第20話 山中のトンネル
うちの田舎県は山と森林が多い。
むしろ大部分が緑なのは間違いなく
人間の住んでいる範囲の方が圧倒的に少ない。
そして、県内の山奥には昔、採石場があり
都市部へとそこから、人や石など運ぶために
山間部に鉄道が通っていた。
地形を利用してトンネルを掘ったりした、山中をグルグル周りながら走るという
なかなか構造的には面白い代物だったのだが
当然のごとく、時代の波には抗えず廃れた。
かつて鉄道が通っていた跡は舗装され、トンネルも再利用され
林道として数少ない地元民に利用されているのだが
そこに、心霊現象が起こるという噂が
数十年前から一部県民には有名だったのだ。
そしてその事例が非常に興味深いもので
深夜に蒸気機関車の幽霊が走ってくるとのことである。
そして、恥ずかしながら
この話では既にお馴染みの田中さん(仮名)と自分の二人で
ある金曜の深夜にキャンプ用品を揃えて、山中まで出かけていき
車は麓の開けた場所に停め
トンネルがある場所までキャンプ用品を背負って歩き
近くで一晩明かす計画という
いい大人が二人して何やっとんのじゃいと言った感じの
馬鹿な現地調査をしたのである。
結論から言うと、出た。
深夜一時半ごろに、照明の無い真っ黒なトンネルを
キャンプ用品を背負ってライトで照らしながら
曲がりくねった一本道で繋がった
噂のある幾つものトンネルを行き来していると
いきなり生ぬるい風が不自然なほど強い風圧で
トンネル内を通り抜けていった。
そして、風が通り抜けてしばらくすると遠くで
微かな汽笛の音が確かにした。
二人とも別々に録音もしていたのだが
そちらには強い風の音が雑音として入っていただけで
汽笛は録音されていなかった。
田中さんは大興奮だったが
自分は気味が悪くなったので、さっさと二人で下山して
そこを後にしたのを覚えている。
後に霊障もとくに起こらなかったので
呪いや祟りとは関係ないようだが
後で考えると、何となく物悲しい体験だった。
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