第37話 遊び人は、密会現場を婚約者に目撃される
「アリア、そんなに落ち込むなよ。さあ、笑って!笑顔の君が見たいなぁ!!」
ラモン族の来客者用のテントで、レオナルドは一生懸命、落ち込んでいるアリアを励まそうとしているが……
「ほっといてって言ってるでしょ!!もう……空気を読んでよ……」
「ああ、泣かないで!俺が悪かったから……」
「…………」
アリアは布団を頭からかぶって自己嫌悪に陥ったまま動こうとしない。そんなに落ち込むことか、とレオナルドは思う。自分なら、迷わず……いや、喜んで、ヤンを切り捨てる。
ただ、アリアの気持ちもわからなくもない。初めてヤンに会ったとき、はっきりと「信頼を買いたい」と言ったのに、自分の利益のためにそれを反故にしようとしたのだ。自分ならば、知らなかったから仕方ないと思うのだが……
正しい情報を掴めていないまま商談に臨むのは、商売をする以前の問題で、ダメ商人がすること……という話らしい。
(まだ若いのだから、そんなに気負わなくてもいいんだけどな……)
失敗の経験をして、人って大きくなっていくのでは、とレオナルドは思っている。だから、今回のこともアリアにとってはきっと無駄にはならないはずだ。
しかし、このままここにいてもらちが明かないのも事実。レオナルドは仕方なくテントの外に出ることにした。
(たしか……こっちに行けば、滝があったんだよな)
夜中ということもあって、村には人通りが少ない。レオナルドは気楽に滝に向かって歩いて行った。すると……。
「レオ様……?」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこには族長の娘が立っていた。
「あ……やあ、久しぶり……っておい、ちょっと!!」
なんて言ってたっけ、と名前を思い出そうとしているレオナルドに、その娘はいきなり抱き着いた。
「レオ様……ああ、レオ様だ。会いたかった!!」
どうしようかと思っていると、その娘はレオナルドの胸で泣き出した。なんでも、父親からレオナルドは結婚すると聞いたが、信じずに縁談も断って待っていてくれたらしい。そして、その甲斐があったと。こうして来てくれたということは、自分を選んでくれたのだと。
(いや、結婚する話、それホントなんだけど……)
しかし、アリアにはない柔らかい二つの感触が、その言葉を吐き出すのをためらわせた。かなうなら、あと少し味わいたいと思い鼻の下を伸ばしていると……
「レ~オぉ……。これは、どういうことかしら?」
地獄からの使者がいつの間にか真後ろに立っていた。
「あなた、だれ?」
抱き着いている娘が、アリアに向かってそう言うと、アリアは「婚約者よ」と言いかけて……
「……いえ、婚約者『だった』と申し上げますわ」
と、言い直した。
「アリア……ちょっと、待って!!これは誤解だ!!そもそも、俺はこの娘とは……」
「いいんですよ。レオナルドさん。どうやら、その娘にはわたしにない二つの無駄な脂肪の塊がついているようですし。あなたはそちらの方がお好きなんでしょう?」
汚らわしいものを見るような目で、アリアは睨みつけると足早に立ち去ろうとした。すると、レオナルドはなおも抱き着いている娘を無理やり引きはがした。
「レオ様!?」
娘は驚いて声を上げるが、レオナルドは一切構うことなくアリアの前で土下座した。
「鼻の下を伸ばして悪かった。でも、今の俺には君しかいないんだ。どうか、どうか、許してほしい」
これには、アリアも目を丸くして驚いた。少し懲らしめてやるつもりだったのに、こんなことまでされるとは思ってもみなかったのだ。
(こないだのシーロのことといい……ちょっと、わたしってやりすぎなのかな?)
そうは言いながらも、素直にはなれず、「今回だけはその土下座に免じて許してあげるわ」と可愛げもない言葉を吐き出してしまう。
幸いなことに、レオナルドは自分の後ろについてきてくれた。しかし、それに甘えてばかりだといつかは……。アリアは自分の未熟さを痛感し、何とかしなければと思うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます