第16話 生ぬるい風
文学的には、風、という言葉は「死」の暗喩として使えるとうろ覚えしている。
例えば、生ぬるい風が吹いた。
と書いて、誰かの死を暗に示したり、未来の不吉さを暗示したりする。
だったと思う。間違ってるかもしれないが
そういう前提でこの短い話を進める。
三木さんという女性の地元に不思議な交差点があるのだそうだ。
高速道路の六車線の高架橋の下にあって地形が
その交差点が最も凹んだ窪地になっていて
四方向全て緩やかな坂道になって上がっていく。
高架橋の下にある交差点は、昼間でも薄暗く
しかも、屋根のようになっている高速道路のお陰で
近辺の歩道は、雨天時の犬たちの散歩コースになっており
マナーの悪い飼い主たちによる
片付けられていない糞尿の後が散見される。
常に薄暗く、四方向から気が降りてきて溜まりやすい窪地で
さらに犬の糞尿で常時汚されている。
もはや軽めの忌み地だと地元のオカルト界隈では噂されている。
三木さんは、そこである体験をした。
近くのスーパーに買い物に行くために
たまたまその交差点を薄暗い夕暮れ時に
三木さんはその交差点に面する東側の歩道を通り過ぎていた。
一瞬、生ぬるく強い風が彼女の横を避ける様に通り過ぎて行った。
その時、三木さんは何故か、その年の春に
結婚した彼女の弟夫婦の笑顔が思い浮かんでいたらしい。
次の瞬間、彼女の脇の車道を
バイクが少し遅めのスピードで通り過ぎていき
彼女の十数メートル先でで派手に転んだ。
助けようか迷っていると、バイクの運転手は自力で起き上がり
バイクを立て、近くの歩道に寄せると
ヘルメットを脱いで、呆然とした顔で先ほど転んだ場所を
しばらく見つめていたそうだ。
「何の危険運転もしていなかったし
むしろ、慎重すぎるくらいの速度のバイクが
直進していて、いきなり目の前で転んだんです。
まるで、タイヤを掬われるように……」
三木さんは不思議そうな顔をして自分に話してくれた。
三木さんがその後、両親や同級生に話すと
実は似たような事故は以前から
そこではよく起こっていたらしい。
何か起こる直前には、三木さんが経験したような
生ぬるい風がよく吹いているとのことだ。
幸い重大事故は未だなく、死者は出ていないが
地元民の間では、通行時要注意なスポットだそうである。
軽めの忌み地なんじゃないかという自分の推測は
一応黙っていた。
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