第479話 女商人は、その力の正体を知る
「……ありがとう、アリア。おかげで、心残りはなくなったわ」
それは明らかに夢の中であった。目の前には、自分と同じ姿の女性が立っていた。但し、アリアにはそれが誰だかわかる。コーネリアだ。
「それはよかったわね。でも……どうして今、わたしの夢に現れたの?」
「それは……きちんとお別れを言いたかったから……かな?」
「お別れ?」
意味が全く分からずに、アリアは訊き返した。そもそも、お別れするも何も、夢の中で一度その体験を味わった程度なのだ。そんな仰々しいものではないものなど必要なのかと。
しかし、コーネリアは首を左右に振ってそれを否定する。そもそも、アリアが知らなかっただけで、ずっと力を貸していたと彼女は言った。
「力を……貸していた?」
「あら?気づいていなかったのね。じゃあ、種明かしをするけど……あなた、これまでとても強い運に守られていたと思ったことないかしら?」
「運?」
コーネリアの言葉に、アリアは妙な引っ掛かりを覚えて、これまでの人生を振り返ってみた。確かに、勇者にオランジバークに置き去りにされたけれども、その後、ツキまくりの人生だったということに気づいた。
イザベラのように村長たちに犯されなかったし、盗賊に殺されそうになったけどたまたま身につけていた指輪の力で守られて、叔父に運よく殺されず女王にもなった。あとは、魔族に誘拐されても、ギリギリのところでいつも助かってきたし、それに、カジノで馬鹿勝ちしたこともある……。
「それじゃ……全部あなたの力だったの?」
「ええ、そうよ。本来であれば、あなたは置き去りにされた最初の日に自決できずに、村長に精神が壊れるほど犯された後、娼婦に落されて変な病気にかかって死んでいたはずなのよ。だから、今、あなたがこうして幸せに暮らせているのは、全部わたしのおかげなのよ」
夢の中のコーネリアは、そう胸を張ってアリアに力説した。ただ……そうなると、気になることがある。
「さっきお別れと行ったわよね?そうなると……わたしの馬鹿勝ち人生はもうお終いなの!?」
「まあ……そうなるわね。ただ、多少は力の残照というのが残るから、あなたの残りの人生程度の期間であれば、それでも普通の人よりかは幸運に恵まれるとは思うわ」
但し、それはあくまで平凡でささやかな人生を送るのであれば、という条件付きで……伸るか反るかの大勝負では、今までみたいに上手くは行かないだろうとコーネリアは言った。つまり、以後はやめた方がいいと。
だが……そんなことを突然言われても、到底受け入れることなどできないわけで、アリアはコーネリアにこれからも力を貸してほしいと願った。
「お願い!何でもするから、お別れだなんて言わないで!」
しかし、コーネリアは「それはできない」とはっきり言った。
「アリア。この幸運の力はね、勇者の力の一つなのよ。だから、賢者の石を破壊した以上は……わかるわよね?」
「そ、そんな……」
賢者の石を破壊したのは紛れもなく、自分が仕組んだことだった。当然、それがどういう効果をもたらすのかも十分認識している。それゆえに、どうすることもできないことを知り、アリアは愕然とした。
「いい?もう時間があまりないから、わたしから最後の忠告をするわ。一つは、あなたの夫、レオナルドの事。彼もやがてあなたと同じ理由で、今までのように強力な魔法が使えなくなるわ」
「えっ!レオも……!?」
「そうよ。だからこそ、あなたがしっかりと支えてあげないとダメよ。きっと、彼の場合は、今まで無茶をしてきた分、あなたの比じゃないくらい力を失うわ。そうね……転移魔法も、あと1年以内には使えなくなるわね」
「う、うそ……」
アリアは自分の話を聞いたとき以上に、衝撃を受けた。魔法が使えないレオナルドなど、想像できなかったからだ。
「なんとか……ならないのよね?」
そうアリアが言うと、コーネリアは頷いた。こうなると、覚悟を決めるしかなかった。
「そ、それで、他には?さっき、一つはと言ったからには、他にもあるってことよね?」
「ええ、そうよ。二つ目は、レティシアの事。あの子は、幼いから勇者の力を失ったことで、このままだと病弱になり、それほど長くは生きることができないわ。だから、ヤンさんの所に行って、一刻も早く『精霊石』を砕いて飲ませなさい」
「精霊石!?しかし、あれは一つしかないんじゃ……」
「アッポリ族の村の南側の山。その斜面に一本だけ桜が植わっている場所があるわ。そこを掘れば、精霊石は見つかるわ」
但し、それで儲けようとは考えるなと、コーネリアは忠告した。無尽蔵にあるわけではないので、大量に発掘して稼ごうとすれば、きっと大損するだろうと。
「まあ、これが最後の忠告ね。あとは……あなたの力で頑張って」
時間がどうやら来たのだろう。コーネリアの姿は、次第に薄くなっていく。そんな彼女にアリアは最後に頭を下げた。「今までありがとう」と。そして、頭を上げて彼女の姿がなくなったのを確認した瞬間……目が覚めたのだった。
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