第67話 唯李VS凛央
そして翌日、土曜の昼下がり。
最寄り駅近くの喫茶店でランチを済ませたあと、唯李は自宅に凛央を招いた。
姉は朝早くに友人と、両親は車で出払っている。家は無人。
唯李は先に玄関を開けて家に入ると、まっすぐ階段を上がり二階にある自室へ。
おとなしくついてくる凛央を背に、部屋の前で立ち止まる。ドアノブに手をかけながら振り返って念を押す。
「言っておくけどオタ部屋じゃないよ? ゆいの部屋って書いてあるでしょ。導かれし者のみが入れる禁断の聖地だから」
「導かれし者……?」
「オタバレしたくなかったから呼びたくなかったとかじゃないから。ていうかオタじゃないから」
よくよく思い返せば、こうやって自分から友達を家に誘うのは初めてだ。
単純に誘う相手がいなかった、というのもあるが、あまり他人を家に呼びたくないという気持ちは依然としてある。
恥ずかしがりで秘密主義な部分はまだ抜けきってないのだ。オタ部屋じゃないと言いつつ普通にそっち寄り。
勢いで誘ったまではよかったが、ここにきて唯李は妙な緊張感に襲われる。
(ヤバイなんか変にドキドキしてきた……。友達でこれって……もし相手が男の子だったら……?)
そういえばこの前悠己はしれっと「とりあえずウチ来て」なんて誘ってきたが、内心どんな気持ちだったのだろうか。
(いや、寝ぼけて出てくるようなやつだからどうかな……)
あのぼうっとした間抜け面を思い出すと、急におかしさがこみ上げてくる。
いくぶん気が紛れた唯李は、一息にドアを押し開けて入室。
続けて入ってきた凛央はというと、物珍しげに部屋の中を見渡しながら立ちつくしている。やや挙動不審な感じ。今日落ち合ったときからずっとそんな調子だ。
凛央の服装は今日も今日とて明るい色の可愛らしいワンピース姿。そして生足。
本人意識してかどうなのか、見た目に自信がないとおいそれとできないような格好だ。というか異性の視線だとか、そういうものには無頓着に見える。
「そのワンピースかわいいねぇ。それお気に入り?」
「うん。というかよそ行きの服ってこれしかないの」
「えっ……?」
「だって普段は制服あるじゃない?」
「あ、あぁ……」
冗談なのか本気なのか。
あまり突っ込んではいけない案件かもしれないのでここはスルー。
いっぽう唯李はどうせ家で遊ぶだけだからと、薄手のパーカーにショートパンツというラフな格好。どのみちそんな露出の高い服なんて気軽には着れない。
「どうぞどうぞ座って座って」
自分はベッドの端に腰を落ち着け、座布団をすすめる。
凛央は両足を大胆に曲げて、ぺたっと女の子座りをした。
思わず凛央の膝のあたりに目が行く。
「わかるね。男子の気持ちわかる」
「……なにが?」
これはやはり無意識お色気キャラ。
まあお色気というほどでもないが、そういうのも萌え要素としてアリだなと唯李は内心にやりとする。
凛央はそわそわと落ち着かない様子で目線をさまよわせていたが、やがてぎっしり詰まった壁際の本棚に目を留めた。
「な、なんだかいっぱいあるのね……。見てもいい?」
「ん、いいけど……」
凛央は膝立ちに前かがみになると、本棚をじっとガン見し始めた。
これまた無自覚なお尻つきだしポーズ……は置いておいて、何か性癖を見られているようで妙に恥ずかしい。
「あ、あ~……あたしって意外とインドア派だからね。意外とね」
と弁解をしていくが、凛央は熱心に棚に見入っていて相づちすらない。
「お笑いのDVDとかもあるのね。こっちは……」
「あ、あんまり見ないでね。恥ずかしいから」
こんなこともあるかと思い、本当にヤバそうなものは棚の奥の列に隠してある。
というか単純に雑食なのだ。その数ある中に、BL漫画の一冊や二冊あっても何ら不思議ではないというだけの話。
「あ、この奥にも……」
凛央が勝手に棚に手を触れだした。さすがにそれはマナー違反。
「い、一緒にゲームやろっか! こっちこっち」
もうそれ以上はよせと、唯李は無理やり凛央の手を引く。
テレビ前の座布団に座らせ、ゲーム機の電源を入れた。
選ぶゲームは当然かの因縁のマスブラ。悠己の話によると、凛央は自分と一緒に遊びたいから練習した、というがいじらしいではないか。
「これ一つしかないから凛央ちゃんこっちね」
唯李は凛央のすぐ隣に腰掛けると、しれっと使いづらい小型のコントローラーを渡す。
そうは言ってもそれとこれとは話が別。勝負の世界に余計な情は無用。この時点ですでに戦いは始まっているのだ。
「なんだか緊張するわね……うまくできるかな」
凛央はややこわばった顔で画面を見ながら、コントローラーを握る。
唯李は凛央がキャラを選ぶのを待って、後出しで持ちキャラの中から相性の良さそうなキャラを選んだ。
凛央の実力のほどは瑞奈から聞き及んでいる。手加減は無用。
こちらも以前とは比べ物にならないほどに成長しているからして、現在すでに瑞奈を軽く超えてしまっているはず。
そのまま凛央も簡単にひねってしまうだろうが、ここは念の為だ。
そしてバトルスタート。
開始直後、唯李は一度凛央のキャラと距離を取り、動き回って相手の出方をうかがう。
ファーストコンタクトは重要……と集中していると、凛央はいきなりよそ見を始めた。
「そうそう、そういえば成戸くんは、いい人よね」
「え? そ、そう?」
悠己の名前が出てきてつい手元が止まる。
急になんなんだ、と思ったとたん、凛央のキャラが攻撃を繰り出してきたので、慌ててコントローラーを握り直す。
「一見何も考えてないようで、いろいろと考えてくれているし」
(これはまさか……相談を聞いてもらっているうちに好きになっちゃったかも的な……?)
なんだかんだで優しいのは知ってるし? と一瞬張り合いかけたが、ここで無駄に悠己アゲをすることもないだろう。さらに凛央からの評価を高めてしまう。
「そ、そうかなぁ~。ときどき人間みを感じない発言するけどね」
「そんなことないわよ。あれでも彼はとても心配してるのよ、唯李のことを」
「えっ?」
またも手が止まった隙に、凛央のキャラが放った強攻撃が直撃した。唯李のキャラが大きく吹き飛ばされる。
「んなっ!?」
唯李はあんぐり口を開けて凛央を睨みつけ、急いでテレビ画面に目線を戻す。
「で、でもそれはね……もちろん、私もだけど」
どうやら意味深な話をして気をそらす作戦らしい。意外にせこい手を使う。
しかしそうとわかればもうまともに耳を貸す義理もないと、唯李は話を聞き流してひたすらゲームに意識を集中させる。
「その……きっと唯李も何か辛いことがあって、苦しいのはわかるわ。わかるけど……」
「ふぅん、そうなんだ~」
だがその間も唯李のキャラは見る影もなくボコボコにされている。
凛央はときおり唯李の顔色をうかがって、ゲームはどうでもよさそうなのにも関わらずだ。
修行の成果むなしく、圧倒的な差をつけられていた。
早くもKOされそうになった唯李は、慌てて声を上げて静止をかける。
「ち、ちょっタンマタンマ! さっきからなんかボタンきいてないかも! なんか充電のとこも点滅してるし!」
「だから……ね? 唯李も、もうやめよう? 隣の席キラーなんていうバカなマネは」
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