第22話 女商人は、取引先の出迎えを受ける
「酷いっスよ。抱き合う暇があったら、治癒魔法をさっさとかけて欲しかったスねぇ」
「本当に。あと一歩で死んでいたというのに。さすがにこれはひどいですね」
「そうですよ。あと1分遅かったら、死んだおばあちゃんと川渡ってましたよ」
「「ごめんなさい」」
銀鉱山からネポムク族の村に向かう途中、ボン、シーロ、マルスの順番で文句を言われて、アリアとレオナルドは謝罪した。
なにせ、救出されてホッとしたあまりに泣き出したアリアを落ち着くまで抱きしめていた結果、瀕死状態になっていた三人の治療が遅れたのだ。
そのことについて、初めはごまかそうとしたレオナルドであったが、意識を失っていたシーロとマルスと違って、ボンがしっかりと一部始終を見ていたため、結局はバレてしまったのだ。
あれだけ何本もの槍を真面に突き刺されていたのに、不思議な話である。
なお、治癒魔法はレオナルドが唱えた。兵士たちを瞬殺した風の魔法といい、『この人、一体何者なんだろう?』とアリアの脳裏をよぎった。
ただ、どんな人であっても、構わなかった。彼は命の恩人であるのだ。しかも二度も助けてもらっている。もし、この先彼に裏切られて命を落とすとしても、それは本来迎えていたであろう自分の死が、そこまで引き延ばされただけなのだ。悔いはない、そう思った。
「あれ?何か見えるっス」
門番をやっていただけあって、視力が非常に良いボンが遠く橋の向こうに複数の人の姿があることを確認した。
(あの橋は……)
アリアが目を細めてみた先にあるその橋は、ネポムク族の支配地との境界にかけられた橋で、以前、襲われた場所だった。
「おーい!!」
こちらの姿に気づいたのか、橋の向こうの人が大きな声を上げて手を振りながら近づいてくる。
「ヤンさん!?」
「お久しぶりです、アリアさん。お迎えに参上しました。今日も相変わらず美しいですね」
アリアたちの傍まで馬でやってきたヤンは、馬上から飛び降りてアリアを出迎える。……後ろにいる他の男たちを無視して。
「おい!」
今にもアリアを抱きしめそうなヤンの前に、レオナルドが体を割り込ませる。
「貴様!何の真似だ」
「何の真似だっていうのは、こっちのセリフだ。この年中発情魔!!」
「お前にだけは言われたくないわ!!この種馬野郎が」
「なにをっ!!」
「もう!二人ともよしなさい!!」
また取っ組み合いの喧嘩を始めそうな二人を見かねて、アリアが止めるように促す。すると、二人は渋々ながらこれに従った。
落ち着いたところで、アリアは改めて挨拶を述べる。
「ヤンさん。お出迎えありがとうございます。ご迷惑をおかけしますが、お願いします」
「いやいや、アリアさん。ご迷惑だなんてとんでもない!このヤン、アリアさんのためなら、例え火の中、水の中……」
「……火の魔法と水の魔法、どっち食らいたい?そうか……どっちとも欲しいか」
「レオ!やめて!!」
右手に火の魔法、左手に水の魔法を発動させたのを見て、アリアはレオナルドに止めるように命じた。レオナルドは素直に従ったが、一方、ヤンの方が驚愕の表情を浮かべた。
「ヤンさん?」
「いつの間に……二人はそんな仲に?」
「はい?」
「愛称を呼び合う関係って……」
そこまで言われて、アリアははっとする。そういえば、いつの間にかレオナルドのことを「レオ」と気安く呼んでいることに。アリアは急に恥ずかしくなり、顔を伏せた。
すると、レオナルドが得意げな表情を浮かべてずいっとヤンの前に出る。
「まあ、そういうことなんだ。実はさっきまで下着姿の彼女と抱き合ってだなぁ……グヘっ!?」
「誤解させるような言い方するんじゃないわよ!!バカぁ!!!!」
恥ずかしさのあまりいつもより強力なアリアの飛び蹴りを後ろから食らい、レオナルドは地面とキスする羽目になった。
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