第37話 刹那
レンの目的はミレイと2人でウィスタリアからログアウトする事。しかし、うって代わってミレイの発想や行動はレンからしてみれば危険な物ばかりだった。真意が上手く掴めずモヤモヤしていた。
「さあ、着いたぞ」
「都市ザラム。治安があまり良くなく、富裕層と貧困層との差が激しいと聞く。ブラックリスト以外にも油断はするなよ?」
オウガが全体に向けて喝を入れる。だが、自身が1番不安を押し殺している様な表情を浮かべていた。
「あぁ……!」
街並みは規模の割には出歩く人は少なく、比較的閑静であった。歩を進める一行にはそれがある意味で不気味、嵐の前の静けさの様に感じていた。
「キキ、サーチの方はどうだ?」
「間違いないです……この街に確実にいます!」
「ぼちぼちこの街にも賞金稼ぎはいる様だが、まさかこの街に特級ブラックリストがいるだなんて考えてないだろうな……」
「さあ、いよいよだな。あまり固まっていては変に目立つ。首尾良くいけば一瞬で終わりだ」
「首尾良く行かない場合は……?」
「そうなったら臨機応変に対応するしかないだろう」
「因みに、どれくらいの確率で成功なんだ?」
「……大体5割くらいか」
「そうか、まぁ残りは仕方ないな。足りない分は俺たちでカバーするしかないか」
些かの不安は残るものの、初めから安全な依頼ではないことは織り込み済みである。ソルはあまり気にする事なく先へ進んでいった。
「……ミレイ、5割ってのは本当か?」
レンはミレイの発言に妙な間があった事に違和感があった。
「ああ、本当だよ」
「……」
「――スプリクトコードを入れるところまではだが」
「おい、何だその意味深な後付けは!?」
レンの予感はある程度的中した。そもそもこんな確定要素のない作戦の成功率が5割もないことはレンも気付いていた。
「コードを相手に入れても、確実に倒せるとは限らない。それにブラックリストは1人じゃないだろう。残りの奴から襲撃を受ければそれまでだろう? 単独でいてくれれば成功率は上がるがそれはこちらの願望でしかない」
「……むしろさ、今からそのままナーシャを止めに行くことは出来ないのか? どのみちナーシャの所へ行くのなら、わざわざブラックリストと戦うリスクを冒さなくてもいいんじゃ……?」
「普通に考えればそうだろうな、私も一刻でも早くバーレル鉱山に向かいたい所だ」
「じゃあ、行くべきなんじゃ?」
「……レベルもフラグも、そもそも変数が足りていないのもある。簡単に言えば今すぐバーレル鉱山に行くとしたなら、海のど真ん中で莫大なプログラムの組み直しをする必要がいる可能性がある。さらにバーレル鉱山の推奨ランクが5に変更されていたということは、今の私達では魔物に遭遇した時点で詰みかねない」
「急がば回れってやつか? ブラックリストを倒せれば確かにレベルは上がりそうな気がするが、俺からしてみると今のウィスタリアでのレベルの概念がイマイチわからないんだよな」
「基本は通常のロールプレイングと一緒だ。レベルを上げれば当然強くなる。だが問題はそれよりも変数の方だな。ボスを倒せば変数が増える。ここでブラックリストを倒せれば、フラグが立つ。すると、現在のランクでは入れないが、ダンジョンとしては出現するんだ。出してしまいさえすればプログラムの書き直しよりもはるかに安定して入る事ができる」
「ランクを5にしなくても入れるのか?」
「少し力技になるがな」
「相変わらずよく分からん……まあ、ミレイがそう言うんじゃ必要なことなんだろ? だったらやるしかねぇか」
(…………『繧ェ繝槭お繝イ繝槭ヤ繧セ』)
ミレイは一つの文字化けの列を思い出した。
(ソルのノイズに紛れていたこの文字列、明らかにソル自身に向けたメッセージじゃない。これが私に向けたメッセージなら、もう既に私達は相手のレールに乗っている状態か……いいだろう、誰が相手でも私は受けて立つ。私の創ったウィスタリアでいつまでも好きにはさせん。それに、何があろうとレンだけは……)
面にこそ出ないが、差出人の不鮮明なメッセージにミレイも不安を覚えていた。しかし、大事なのは今。ここでブラックリストを対処出来るかどうかで今後の展開が変わってくる。ミレイは深くは考えず、改めて集中する。
「みんな……もう間もなく着きます。位置的にあそこにいます」
「ここは、聖堂か……?」
「何でまあこんな所におるんかなぁ」
「四の五の考察しても仕方ない。段取りは馬車で話した通りだ。私が先陣を切る。バックアップはミィナとカイルに任せる。頼んだぞ」
「了解!」
「わかったわ!」
ミレイが作戦開始を指揮する。順序通りキキはミレイにバフを掛ける。ミレイはそのまま、臆することなく大聖堂の中へ進んでいった。
ミレイは辺りを見渡す。広い聖堂内だが、人影が見当たらない。
(誰も居ないのか……?)
ふと、ミレイが奥に目をやると教壇の前に立ち、女神像を眺める1人の男の姿があった。見かけだけなら他のNPCと差は無いが、異質な気配を放っている。
(こいつが、首狩りとか言う奴か……!)
「頼むぜ、上手くいけよ……!」
配置についた一行が固唾を呑んでミレイの動向を見守る。バックアップについたミィナ、カイルはフィガロの動作、周囲に細心の注意を払う。
勝負は一瞬。ミレイがフィガロに向かって駆け出す。当然、フィガロもそれに気づくが特に身構える様子はない。何も知らない女性がただ走ってくるだけ、フィガロの求める強者のイメージから外れた存在である事から隙だらけである。
――フィガロ1人であればの話しだったが。
「もらった!」
「――!! ダメだ!! 止まって! ミレイ!!」
「むっ――!」
ミレイの手がフィガロの肩に触れる寸前、異変に気づいたカイルは急遽ミレイの手を止める。その瞬間、巨大な鎌がミレイとフィガロの間に振り降ろされた。
「ミレイ!!」
「うそ!? 外した!? 絶対バレないと思ったんだけどなぁ」
鎌の持ち主、一撃必殺を確信していたにも関わらず、空振りをしバツの悪そうな表情を浮かべる少女。歪んだ空間から現れたのはもう1人のブラックリスト――レリエッタであった。
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