第38話 ようこそ地獄へ
あと一歩。ほんの僅かにミレイの手がフィガロを掠めた所で阻まれてしまった。カイルが気付かなければミレイの片腕は斬り飛ばされていたに違いなかった。
「おや、随分と鼻の効くのがいるみたいですね。レリエッタ、あなたももう少し早く攻撃出来ていれば完璧でしたのに」
「うっさいわね! まさか、ステルスを見破られるとは思ってなかったわ……この私に恥をかかせた事、生命で償わせてやる」
フィガロはやれやれと言った様子でレリエッタに目を向けるも彼女はそれが堪らなく癪に触った。
「レリエッタ……だと! こいつも特級ブラックリストの1人じゃないか!」
「くそ、やっぱりそう甘かねぇか!」
「し、失敗です?」
(いや、失敗なのはそうだが……これはただの失敗じゃねえ。こいつらまさか……)
「フィガロ、この女は私が貰うわ。残りは私の人形達とアンタにあげる」
「お好きにどうぞ」
「
レリエッタが鎌を振り上げると聖堂の入り口からゾロゾロと人が入り込んで来た。
「な、何だこいつら!?」
「そいつらはちょっと前までこの聖堂にいた人達よ。今はただの
レリエッタが鎌を振ると、ドール達は無表情でそれぞれが持っている武器を振りかぶってきた。
「おいおいマジかよ! どうすりゃいいんだよ! 下手に攻撃出来ねぇじゃねえか!」
「アンタはこっちよ」
「――何だこれは?」
レリエッタは鎌を円状に回転させる。するとミレイの足元に数メートル範囲の魔法陣が現れた。そのままミレイは魔法陣の中に呑まれてしまった。
「ミレイ!!」
いち早くミレイの窮地を悟ったレンは慌てて駆け寄り、縮み始めていた魔法陣へと飛び込んでいった。
「ちょっ! レン!!」
「マズいんじゃないのかこれ……?」
「仕方あらへん、こうなった以上ウチらがやるしかないん」
「ああ、元々この手で仕留めてやるつもりだったからな!」
「ソル、ナル! コイツらは私達が! 2人はアイツをなんとかして!」
「「ああ!!」」
(死ぬんじゃねえぞ! レン、ミレイ……!)
――――――
「こ、ここは……?」
レンとミレイは聖堂の地下に落とされていた。ランタンで薄暗く照らされたその場所は十字架と棺桶が配置されていた。
「ようこそ地獄へ、ここはザラム聖堂の地下深くよ」
「――なるほど、
「そう、こういう場所にはね大体
周囲には小さな光の玉の様なものが浮いている。まるで火の玉、人魂の様である。
「な、なんだこれ!?」
「さあ? かつて人であったものかしら。これはもうただの魔力の塊でしかないけどね」
レリエッタは周りを飛んでいた人魂の一つを手で掴み、そのまま握りつぶした。鎌を振り上げ臨戦体制に入る。
「さて、そんな事はどうでもいいわ。さっきはよくも恥をかかせてくれたわね。お礼にアンタ達は私が直接切り刻んであげるわ!」
「来るか……! こうなった以上、俺らでやるしかねぇ!!」
レリエッタは鎌をレン達に向けて振り下ろす。レンはアロンダイトで受け止めるような形で構えた。
「いや、待て! レン!!」
ミレイの声は間に合わなかった。レリエッタの一撃を受けたレンは防御したままの体制からほぼ力技で壁まで吹き飛ばされてしまった。
「いてて……うっ……嘘だろ!? 防御したんだぞ!? あの華奢な身体のどこにこんな力があんだよ!?」
「弱っ。その程度じゃ準備運動にもならないじゃない」
(マズい……見た目からして力勝負ならと思ったが……)
レンに焦りが出始める。勝つ手段が思い浮かばない。ボス相手にこちらはレンとミレイの2人、NPC達と分断された上に、唯一特効出来る可能性のあるバグもレリエッタには発生していない。手札も手数も限られている中で無事に突破出来る方法を模索しようも、レリエッタの猛攻を耐え凌ぎながらではそれに割くこともままならない。
ミレイとレンは薄暗い空間を利用して、攻撃の合間を見計らい棺桶が積み重なって出来た山に隠れる。
「――レン、諦めろ。現状の私たちのステータスでは仮に試行回数を重ねたところであのレリエッタとやらには勝てない」
ミレイでさえ、現状打破の一手は浮かばない。彼女の口から『諦めろ』という言葉は滅多な事で出てこない。それだけ危険な状況ということをレンは察した。
「……そうは言っても諦められるかよ! ミレイはもう、詰んでるって考えてんのか!」
「落ち着け。私は"現状の"と言ったんだ。――つまり、分かるな?」
「ちょっと待てよ……お前まさか!?」
ミレイの意図を理解したレンの表情が青ざめる。
「ああ、"自分自身"にスプリクトコードを使う。もうこれしか手はない」
「そんな! 他に方法が……」
以前、ミレイが言っていた。現実世界の意識をデータとして反映させている以上、そのコードに手を加える事が危険だということをレンは覚えていた。
「今回ばかりはそんな事考えている余地はないぞ。戦力が分断されてあっちはフィガロの相手をしなければならないんだ」
「…………わかった」
レンにとって苦渋の決断だった。唯一ある策がミレイを危険に晒してしまうことだという事に。
「レン、3分……いや、2分半でいい。私を集中させろ。大掛かりなコードになる。時間を稼いでくれ」
「さぁ、コソコソ話しは終わったかしら?」
気配を察したレリエッタがもう寸前まで近づいて来ていた。
「チッ……! 来やがった! まあ、待ってくれるワケないよな」
レンは深呼吸をする。だが、気休めでしかない。ミレイの時間を稼ぐとなると動けるのは自分のみ。敢えて深くは考え無い様にしているが、ミレイの背中を預かる重責と、生命のかかる戦闘。震える手先を舌を噛んで無理矢理抑えていた。
「――行ってくる」
「ああ、頼んだぞ――」
それが、最期の言葉とならない様に、意を決してレリエッタの前にレンは姿を出す。
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