バライチゴのジャム
あれは2年前の事だ。
私と妻のきよみさんは大山の二ノ沢を歩いていてバライチゴの群生を見つけた。バライチゴはバラ科の野イチゴで別名”草イチゴ”ともいう。この草イチゴは、野イチゴとしては比較的に大きな実をつけて甘酸っぱい独特の香りがある。バライチゴは春に白い大きな花を咲かせて、夏の暑い盛りにまるでルビーのように赤い実をつける。
「いつか夏に実を収穫に来て、バライチゴのジャムを作りたいね」
その時、そんな話をしていたのだが・・
きよみさんが癌の宣告を受け、我が家に激震が起きたのが今年の四月・・
5月にはきよみさんの体重が40kを割り、このままでは今年の年末は越せないのではないかと怯えていた。そして大学の抗がん剤治療と、それに合わせた食事と体調管理・・これからどう生活を立て直し、どう精神を立て直すのか・・その頃はただただ暗中模索の毎日が続いていた。
そんなおり、7月の終わりになって、きよみさんの体重が少しずつ増え始めたころ・・きよみさんが私に言ったのだ。
「そろそろバライチゴが赤くなるよね・・ああ、バライチゴのジャムを食べたかったな~」
「いや、行けるよ。朝早く涼しい時なら・・あの場所なら行ける。車を停めて20分も歩けばいいのだから・・行こう!」
私ときよみさんは この夏の暑い盛りの早朝にその場所に行ってみた。今年行かなければ来年の事は分からないからだ。
当地では今年の夏は雨が降らず バライチゴの実が無いかと思っていたのだが、現地に行ってみるとバライチゴがたくさん赤い実を付けていた。谷あいの緑の葉が茂る中に真っ赤なイチゴの実はルビーのように美しい。最近ふさぎ込む事が多かっただけに、それを見たきよみさんの顔は輝いたものだ。
欲と二人連れとはよく言ったもので、きよみさんと私は病気の事を忘れたかのように夢中になってイチゴを採取したのだった。
その帰り道・・
私が言った。
「来年も来ようぜ。」
そして今、そのバライチゴのジャムが出来上がったのだ。
500gほどの貴重なジャムだ。
きよみさんが食パンを香ばしく焼いてバライチゴのジャムを乗せる・・
サクっと一口食べる・・
甘酸っぱい独特の香りが口いっぱいに広がる・・
「美味しい~!」と、きよみさんが目を見開いて私を見る・・
もぐもぐと食べながら、うんうんと私がうなずく・・
ああ、何と言う美味しさだろうか・・
何と言う幸せ・・
そうなのだ・・味は単なる味ではない
味・・それは思いなのだ。
(バライチゴのジャム・画像へ)
https://kakuyomu.jp/users/minokkun/news/16818093084961781291
(薔薇イチゴの花と実・画像へ)
https://kakuyomu.jp/users/minokkun/news/16817330661342146801
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます