アクマ日記

mayo

第1話 出会い


「ウィーンに向かう列車の中で何百人という

難民の集団と乗り合わせたんです。」


コンピュータグラフィックの仕事に

魅力を感じなくなった理由について、

彼はスケールの大きな話をし始めた。


「悲惨な表情をした彼らを見ていたら、

初めてスポンサーから予算が降りて、

ヨーロッパで自分達の作品と音楽を今から発表出来るって、

高揚して浮かれていた自分が恥ずかしくなってしまって。

なんていうか、自分のやっている作業は

単なる一時的な賑やかしにすぎないと思ってしまったんです。

あってもなくても誰も困らない、

とるに足らないものなんだなって」


行きつけのバーでたまに出会う彼と

初めて二人でお酒を呑んだ。


ずっと医療事務の仕事をしていた私は、

コンピュータグラフィックも音楽も

正直よく分からなかったけど、

真剣に語っているちょっと悲しそうな彼の横顔と、グラスを持つ長めの指を見ていた。


「私達医療系の仕事は、目の前の患者さんや

日々の雑務を淡々とこなす現実的なものだから、そういう夢を売るような仕事って憧れるけどな。

そういうのが人々の癒しに繋がって、

結局誰かの役に立ってるんじゃないのかな」


と、私は少々無難だが誠意を持って答えた。

すると彼は、


「淡々と、でも確実に誰かの役に立つ仕事って

憧れます」


ここからお互いの仕事や

恋愛感について少しずつ語り始めた。

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