第52話 盗賊は、直感に従わなかったことを後悔する

「なに?女村長は死んだだと?」


「へい。なんでも、メルセデスの野郎のところの若い連中が弓矢で殺したとか。もっとも、死体は奪われ、運搬役だった連中は殺されちまったが、死んだときに顔を知っている奴に確認させましたので、間違いないかと」


 その報告を聞いて、ウィリアムは唸った。来月花嫁になる女とヤレると楽しみにしていたのに、と。


「まあ、いいじゃないか。こうしておいしい飯と酒はたんまり手に入れたんだし」


 横に座るリッツはそういうが、何か釈然としない。なにせ、女村長だけでなく、若い女がだれも捕まらなかったのだ。下半身のタンクは爆発寸前なのに。


「明日朝一番で、奴らが逃げた銀鉱山に向かうぞ!!」


 ウィリアムは一同に厳命を下した。そこに行けば女がいる。そう確信して。



「てめえらに、明日の朝は来ないんだけどな」


「だれだ!?」


 バンっと乱暴に扉は蹴り上げられて、ローブを羽織った一人の男が現れた。


「てめえ!何もんだ!!」


 末席に座っていたソトが殴り掛かるが、一瞬のうちに炎に包まれて消し炭となる。


「なっ……」


 ウィリアムは唖然とその消し炭になった部下の姿を見つめる中、今度はデラロサが剣を抜いて斬りかかる。


「サンダーボルト・MAX」


「ぎゃあああああ!!!!!」


 強烈な光とともに聞こえる叫び声。それが終わった時、デラロサは真っ黒になって崩れ落ちた。


「ば……ばけもの……」


 誰かが言った。そして、まずいと思ったのか、みんな我先に外へと逃げだした。それは、ウィリアムも同じだった。


「うっ……!!」


 6人の幹部と共に見たその風景に、言葉を失った。ウィリアムと共に先遣隊としてこの村を占領していた700の手下どもが、無残にも氷の尖った柱に数珠つなぎのごとく重なり合って串刺しにされていたのだ。


「さて、おまえらはどういう風に死にたい?」


「ひっ!!」


 背後から聞こえてきた冷たい声に、ウィリアムたちはすくみ上った。


「炎、氷、雷、水、風、土……あと闇もあるなあ。どれがいいかな?」


 どの魔法で処刑を行うか選べと言っていることはよく理解した。


「ま……まて!!降伏する。真っ当に生きろと言われれば、盗賊稼業も廃業する。俺たちを手下に加えれば2万もいるんだぞ!きっと、役に立つ。だから……」


「興味がない」


「!!」


 その無表情な顔に、ウィリアムは言葉を失った。取り付く島もない。


(あれ?)


 どこかで、この顔を見たことがある。そのとき、ウィリアムの記憶の片隅に何かが引っ掛かった。


「くそ!!どうせ死ぬんなら、せめて戦って死んでやら!!」


 リッツが果敢にも挑んでいくが……


「ぎゃあ!!なんだこれ!?地面に?……ゴホっ!!吸い込まれ……助け……」


 突然、足元がぬかるんだかと思うと、ドンドン沈んでいき、助ける間もなく生きたまま地面の中に吸い込まれていった。


(土魔法!……ああ!!思い出した!!)


 不意にウィリアムの記憶がよみがえる。それは、若き日にポトスを訪れた大賢者様に喧嘩を売ってお仕置きを受けた日の事。


(あの日、俺は同じように土に引きづりこまれて、首だけ出した状態で3日間放置されたっけ……)


 残った仲間たちが次々と命を散らしていく中、ウィリアムはそのことを思い出していた。


(そういえば、あのくそ賢者には隠し子がいるって噂があったっけ?はあ……嫌な予感したんだよなぁ……)


 レオナルドの放った風の刃に首を飛ばされて、宙を舞いながらウィリアムはそのことを最後に思った。

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