第4話 病院で襲われると言うこと
結核疑いで行動を制限されている私だが、隣はディルームなので、漫画や雑誌が置いてある。だが、その漫画もなぜか、興味のない武闘系が多く、今は週刊誌も読みたいとは思わない。そして、昼間は車いすの高齢者が男女で座っている。一人で食事が出来ない訳ではないが、一人だと少ししか食べないので、看護師が何とか食べさせようとしている。
ある時、部屋にいると、入り口のカーテンが開く音がした。看護師が私のところへやって来ると言えば、1日2回の点滴。その他、熱や血圧などの測定くらい。
だが、カーテンが開いた割にはちょっとおかしい。そして、何か声がして見れば、午後はいつもディールームにいるオジサン。私はすぐにディルームのベルを押した。看護師が駆け付けた頃には、そのオジサンは私の部屋を出て壁を伝いながら歩いている。どうやら、トイレに行きたいらしい。
そして、もう一人のオバサンはストッパーの掛かった車いすを足で動かし、自分の部屋へ帰ろうとしている。
私は車いすを引き止めながら、看護師にオジサンがトイレに行こうとしているのを知らせた。何かあったら、ベルを鳴らすようにと言ってあるが、そんなことは覚えてなく、そのくせ、思いついたことは自分でしようとする。看護師も大変である。
このオジサンは、機能訓練士とでも言うのだろうか、午前中はその人と一緒に歩行訓練をしている。そして、途中で一休みしている時に、訓練士が話しかけていた。
「それで、何を教えていらしたんですか。国語。社会。理科…」
どうやら、元教師らしい。
病院の元教師と聞いて、嫌でも思い出してしまった10年前の事…。
その頃の私は元気で退院もそろそろと言う頃だったので、6人部屋にいた。とは言っても、同室には中年女性が一人と言う気楽な環境だった。
そして、少し離れた部屋にはワガママ爺さんがいた。いつも難しい顔をし、とにかく、何もかもが気に入らないらしく、付き添いの奥さんを困らせていた。元教師だと言う。
ある時、もう、外はうす暗い頃なのに、ベランダを裸足で歩いていた。病院のベランダは病人のためのものではなく、何かの作業用のためのものであり、無論、病室からは出られない。どこからか、出入り口を見つけたのだろうが、それにしても、そんなところを歩いて何になると言うのだ。この爺さんにすれば、憂さ晴らしだったのかもしれない。
そんなことのあったすぐ後の夜中。私は窓際のベットで寝ていた。ふいにカーテンが開けられる音で目を覚ませば、そこにいたのはあの爺さんではないか。すぐに飛び起き呼び出し用のブザーを押した。看護師がやって来れば、爺さんはあれこれ、取り繕っていたようだが、すぐに自分の病室に連れ戻された。
だが、その後は何もなかった様に処理された。どうやら病棟を移されたらしいが、医師も看護師もそのことに付いてはそれこそ何も言わなかった。私にすら、説明もなかった。病院と言うところはそんなものかもしれない。
それにしても、現・元教師である人たちの、隣近所での評判はなぜか
どうしてなのだろうか…。
そんなことより、早く、咳が治まってくれないかなぁ。
結核は、まだなの…。
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