第81話 女商人は、母に手紙を送る
「へっくしょん!!」
「ん?どうした。風邪?」
「いや、ただ鼻がむず痒くなっただけよ。まあ、誰かに噂されているのかもね?『あんな綺麗な女性は見たことない』、な~んてね」
「…………」
「ちょっと、レオ!!何か言いなさいよ!!」
沈黙するなんてひどいじゃないと、アリアは椅子から立ち上がり、ポカポカとレオナルドをやさしく叩きながら抗議をする。
「ははは……ごめんよ。それで、さっきから何書いているの?」
「ん?あれのこと?」
視線の先、机の上にはなにやら書類がある。今の今まで、アリアが書いていたものだ。
「……母への手紙よ」
「手紙?」
「前にも言ったけど、このポトスからはルクレティアに手紙を送ることができるの。だから、近況を書いて送ろうと思ってね。死んだと思って、葬式挙げられてたらかなわないから」
「はは、まさか」
レオナルドは笑った。本当に葬式を上げられているとは知らずに。
「あと、こっちで結婚するってことも書いたわ。あと、できれば、今日、フランシスコさんの所で撮ってもらった写真も同封しようかと思うんだけど……いいかな?」
写真はとても貴重な物である。フランシスコとの面会の後、折角だからと言われて、二人だけの写真を撮影してもらったのだが、そのとき手渡された1枚きりの写真をアリアは母に送りたいといった。
「いいよ。送ってあげなよ」
「ホント!!ありがとう!!」
レオナルドの返事に、アリアは喜びその勢いで抱き着いた。
「アリア……あの、俺……」
「うん……。今日はいいわよ……一緒に寝よ?」
しばらくして、窓から明かりは消えた。
「さて、レオの承諾を得たことだし、手紙を出しに行きますか!」
翌朝、フランシスコが手配した造船所の関係者が迎えに来て、シーロとレオナルドはそちらの方に向かったため、この宿の部屋にはアリアしかいない。
本当なら、彼女も行くつもりであったが、腰がじんじんしてすぐには動けなかったため、同行を見合わせることになった。
しかし、その腰の痛みもようやく落ち着きつつあり、歩けないことはない。ゆえに、リハビリがてらと言わんばかりに、近くにあるという郵便局に向かうことにした。
(それにしても……)
後ろからついてくる人、人、人。いくら攫われかけたとはいえ、大げさではないかとアリアは思う。
(ホント、レオって過保護すぎるわね)
レオナルドの手配によるものではないのだが、アリアはそのことを知らずに、苦笑いをするのだった。
「おや?そこにいるのはアリアさんじゃないですか」
「クリスさん!?」
郵便局に入ろうとして、その入り口で彼の姿を見つけたアリアは頬を染める。
(うわぁ……やっぱり、かっこいいわ……)
浮気はいけないと思いつつも、アリアのドキドキは止まらない。
「ん?どうかしましたか?」
「い…いえ、なんでもありませんわ」
(いけない、いけない。マジ、この笑顔は反則よ!!)
アリアは何とかごまかした。そのとき、気づいた。彼の手にも手紙が握られていることを。
「あれ?クリスさんもお手紙を?」
「ええ。ルクレティアにいる師匠に近況をね。アリアさんは?」
「わたしも、母に手紙を送ろうかと。このあと、オランジバークに戻ったら、中々それすらも難しくなるので……」
「そうなんだ……」
クリスは、少しかわいそうにアリアを見た。すると、アリアは何かに気づいたかのように、突然独り言を言い始めた。
「あ……でも、盗賊もいなくなったことだし、船もできるわけだし……。町の事業として郵便制度を作れば……。ただ、本土に手紙を送ろうなんて言う人間なんて、わたししかいないだろうし……あ、でも、ポトスまでなら送ろうっていう人も、今後は……」
「アリアさん……おーい、聞こえてる?」
郵便局の前で、一人でぶつぶつ言う姿に、クリスは少し引きがちに声をかける。
「はっ……わたしはなにを……」
クリスの声が聞こえて、現実に戻ったアリア。やらかしたと思い、顔を真っ赤にする。すると、クリスは笑った。
「ホント、面白い人だね。見てて飽きないよ。……まあ、もうちょっと見ていてもいいんだけど、そろそろ、手紙を出しに行きませんか」
その変わらぬ紳士的な態度に、アリアはただ頷くだけだった。
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