馬車を走らせていたら、変態が道に倒れていた
仲仁へび(旧:離久)
第1話
私は、貴族の少女だ。
年は十歳ほど。
このくらいの歳の少女は、一人前としてみられて一人で行動する事が多いけれど、それでも私は少し特殊な体質をしていたから。
護衛とか使用人が多く傍にくっついている。
その時もそう。
何人もの護衛と使用人とともに、馬車にゆられていた。
人の目が多くて窮屈だ。
私がいてほしいのは、そういった保護してくれる人じゃなくて対等な人なのに。
「体がもっと丈夫だったらよかったのに」
私は、保養地から家に帰る途中だった。
この体が病弱だから、定期的に温泉地にいって、休養をとらなければいけないのだ。
そのせいで、通っている学校は休みばっかりだ。
せっかく、友達が出来ると思って入学したのに。
いまだに友達がゼロ。
毎日、残念な気持ちでいっぱいだった。
保養地はそれはそれは素晴らしい所だったけれど、同年代の子供達と遊ぶ方が私は好きだったのだ。
落ち込んでいた私は、馬車にのりあわせた御者と護衛と、あと使用人。彼等と他愛のない話をしながら時間を潰していた。
でも、上品な会話しかしてくれないのよね。
もっと同年代の子達と気安い話がしたい。
この後、帰っても、両親は仕事で多忙なのでいない。
一人で過ごすばかりだ。
家出一人でいると良くない事ばかり考えてしまうから憂鬱だった。
しかし、小一時間ほどたった時、急に馬車が停止した。
突然の衝撃に私の体が馬車の壁にぶつかりそうになったのを、護衛が助けてくれなかったら、怪我をしていただろう。
私は御者に向かって、「一体なんなの?」と声をかけた。
すると、「道に人が倒れていまして」と言葉が返って来た。
行き倒れ?
たまに、金持ちの馬車の前に倒れて、お情けの食べ物やお金をもらおうと企む輩がいる。
そのたぐいの人間かと思った。
「物乞いのたぐいかしら」
「いえ、そういうわけでは、さすがになさそうですが」
しかしそれにしては御者が、どんな人間なのか説明に困っていた。
護衛が馬車から出て、確認しに行くと言ったが、私は興味をそそられて外に出ていた。
すると馬車の前には、それが倒れていた。
あれは、人間なのだろうか。
人間、だと思う。
おそらく、たぶん。
ミノムシのように藁にくるまった男性が、目をぐるぐる回して、お腹を鳴らしながら倒れていた。
普通に大丈夫ではなさそうだったので、野盗や詐欺師とかではないようだ。
出てきてしまった私を、護衛が嗜めるが、私は馬車には戻らない。
「これ、一応手当してあげた方がいいんじゃないかしら」
「お嬢様、本気ですか」
「放っておくのも寝覚めが悪いし」
調べてみると、その人物はなんとこの国の変態だった。
間違えた王子だった。
「変態」の王子、だ。
その王子はなぜか全裸になる癖があるのだ。
それで、目に当てられない恰好で、たまに城や町を闊歩しているらしい。
直接見た事ないから、信じられない気持ちだったけど。
事実だったようだ。
面倒なものを拾ってしまった。
私は早くも後悔していた。
しかし、ひろってしまった(物×)者はしかたがない。
変態でも王子なのだから、ちゃんと元気になってもらわなければ困る。
そういうわけで、客室に寝かせていた全裸、ではなく変態の元を訪れた。
すると、そこには。
「ぴぎゃああああ。おばあさまがくるううう。雷が魔法がぁ! ぐえ。たしゅけて」
なぜか悪夢にうなされる変態王子がいた。
「……」
私は何も見なかったことにして、部屋を去りたかった。
しかしぎりぎりで我慢して、部屋に入室。
様子を窺う事にした。
すると、あれほどうなされていたというのに変態王子はぱっちりと目を覚ましてしまった。
関わりたくなかったのに。
「今日こそ結婚してくれ! 門番よ」
そして、目覚め一番のセリフが、誰とも知れない人間への求婚だった。
「あれ、ここどこだい?」
数秒後。
変態は、自分が知らない場所に眠らされている事に気が付いたのだった。
「王子、あなたは倒れていたんですよ」
私はしぶしぶ状況を説明。
すると王子も今までの事を説明。
王子はその日、いつものように(えっ、いつもそんな事してるの?)城を脱走して、雷魔法をうちだしてくるおばあさまの元から離れ、色々な知人の家でかくまってもらっていたらしい。
しかし、その際に知らない馬車に乗り込んで居眠りしてしまった結果、見知らぬ場所へ移動してしまったらしい。
犯罪者と間違われてミノムシにされていたが、なんとか逃げて行き倒れていたとか。
そこを私が拾ったと言うわけだ。
「……」
「この恩は、ちゃんと返すよ、ありがとうねお嬢さん」
話しの終わりに王子は、にぱっとした笑いでそんな事を言ってくる。
恩を感じているなら、早くこの場所から去ってほしい。
「(ぐぐーう)あ、ごめん今日何もたべてないんだ」
「何か食べられるものをお持ちします」
そう思ったが、腹を鳴らす王子を前にして、さすがに言わないでおいた。
体が丈夫ではない私は、どこかへ出かける事ができない。
長時間外出すると気分が悪くなってしまうからだ。
だから学校にも満足に行く事ができない。
それなのに、教師がもってくる宿題だけがたまっていく。
自室の机にある、問題用紙の山を見てため息をついた。
宿題だけやって何になるのだろうか。
こういうのは同級生と一緒に教え合ったり、テストの点とかで競争しあったりするのが重要だと思うのに。
一人ではつまらない。
何をやっていても。
沈んだ気持ちで部屋の中で教科書を開いていたら、ドアがノックされた。
使用人かと思ったが違う様だ。
「お~嬢さん! あ~そびましょ」
王子だった。
