第27話 マスコットキャラクター
まるで墨に塗られたように黒く薄汚れて顔が消えている三等身の河童のようなキャラクターがオッケーサインをしているものが車体の真横に描かれた、パン屋の配送車をたまに見る。
あれは何なんだろうな。
会社のマスコットキャラクターだと思うが
なんで塗りなおさないんだろうか。
などと、その配送車とすれ違うたびに自分は不思議に思っていた。
何年か前、地元の友達と飲み会に行ったとき
何となく、そのことについて触れてみるとその席に居た田中さん(仮名)が
「ああ、あれねぇ……」
ビールで赤くなった顔で言った。
教えてもらった内容はこうである。その会社は、数十年前から市からの請け負いで
市内のいくつかの小学校に給食のパンを届けている。さらに他の業務なども含め、業績は悪くない。会社自体にも悪い噂は無く、従業員の待遇もよく、最近前社長の娘に社長が交代したが、滞りなく業務をこなしているそうだ。
そんな何ひとつ汚点の無いパン屋のある一台の配送車に描かれているマスコットキャラクターの顔が黒ずみ始めたのがここ数年の話だそうで何度塗りなおしても必ず黒ずむのでコストを惜しんで、そのままにしているらしい。
「よく見たら、実は顔から下も少しずつ黒くなってるのお前は気づいてるか?」
田中さんは真っ赤な顔の濁った両目を自分に向けてきた。思い出すとその通りだ。次第に全身が黒くなっている。
「確かに、そうかもしれない……」
気づいて、愕然としている自分に田中さんは口を歪めながら
「俺の勝手な推測なんだが、パンは火を通すだろ?焼いたパンは、失敗すると焦げる。
当然、年間それなりの数、失敗作ができるよな?これは、どんな製造業でもそうなんだよ」
自分がとりあえず頷いていると
「そして焦げたパンは供養などせずにひたすら捨てられていく。食べられもしなかったパンの恨みは、少しずつ溜まっていくわけだな」
黙って聞いているとさらに
「パンに使われる酵母菌って思考しているってある研究結果知ってるか?」
「……」
「意思があるらしいんだよ。それらを大量に黒ずむまで焼き殺して捨てる。呪いの発動条件としては十分だろ?」
もう与太話に付き合ってられないので
「……つまり、それでキャラクターの顔が黒ずんでいると?」
田中さんは嫌そうな顔をして
「おいー先に言うな。そこいいとこだろ。まぁ、いいか。つまり、黒く焦げて捨てられたパンたちの呪いだな。どうだ?怪談としてはよくできてないか?」
「……」
黙って目を逸らすと、田中さんは爆笑し始めた。いつもこれである。
この会話から数年経ったが、未だにパン屋は営業していて、全体が漆黒になり、もはや元が何かわからないキャラクターの描かれた
配送車も未だに走り続けている。
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