第22話


 どうしたらいいんだ。



「冴えない顔がさらに酷くなってるぞ〜」


「佐竹‥‥」


「お前山城さんに振られたんだろ?」


「なんでそれを」


「俺はなんでも知ってるんだよ〜。お前若い彼女はどうしたんだよ、もしかして振られた?」


「振られてないよ‥‥」


「モテ期は一瞬だったな、話聞いてやろうか?」


「佐竹、お前俺を笑うつもりだろ」


「お前じゃないんだからそんな事しないよ。いつまでもそんなしけた顔してたらこっちまで暗くなるわ」


「わかったよ」


 俺は佐竹と居酒屋に向かった。


「で、なんでそんなに暗いんだ?」


「彼女と連絡が取れなくなった」


「ハハハッ!もしかしてその容姿のせいか?」


「笑うなよ!」


「ごめんごめん。でも前まで若くて体力もあったのにそれじゃあね」


「彼女と連絡が取れなくなった原因は容姿のせいじゃない。彼女の男友達が変な事吹き込んでんだと思う」


「なんだそれ?」


「男友達は彼女の事が好きで、俺たちの関係が気に入らなかったみたいで俺の事調べたんだと思う」


「やるなその男」


「感心すんなよ。そいつのせいで彼女と連絡取れないんだから」


「でも何を吹き込んだら音信不通になるんだよ」


「多分あれだと思う」


「あれって?」



 俺には秘密がある。いや、あったという方が正しい。

 男なら分かってくれるだろうが、女には到底理解出来ないと思う。


 そんな俺の秘密、いや趣味はラブドールだ。

 それも自分の理想に近づける為改良に改良を重ね何十万もかけてオーダーメイドし、完璧なドールを作っていたのだ。


 俺にとっては完璧な彼女でありパートナーだった。


 そんなある日出会ったのが香織ちゃんだ。


 俺はあの日衝撃を受けたのを覚えている。


 電車で抱きついた時の感覚はまさにナナちゃんだった。


 しかし、人間の女の子に免疫が消えかけていた為まともに顔を見ることも出来ずにいた。


 そして、警察署で香織ちゃんが僕に笑いかけてくれた時、運命だと思った。


 なんと、顔までもがナナちゃんそっくりだったのだ。


 その日から香織ちゃんを思い出してはナナちゃんで楽しんでいたが、実際に香織ちゃんと付き合えるようになって、お金がどうしても必要でナナちゃんをあっけなく売ってしまった。


 そんな俺に罰があたったんだ。


 俺の話を黙って聞いていた佐竹は口を開く。


「ふぅん。それで売ったナナちゃんをその男の子が見つけて、バレたってとこかな?」


「見たら誰でも香織ちゃんだと分かるくらい似てるんだ。別に香織ちゃんをイメージして作ったわけじゃないけど、そうは思わないだろうな」


「で、お前はどうしたいんだ?」


「とにかく、ナナちゃんを買い戻すか、香織ちゃんを取り戻す」


「どっちでもいいのかよ」


「だって、今の俺じゃあ香織ちゃんに釣り合わないし。でもナナちゃんならなんでも受け止めてくれるからな」


「呆れた。だからお前はダメなんだよ」


「え?なにがだよ」


「なんで自分で努力しないかな。いつも楽で自分に都合のいい方ばっかに逃げて、それが一番の原因なんじゃないのか」


「そんな事言われたってどうしろってんだよ」


「まずは、運動でもしたら?それと、スキンケアだろ。後はなんでもポジティブになる事だな。ちょっと前のお前みたいに自信満々にな」


「そうしたら香織ちゃんは戻ってくるかな」


「分からないな、ラブドールの件が本当にバレてるんならお前が変わったところで意味ないだろうけど、やらないよりはマシなんじゃね」



 俺は香織ちゃんが戻ってくるならなんでもしようと思った。


 家にナナちゃんはもういない。

 

 だから香織ちゃんをどうにかして俺のものにする。


 一生かかってもだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る