あの変態王子だった。
ドアをあけると、やはり変態が立っていた。
要所に葉っぱ一枚だけついている変態。
子供への教育の面として、その姿どうなのだろう。
王子は私の腕を引っ張ってひょいとかつぎあげてしまった。
「薬はもった、包帯ももった。元気ももった、よしお出かけ準備完了」
そして、王子はよく分からない事をいって、私をどこかへと連れて行ってしまう。
これは、私は攫われているのだろうか。
王子が最初に訪れたのは公園だ。
「さぁ、みんな遊ぼうか!」
すると公園にいた子供達は、王子を指さして口々に変態だと騒ぎ始めた。
私よりもうんと小さい子供達ばかりである。
ものおじしない子供達は、変態的な王子に対する警戒心を持っていないようだ。
そして同時に、権力を持つ者に対する恐れも持っていないようだった。
「石ころなげろ!」
「ぶつけてもいいやつだぁ」
「やっつけてもいいやつ」
「へんたいせいばい!」
「うはははは、俺には当たらぬ。あたらぬぞーい」
何が面白いのか、変態は高笑いをしながら子供達から逃げまくる。
かつがれている私も一緒に逃げるはめになったので、揺らされて大変な思いをした。
でも不思議な事に投げられる石は私にはあたらなかった。
全部当たっているのは変態王子にだけだった。
私に当たりそうになる小石は王子が手で払いのけていた。
器用だなと思った。
変態王子がその次に訪れたのは、調合店だった。
綺麗な薬品のつまった瓶がたくさん並んでいる。
宝石箱みたいだなと思った。
「おばーさん、おやつをおくれ。おじゃましまーす」
そのお店にずかずかと入り込んだ変態王子。
出迎えた店主らしきおばあさんは、怒る事なく「あらまあ」といった顔で出迎える。
そして、色の変わる飲み物や、不思議な味のするお菓子をだしてくれた。
果実の汁を入れると、色が変わる飲み物なんて初めて知った。
それに、食べてる間に味の変わるあめだまも。
おばあさんが魔法であたためたり冷やしたりすると、形のかわるグミとかもあった。
そんな不思議なものがこの世の中にはあるんだ。
少しびっくりした。
「世の中楽しい事いっぱい。お腹もいっぱいで、幸せもいっぱい。おばあさんいつもありがとねー」
「いいえ王子さま、もったいないお言葉です」
店を出る時に、おばあさんからおみやげでいくつかのお菓子をもらってしまった。
その後の変態王子は、畑に向かった。
ここまでやってきた場所のチョイスに、まったく共通点が見つけられない。
畑で作業している人物が、こちらに気が付いて話しかけてきた。
その人物は、大柄な体格の男性。
けっこうな歳の老人だった。
土魔法を使って、農具でたがやした場所を掘り返し、やわらかくしている。
「畑のじーさん。やあ、遊びにきたよ! 元気してるかい」
「王子のおかげさまでな。引退した兵士にも手厚い保障をしてくれるおかげだ」
「そりゃあよかったよ」
老人はにこやかな顔で、農具をふるい畑を耕し続ける。
「そういや最近この畑にグリーンワームがすむついててな。お前さん、そういうのに好かる体質だろ、おいだしてくれんかの」
「よっしゃ、まかせてがってんちょ」
王子はよく分からない掛け声のようなものを放って、畑を走り回り始めた。
そしたら、うねうねとした巨大な生物が土の中からでてきて、王子を追いかけ始める。
犬のようなサイズの、太い紐の様な見た目をしたモンスターだ。
ちょっと、表面に毛が生えていて緑色。
「おうおうおうおう。こっちだ緑やろう。こっちなんだよぉぉぉ」
王子は泥だらけになりながら、そのグリーンワームを畑の外へ誘導成功。
最後油断した王子がグリーンワームに跳ね飛ばされて空高く舞っていった。
畑に刺さり、土まみれになる王子。
その後お礼に、おじいさんから農作物をもらって、その場を後にした。
私はなんだかおかしくなって、少しだけ笑ってしまった。
それからも色々な所をうろうろしていたけれど、夕方くらいに城の兵士らしき女性がやってきて変態王子を捕まえてしまった。
王子は「もうちょっと、あともうちょっとだけ」と言っていたが、その女性は「駄目です」と王子に手錠をかけた。
王子に対する扱いではないなと思ったが、言わないでおいた。
それくらいしないと、変態の行動を制御できないのだろう。
「ちぇ、門番が冷たいんだ。冷たいんだ。君へのお土産もたくさんもらってきたのに」
「言い訳は後で聞きます。だからさっさとお城に戻りましょう」
「僕達の愛の巣に帰るんだね」
「おばあさまに言いつけますよ」
「うええええい」
連行されていく王子は拒否なのか、賛成なのかよく分からない泣き声を上げた。
私は、女性兵士が手配した馬車で屋敷まで送り届けられる事になった。
少し、寂しい思いがする。
なんだかんだいって、今日は楽しかった気がするからだ。
今までずっと外であまり遊ぶ事ができなかったから。
しんみりしていたら、王子が声をかけてきた。
変態なのに、その時は王子様らしい表情を……慈愛に満ちた顔をしていた。
「大丈夫、またあそびに行くよ。俺は皆の王子様だからね。民一人一人を蔑ろにはしないのさ」
そういって、王子は最後に王子らしい事を言って去っていった。
その日から王子は、たまに屋敷に遊びに来るようになった。
あいかわらず変態な見た目は治らなかったけれど、少しだけ退屈な日々が変わったような気がした。
馬車を走らせていたら、変態が道に倒れていた 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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