴーランドのように回るのみ。それ以外の情報は一切ない。
教壇に立つと、ほぼ全員からの視線を感じる。
……あっ、そうか。ロボットだと言われてる廿楽に僕から声をかけたんだ。そりゃみんなも注目するよね……どうしよう、余計プレッシャーがかかってきたんだが。
必死に頭をフル回転して試行錯誤していると、意外にも最初に口を開いたのは廿楽からだった。
「本日より2年C組に配属された武藤陽太さんを紹介します」
お、おぉ……ちょっと堅苦しいけど、いい感じだ。
そうか、僕自身も彼女に紹介されるんだった。自分のことでいっぱいいっぱいで、何も考えてなかった。
思い返せばそれも若干危なそうだったけど……うん、これなら問題なさそうだな。学年トップでもあるんだし、変な紹介はされなさそうだ。
「性別は男性、16歳、誕生日は1月22日。趣味は読書。特技は速読と家事全般、得意科目は数学と現代文です。私から思ったことは……特にないです。以上です」
「「「ぶふぉっ……!」」」
おい最後の『特にない』ってひどくない? あと今吹き出した奴ら、顔覚えたからな。許さんぞ。
というか、やっぱり僕の補足は全てガン無視だったか……。い、いや、いいんだ。最後まで話させてくれなかったし……なんか涙出てきそう。
パラパラとまばらな拍手が起こり、次はいよいよ僕の番となる。
「えと、廿楽あいかさんについて、紹介します」
考えろ。頭の中で考えながら、発表するんだ。
「廿楽さんは………………」
という始まりから……そのまま口が固まる。
「…………」
それ以上、何も声を発することができない。
まずい、非常にまずい――何も思い付かない。
名前は廿楽あいか。好きなことや科目、趣味も特になし。水が苦手で奇怪な行動をしている噂が五つあり。
……いやいや。こんなんで紹介できてたまるか。
でも、何かしゃべらなくては。
ここで固まってたら、変な空気が流れるだけだ。
なんでもいいから、彼女を紹介しなくては。
そう思って、再び声を出そうとした時……ふと、気がついたことがあった。
全員、僕の方を見ている。こういう時は、誰かしら飽きて別のことをし出すはずなのだが――不思議なことに、誰一人として興味なさそうな顔をしてない。
そして……どいつもこいつもニヤついた笑みをしているのだ。
あぁ……そうか。
全員、最初から廿楽あいかのまともな他己紹介なんて期待してないんだ。
奇怪な行動を起こす彼女をどう面白く紹介するのか――みんな、それだけを期待してるのだろう。
所詮、僕たちは最初からピエロを求められていたわけだ。
……なら、どうする?
好きなものや趣味も特にないってことをそのまんま伝えるか?
それとも噂の彼女の変わった行動を紹介するべきか?
……いいや。違うな。
クールダウン――こういう時こそ、クールダウンだ。
「廿楽さんは――いい人だと思います」
「――っ」
悪いな、みんな。
期待してるような面白いことは、何一つ言わないぞ。
「まず、廿楽さんに苦手な科目はないようです。つまりかなりの学習意欲があると言えます」
情報がないのなら、良いところがないのなら――ないことから作り出してやる。
「また、苦手なこともないらしいです。これは裏を返せば、様々な知識にも興味があるということを意味します。僕は非常に好奇心旺盛であると感じました。好奇心がある人には成長できる人です」
周りはどんな反応しようが、知ったことか。
僕の口は止まらない。
「そして苦手な人もいないようです。誰しもが得意じゃない人がいるというのに、彼女は誰一人としていない……つまり、誰とでも平等に接することができるということです。これは普通の人ではできないことと言えるでしょう」
僕は彼女が変人だから近づいたわけじゃない。
面白おかしく声をかけたわけでもない。
彼女に魅せられて――彼女のことがただ知りたくて、話しかけたんだ。
「学習意欲があり、好奇心旺盛、そして誰とでも平等に接する優しさを持つ。一見すると、ごく一般的なことのように思えますが、ほとんどの人がこれができてません」
聞いてるか、みんな。
できてないっていうのは――君たちのことだよ。
――私、ロボットですから。
彼女がこの発言をした時……どんな顔だったと思う?
そう、噂通りの無表情だ。まるで自分がどう言われようが関係ないばりに、澄ました顔をしていたさ。
……でも、僕には。
あの時の廿楽は――悲しそうに見えたんだ。
だから……みんなが期待している通りの発表だなんて、してやるものか。
「だから僕は廿楽さんをいい人だと感じました。以上です」
僕が発表し終えると――しんと静寂が訪れた。
「廿楽さん、席に戻ろっか」
「……はい」
誰かが何か言う前に、席へ戻っていく。
戻っていく途中、誰も僕たちに拍手なんてしなかった……でも、誰かが笑う声も聞こえなかった。
そう、それでいい。
廿楽を笑う声が聞こえなければ――僕はそれでいいんだ。
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