あなたのテ
葛屋伍美
第1話 あなたのテ
今日、僕は結婚します。
相手は再婚で母からは反対されました。
でも、あなたは静かに背中だけを向けて黙ってくれていましたね。
そんなあなたが、今日参列してくれているのをうれしく思います。
相手には小学生に上がりたての子供がいます。
子育ての経験もないのに突然、父になる僕に母は心配仕切りでした。
「アンタはずっとだらしなかったのに、行き成り父親だなんて・・・。若いんだから一から出来る相手がいるでしょう?」
母は一人息子の僕を未だに子供のように心配していてくれている。
今までは正直鬱陶しい存在ではあったが、
こうやって、人の親になるという責任感が僕の価値観を確かに変えさせていた。
隣で僕の奥さんになる人が微笑んでいる。
恵子は4歳年上で姉さん女房だ。
一度経験しているということもあり、振り向いてもらうまで大分時間が掛かった。
子供がいる事は承知で恵子と特に娘の亮子ちゃんに気に入ってもらえるように頑張った。
亮子ちゃんの推しもあって、
恵子と一緒になれると決まった時は珍しくあなたとお酒を飲みましたね。
はしゃぐ僕を他所に微笑んで静かに聞いてくれたあなたの事を僕は忘れていません。
思えば、あなたは自分の事をあまり話さない人でした。
特にあなたは仕事の話なんて家でする事はありませんでした。
子供の頃に、学校をサボってあなたの背中を追いかけた事があります。
汗を掻きながら泥で汚れながら一生懸命仕事をして、
怒鳴ったり、笑い合っていたあなたの姿を僕は忘れていません。
仕事でガムシャラになっていた僕に背中を向けながら
「無理をしても意味がないぞ。体が資本だからな・・・。」
と、小さな声で言ってくれたあなたの優しさを僕は忘れません。
生まれて、自分の事をしっかり認識できるようになってから、
僕にもいろいろなことがありました。
色々な人と出会い、喧嘩したり、裏切られたり、仲直りして、
笑い合って、泣き合って励まし合いながらここまで来れました。
思えば、小さな頃見たあなたの姿は僕の大きな見本だったのではと、今は思います。
昔、あなたに夢について、話していた時に、
「野球選手になりたかった。」
と、少しだけ話してくれた事がありましたね。
僕にも夢がありましたが、人生うまく行くようには出来ていません。
それでも、あなたは必死に僕と母を守って育ててくれましたね。
そして、今こうして僕はここに恵子と一緒に笑っています。
あなたもそんな僕達を見て、目に涙を浮かべながら笑ってくれています。
僕はあの頃見た泥だらけになって働いていたあなたの背中と
家に帰ってきて僕の頭を撫でてくれたあなたのその大きなテを忘れません。
僕のテはあなたのような大きな暖かいテになれるでしょうか?
僕はあなたのその背中とテを道標に父親になります。
僕の小さな時の夢は「スーパーヒーロー」でした。
あなたに負けないヒーローに僕はなりたい。
あなたのテ 葛屋伍美 @kuzuya_gomi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます