第1話 お見合い

 都内某所。


 二人の男子高校生は部屋で大きなテレビでアニメ観賞をしていた。


 「もうこんな時間か……」


 そのうちの一人である、長めの亜麻色の髪に濃いめのサングラスで目元を隠している少年、坂本仁は肩を竦める。


 「仁、家に帰らなくてもいいのか?一人暮らしの俺のために気遣ってるんなら心配しなくても――」


 銀髪の少年は心配そうに仁に尋ねる。


 「そげんやなか、俺はあの家におりたくないけん友達の家から学校に通ってるだけでヨハンが一人だと寂しいけんとかで泊まっとるわけじゃなかばい」


 仁の博多弁はいつにも増して健在で、サングラス越しでも分かるくらい家にいたくない理由がヨハンには分かっていた。


 ここ最近、仁がヨハンの家で寝泊まりしながら学校に通っているのは父親がしつこく「彼女を連れてこい」「孫はまだか」と急かしてくるからであり、自由気ままに生きたい仁からしたら鬱陶しいものだ。


 「はぁ……、結婚てさ、人生の墓場って言うだろ?それに結婚なんてしてみろ?欲しいと思ったものが自由に買えないし、高いものかったら絶対何か言われるじゃん。だから俺は結婚なんてしない!」


 ヨハンは長い銀髪の髪を靡かせながらピックを握った右手でギターの弦に触れると仁は溜め息を吐いた。


 「ヨハン、親父がもしお見合いの話しとか持ち出したらどげんしたらよかやかねえ?」


 「いや、そんなの俺に言われても分かんないよ!つかさ、そんなに結婚嫌なら適当に理由付けたらいいじゃん?例えばさ、金髪碧眼で日本語が流暢で二次元の美少女並に可愛い子連れてこいとかさ?」


 ヨハンはあることないこと仁に言うも「そんなこと言ったって親父が……」と溜め息を吐きながら諦めきっていた。


 「でも、ヨハンの言うとおりこのくらい無理難題ば言わな諦めてくれんやろうねぇ……親父は萌えとかそういう系のオタクアニメ好いとらんし……」


 「それならそれでいいんじゃない?」


 「あのさぁ、人が深刻にしているのに他人事のように言うのはホント酷かばい。ヨハンは何だかんだで侑と仲良くやっとるけん分からんやろけどくさ」


 「所々博多弁入れてくるの辞めてくれよ」


 仁はヨハンに苦言を呈しながらギターを弾いていた。


 「そげん言われても親父が生まれ育ったとこの方言っちゃけん仕方んなかばい!」


 「つっても小学生入るくらい前には東京には引っ越してたんだろ?」


 「そうやけど家ん中だと普通にこんな感じで喋っとるとよ」


 「まぁ、今どきロックなんて聴いてる人間もいないだろうから長髪でサングラスにアニメオタクなら確実にお見合いも破断できそうだからいいじゃん」


 仁とヨハンが会話をしていると仁のスマホが鳴り始めた。


 「なんね?」


 『仁か、次の休みの日家に帰ってこんね!お見合いばするけんくさ!』


 「よかばい」


 『いいとね?』


 「いいけど条件あるけん」


 仁は電話をかけてきた父親にヨハンが提案してくれた無理難題な条件を出した。


 「アニメに出てくるような金髪碧眼の巨乳でデカ尻で母性的で優しい女の子で頭もしっかりしとるならお見合いしてもよかけど?そうでないならこの話はなしだ!俺はジ○○プのメス猿もとい、雑種と結婚なんてするつもりは毛頭ない」


 『そんなんおるわけなかやんね!もっと現実ば見らんか!このバカチンがくさ!』


 当然、父親からはそう言う返答が来ることは仁も想定済みだった。


 ここからが本題だ。


 「というのもそもそも俺はまだ高校一年生よ!婚約とか結婚は早すぎるばい!」


 『なんば言うとるとね?とにかく仁の条件に達する女の子ならお見合いしてくれるとね?次の休みの日までに見つけとくよ』


 こうして仁と父親の会話は終了した。


 「お前の親父さん、相当孫の顔が見たいんだなぁ……」


 「俺の結婚を口実に嫁になる女の子に手出したいだけだろ……」


 仁は溜め息を吐きながら父親が無類の女好きで根っからのスケベ親父であることを話す。


 それを聞いたヨハンはポツリと口を開く。


 「俺達普通科クラスと違って特別科クラスに金髪碧眼の巨乳と言えばルーシーちゃんがいたよね?」


 「ルーシー?ああ、特別科クラスにそんなビッチおったねぇ」


 「お前そんなにルーシーちゃん嫌いなんだな?」


 「そりゃ好かんくさ。ゆう絢音あやね辺りと会話してるだけであいつ初対面の俺に『キモイ』とか言ってくるとばい」


 ルーシー・シルヴィア・メイ。


 仁の幼馴染と同じ特別科クラスで、巨乳でおしりも大きめのグラマラス体型だが顔は少女のような可憐さを持ち合わせた童顔であり、華奢で白磁、妖艶な美少女であるのだが基本的に近寄りがたく女子意外と会話することは殆どない。


 金髪碧眼で絵にかいたような美少女であるが仁は罵られたことを根に持っているせいか恋愛対象には見ていなかった。


 そして、ルーシーは今までに数多くの男子に告白されてもそれをことごとく断り続けているため、一部の女子からは敬遠されがちだ。


 「まぁ、普段男子と話さないルーシーちゃんがお前とそれなりに会話しているわけだからルーシーちゃんがお見合いに来たらお笑いだぜ?」


 「くらすぞ?」


 ヨハンは冗談半分で言うとジョセフは声を低くして拳を握り締めるとヨハンは「ごめん……」と謝りだした。


 そして金曜日の放課後、仁はヨハンと共に軽音部で音合わせをしている最中に事件は起きた。


 仁のスマホがピロンと音が鳴り、開いてみると父親から写真を送られていたようだ。


 それに気づかず、ひたすらにバンド内で音合わせをしていたため、スマホに反応すらしなかった。


 「仁、お前のスマホ通知が来ているみたいだけどでなくていいの?」


 黒いテレキャスを持った生徒が仁に声をかける。


 「大丈夫よ、紫龍。どうせ大した内容じゃないけん」


 そう言いつつ「もっかいやろうぜ」と仁は練習を促す。


 ドラムがカウントを取り、ギター、ベース、ドラムがメロディーを奏で、音楽室で音楽が鳴り響いていた。


 仁の赤いランダムスターはメイプル指板にスワンプアッシュを使用しているのでボディは軽くアタック音が強調されているため、ハードロックサウンドに持って来いだ。


 ピッキングハーモニクス気味で右手で弦を弾くことでさらに攻撃的なサウンドが完成するため、仁のサウンドはかなり分かりやすかった。


 30分以上演奏した後、仁はスマホの通知が来ていることを思い出しスマホを開いた。


 父親から送られた写真には金髪碧眼の美少女が写っており、仁はヨハンの下へと駆け付け、音楽室を出た。


 「紫龍、宗孝、トモヤ、俺ちょっとヨハンとトイレ行ってくるけん」


 「早く戻って来いよ~」


 「戻ってきたら練習するぞ」


 「あんまヨハンとイチャイチャするなよ?」


 「イチャイチャとかせんやん」


 紫龍は仁に冗談を言い、仁はツッコミを入れる。


 仁はヨハンと一緒に誰もいない男子トイレに入り、通知内容を話す。


 「ヨハン、親父の奴マジで見つけてきたばい」


 「えっ…………?」


 二人は煙草を吸いながら通知内容を見せ、ヨハンは仁のスマホを手に取り写真を確認した。


 「おいおい!こんなラノベ展開ってあり得る?俺が提案したことが実現したとかもしかしてお前アジャストメントされてるんじゃないの?」


 「俺はそんな迷信話は信用せんばい」


 「それよりもさ、お前その子と婚約するの?」


 驚きを隠せずにいたヨハンは冷静さを取り戻し仁に確認する。


 「まぁな、俺は金髪美少女萌えだしするばい!恋愛感情とか中学の頃捨てたからよう分からんしめんどくせぇけどな」


 「そうなんだ……って、えぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 「いやだってくさ、巨乳で可愛い金髪碧眼とお見合いできるとかこんなに嬉しいことはないばい!もうわが生涯に一片の悔いもないくらいに今気分は昇天しているけん」


 「まっ、お見合い上手くいくといいな……」


 「よし、戻るか」


 煙草を吸い終え、仁はかなりのハイテンションで音楽室へと戻り、練習を再開した。





 お見合い当日。


 東京都内の料亭で待ち合わせをすることになり、仁はライダースの革ジャンに革パンにバックル、黒いシルクハットとロックミュージシャンがライブ衣装に使いそうな格好で父親と対面し、暫く口論していた。


 仲人は仁の友人の父親だ。仁の友人の親は友石財団の人間らしく、政界にも発言力があり、日本だけでなく世界をも覆す力があるとのことだ。


 成り行きで戦争に巻き込まれる某ロボットアニメに出てくる財団かよとツッコミを入れたくなるくらいだ。


 「何でお見合いでそんな恰好ばしとっとか!」


 「ロックンローラーの正装たい!」


 「それはプロになってから言うセリフだ!第一そんな恰好を一般人がしていたらただのキ○〇イだよ!」


 取り敢えず父親は「相手が待ってるから……」と自分の息子の格好に呆れ果てていた。


 仁が開けた扉の中には和服を着た巨乳で長い金髪に髪飾りを付けた碧眼の美少女が正座をしており、着物はシンプルかつエレガントな薔薇が描かれていた。


 肌は雪のように白く、顔立ちの整っており、それは……女性と言うにはあまりにも美しすぎた。目は碧眼で月の光のように美しい金髪で妖艶な雰囲気を漂わせている、それはまさに二次元の美少女そのものだった。


 「初めまして、ルーシー・シルヴィア・メイと言います」


 「どうもどうも初めまして、俺は趣味でロックンローラーをやっている坂本仁……って今なんとおっしゃいました!?」


 仁はルーシーと名乗る美少女の名前に聞き覚えがあるようで、仁は鬼気迫る表情で名前を確認した。


 「って、よく見たら仁じゃないの?」


 「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁ!何でルーシーがここにいるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 ルーシー自身もお見合いの相手が仁が相手であることに不服なようで、生気を感じないジト目で仁を睥睨する。


 (ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!)


 仁は頭を抱えながら心の中で発狂していた。

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