第2話 仮初の婚約

 「何よ?私がお見合い相手じゃ何かいけないことでもあるのかしら?」


 「別に……」


 ルーシーと仁は暫く沈黙し、お互い睨み合っていた。


 (ちくしょう、せっかく金髪碧眼の美少女がやって来たと思ったらよりにもよってルーシーかよ……このお見合いはなかったことにでも……合わないからと言えばルーシーが魅力のない女だと言っているようなものだしかと言って……断る理由が見つからねぇ……)


 そう思っている最中、ルーシーは口を開いた。


 「お見合いの話しだけど……私、元々する気はないのよねぇ……パパが勝手にセッティングしたから仕方なくしただけで」


 「ふ~ん、そうなんだ。ぶっちゃけもとはと言えば親父がお見合いの話しをしてくるから金髪碧眼の美少女ならと言ったのが事の発端だしなぁ……」


 仁は何故だか博多弁ではなく、標準語で喋り出した。


 「なるほどね……」


 「すまないな……迷惑かけちまって」


 「別にいいわ、実際この年で婚約なんて普通に考えたら今の時代ありえないわよね。私だって三次元よりも二次元に恋しているわけだし……」


 仁とルーシーは気付いていないだろうが恐らく、こうやって二人の距離が少しずつ縮まっていることには気づいていないだろう。


 「まっ、俺も意気揚々とせっかくお見合いを受け入れたわけだし仮初の婚約でもしとくね?」


 「仮初の婚約?」


 「いやねぇ、やっぱりさ……ここでなかったことにしたらお互いの家とかの関係とか悪化しそうだし……」


 「そうよね、せっかくお見合いをセッティングしてくれた親に婚約破棄になりましたじゃ私の方も怒られそうだし……それに、高校卒業まではそんな仮初の生活もいいかなぁとも思うのよね」


 仁の提案にあっさりと乗ってくれたルーシーに唖然としつつもそれでことが順調に進むのならと背に腹は代えられぬ状態であった。


 煙草とライターが仁の掌から刹那、現れた。口に咥えた煙草を仁はライターで火を着け、吸い始める。


 「ちょっと、未成年なのに煙草なんか吸っているの?」


 「まぁね、中学の頃から吸っているよ」


 そう言うとルーシーは肩を竦め溜め息を吐く。


 「それで、その仮初の婚約をするってことでいいのよね?」


 「やるしかないでしょ?まっ、そんなわけでよろしく」


 お見合いもなんとか無事に終了し、仁とルーシーはお互いに連絡先を交換することにした。


 「まっ、交換したところでする機会は少ないだろうけど……」


 「そうもいかないと思うわよ?婚約するとなった以上私達の関係とかもしっかり報告しなくちゃいけないわけで」


 「めんどくせえなぁ……」


 仁は気だるそうにしつつも仕方ないなと割り切った。


 そして、仁はそのままヨハンの家に泊まりに行こうとした途端、父親が眼前に現れた。


 「仁、婚約はするとね?」


 「まずさ、どうだったかを聞くべきやと思うっちゃけど?」


 仁の父親は状況よりも婚約が決まったことを前提に話を勧めようとしているため、かなり呆れていた。


 理想の美少女と婚約できるわけであるため、普通なら喜ぶべきであろうが仁にとって身近にいる女子でしかも同じ学校の同級生と婚約をさせられる羽目になるなんて想像もしていなかった。


 「まぁ、婚約することにはしたばい」


 「そういうと思って知り合いが一軒家用意しとるけん、今から二人でその一軒家に同棲しんしゃい。一軒家の方は友石財団の支援もあるから金の心配はいらんばい!」


 「はいはい、分かったばいって……ちょっと待たんね、今なんて――」


 「そいやけん婚約するとやろ?彼女の両親にも許可は得ているからくさ大丈夫ばい」


 父親は親指をグッと立てながら白い歯を見せる。


 「何でそうなるんだよぉぉぉぉぉぉぉォ!」


 仁は空を見上げながら大声で叫んだ。


 「いや、あまりにも唐突すぎるんですけど!つーか何でお見合いした一日目で急に同棲が決まるとね?普通にあり得んって!ラノベとかアニメならまぁこういう急展開はご都合主義とかで済むけどこれもうご都合主義通り越して出来レースじゃあねぇか!」


 父親にキレのあるツッコミを入れる。当然、博多弁は殆ど使用していないようだ。


 これは意図的なのかアニメの影響なのかは分からないが少なくとも本人は無意識に行っているのだろう。





 数時間後、仁とルーシーは渡された地図を頼りにその一軒家で同棲生活を始めることになったのだ。


 「まさかこんなことになるとは……」


 「いいんじゃない?あなたどの道普段ラーメンばっかり食べているんでしょ?」


 「うん、ってか何で知っとるとね?」


 「いつも学食のお湯使ってカップラーメン食べてるじゃない?」


 些細な会話をしていると一軒家に到着、中庭が広々としており、プールも設置されていたのだ。地図と一緒に渡された鍵を持って仁はドアを開けた。


 部屋の中はとてもシンプルかつ家具などの電化製品もしっかり揃っており、これは確実に出来レースではないのかと違和感を感じるほどことが上手く出来すぎていた。


 (親父達は一体何を考えているんだ?婚約や同棲にしたっていくら何でも早いし何か裏があるっちゃなかろうか?)


 仁は大人達が仕組んだ出来事からルーシーという巨乳で金髪碧眼の美少女と同棲することになったのだが未だに喜べずにいた。


 ルーシーは料亭では嫌々ながら引き受けた感が強かったのに対し、いざ同棲生活を始めるとなると躊躇いを感じつつも満更ではない様子だった。

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