第3話:プロローグ3・虐殺

王歴327年2月6日:南大魔境・クリスティアン視点


 くそ、失敗してしまった。

 母の母国に逃げ込む気だったのに、こんな事になるとは思ってもいなかった。


「くっくっくっくつくっ、俺様が何も知らないとでも思っていたのか。

 クリスティアンがローシア王国と連絡を取っていたくらい知っていたぞ。

 俺様の事をバカにしていた割に抜けているな、クリスティアン。

 クリスティアンの方がよほどバカだぜ、わあっはっはっはっはっ」


 くそ、言い返したいが、何も言い返せない。

 俺は自分で考えているよりも愚かだったようだ。


「さて、あと腐れのないように死んでもらうとして、今まで散々俺様の事をバカにしてきた罰を受けてもらおうか。

 お前たちも散々バカにされてきた恨みがあるだろう、やれ」


 ディーターの取り巻き連中、大公家でも特にできの悪い陪臣たちか。


「うっ、やめろ、私は主家の長男だぞ!」


「はん、今まで散々俺たちをバカにしてきたくせに、お前の方がよほどバカだな」

「そう、そう、大公家を追放されたお前はもう俺たちの主人じゃないのだぜ」

「バカになにを言ってもムダだぜ、なあ、クリスティアン様」

「俺たちの事をそう言っておられましたよね、クリスティアン様」


 ディーターと一緒に散々悪事を重ねてきたクズどもが。

 温情などかけずに処刑しておけばよかった。

 だが、こいつらのような取り巻きに俺の動きを探れるはずがない。

 まして父の命に背いて俺を殺すような大事を実行する決断力などない。

 俺の行動を調べて殺すように決断させたのはどこのどいつだ?!


「さて、『悪食』スキルにふさわしい死に方をしてもらおうか、兄貴。

 いや、クリスティアン、これでも喰らえや」


「ぐっあ、ぐぐぐぐぐ」


「さあ、猛毒を持ったポイズンスライムだぜ、美味いだろう」


「うっぐ、ぐぐぐぐぐ」


 くそ、地面に引き倒されて、両手両足を押さえ込まれていては、抵抗できない。

 唇が引きちぎられても、ポイズンスライムなんか喰ってたまるか」


「抵抗してもムダだぜ、クリスティアン。

 上下の前歯をへし折れば、その間から突っ込めるぜ」


「グアッフ」


「さて、毒蜘蛛のロクソスセレス、ミミズも食べられますか、兄上。

 おい、そこら辺をはい回っている虫を兄上に食べさせて差し上げろ。

『悪食』の兄上様はご空腹だそうだ」


「はい、クリスティアン様を空腹なままにするわけにはいきませんからね」

「ディーター様、このバッタなんかいかがです、美味しそうですよ」

「では私はこの甲虫をクリスティアン様に食べていただきます」

「では私はこの大きなイモムシを食べていただくことにします」


「少しはお腹が満たされましたか、クリスティアン兄上。

 最後にとても珍味だと聞く毒蛇のサイドワインダーを食べていただきます。

 残念ながら、このような場所ですので、生きたままですがね」


 最初に喰わされたポイズンスライムの毒のせいか、それとも毒蜘蛛のロクソスセレスのせいか、激烈な痛みと震えるような寒気がする。


「念のためだ、両手足を斬り落としておけ」


 ギャアアアアア、いたい、いたい、痛い。

 だが、絶対に悲鳴だけはあげないぞ。


★★★★★★


 死んでたまるか、死んでたまるか、絶対に死ぬものか。

 いきて、いきのびて、必ず復讐してやる。

 あそこにいるのは、とても希少なヒールスライム。

 あいつさえ食えれば、生き延びる事ができる!

 手足を斬り飛ばされていても、スライムなら喰らいついて斃せるかも……

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