第2話 女商人は、売り飛ばされる

「なに!?帰りたいだと?」


「ええ、そうよ。だいたい、レベル1の商人に何を求めてるのよ?売る物もなければ、買い取ってあげる資金もないのよ」


「レベル1……」


 村長が呆然と呟く。どうやら、アリアがレベル1であることを知らなかったらしい。しかし、そんなことはアリアには関係がないこと。荷物を詰め込んだ魔法カバンを手に持ち、アリアは立ち去ろうとした。


「えっ?」


 しかし、そうは問屋は卸さない。筋肉隆々の男たちがアリアの行く手を塞ぐ。


「どいてよ」


 アリアが強く言うが、男たちは道を開けようとしない。すると、村長が1枚の紙をアリアへ見せる。


「雇用契約書……?」


その書類は昨夜勇者に代筆を頼まれて書いたものだった。


(だまされた!!)


 宿台帳への記入と、軽く思っていた昨夜の自分をアリアは殴りたいと思った。


「そんなの無効よ!わたしは騙された。無理強いするなら、訴えるわよ!」


(ここで負けてはダメだ。法的にはわたしに分がある。あとは強気……そう強気だ!)


 内心、これはまずいと思いつつも、アリアは強気の姿勢を崩さずに言い張る。しかし、やはりというか、連中には通じない。


「訴える?上等だ!!やれるもんならやってみろ!!……だいたい、お前はどこに訴えるというのだ?船もないのに、一番近くの裁判所にどうやって行くというのだ?さあ、言ってみろ!!」


 アリアは思わず言葉が詰まる。その姿を見て、村長は勝ち誇ったように言い放った。


「……あきらめろ。使えないとわかった以上、おまえにはこれから毎晩男たちの相手をしてもらう。……大丈夫だ。初めはイヤかもしれないが、そのうち慣れるし、おとなしくしていれば、殺したりしないから」


「ひっ!?」


 村長の言葉に反応した男たちが、アリアの体に触れてくる。もちろん、アリアは処女ではない。昨晩も勇者と激しく交わっているのだ。しかし、道具のようにただ性のはけ口になれといわれて、受け入れられるかと言えば、もちろん否だ。


「村長!一番槍は俺がつとめてもいいっスか」


「好きにしろ。ワシはこないだ手に入れた玩具と遊んでくるから」


(このまま、やられるくらいなら……)


 そのときは、自爆魔法を唱えて全員道連れにして死んでやる、そう決意した。


「おやじ……その娘、俺にくれない?」


 決意を固めたアリアの耳に、浜辺に沈めたはずの遊び人の声が聞こえた。


「……ここに来るな、といっただろう?」


 村長が苦虫を嚙み潰したようにそういうと、戸口に立つレオナルドは「そんなこと言ったっけ?」ととぼけて見せた。村長は仕方ないと、ため息をついた。


「それで、おまえにやってどうするというのだ?」


「娼婦にするのであれば、北の開拓団にやろうかとおもいます」


「北の開拓団?」


「ええ。父上もご存じの通り、奴らはこの村でも手に負えない荒くれ者の集まり。こないだ、酒を飲んでいたら、女が欲しいと言ってたので、ちょうどいいかと。……不満をためて反乱でも起こされたら面倒でしょ?」


 レオナルドの言葉に、アリアは青ざめる。より危険度が増したと思って、やはり自決しようと詠唱の準備に取り掛かる。しかし、その時レオナルドがこちらに視線を送り、アイコンタクトしてきた。どうやら、何か考えがあるようだと思い、一先ず自決は保留した。死ぬのはいつでもできる、そう思って。


 一方、村長は考える。もし、開拓団の連中が蜂起した場合の被害を。負けるとは思わないが、今後の町の運営に重大な影響を与える程度の損害は被るかもしれない。


 そう思うと、女一人で済むというのであれば、お安いものだと理解した。


「よかろう。おまえの好きにするがいい」


 そう言うと、男たちに命じてアリアの拘束を解いた。


「それじゃあ、お嬢さん。行きましょうか」


 レオナルドが手を差し出して、アリアをエスコートする。アリアはその手を取り、部屋を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る