第3話 全ての始まり

 ミレイの部屋を物色していたレンにある提案が浮かんだ。何かミレイに勝てるものはないか、せめて自分の得意な分野であればと色々模索した結果、辿り着いた答えはゲームだった。


「なあ二人で出来るゲームってある? 対戦しようぜ! 対戦!」

「対戦か、インプットの参考用に買った格闘ゲームとハードならあるけど」


 ミレイが持って来たのは、学校の中でも流行っている有名な格ゲーだった。


「おっ! いいもん持ってんじゃん! よっしゃ! 俺はミレイみたいに頭は良くないけどゲームなら得意だぜ!」


 意気揚々いきようようとゲーム始めたレンであったが――数分後、そこにはボコボコに打ち負かされたレンの姿があった。


「か、勝てない……強すぎる」

「よ、弱い……弱すぎる」

「まさかほぼ全キャラ使っても勝てないなんて……」

「参考とはいえ、ゲームバランスやキャラクターの個性を理解するためにそれなりにはプレイしているからね。そもそも無駄な動きが多すぎるんだ。飛び回ったり、ぐるぐる回りながら走ったり、まるで学校での君じゃないか」

「ぐっ……!」


 レンの性格がキャラに反映されていることを淡々と指摘する。一方、会話をしつつもミレイは的確で無駄のない攻撃を容赦なく繰り出していく。


「くっ……! そしたらこれならどうだ!」


 レンが操作するキャラが徐にギミックの木箱を持ち上げるも、ステージの一番端の方まで離れていった。


「また訳の分からないことを……」


 ミレイは木箱を持った無防備なレンのキャラに必殺技を放つが――


「あれ……!? 体力が減らない?」


 無表情で淡々としていたミレイの表情がついに揺らいだ瞬間であった。


「ちょっとしたバグでさ、このステージの端っこで敵の攻撃が、自分のキャラが持ってる木箱と同時にぶつかるとダメージを受けなくなるんだ! まあミレイが使ってる様な攻撃範囲の広いキャラ相手じゃないとうまく使えないんだけど」

「なっ……!? ずるいぞ、そんなの!」

「使えるバグは実力の内だぜ!」


 よく分からない名言を放ったところで、レンのキャラが攻撃を受けつつもミレイのキャラに反撃する。バグで不死身となったレンのキャラには勝てるはずもなくミレイのキャラが撃沈する。


「どういうことだ……? 攻撃判定は生きている、特定条件下で同時被弾することでダメージの優先順位が書き変わるのか? それとも攻撃数値に異常をきたすのか? ……仕方ない、知識の虚を突かれたのは事実だし。今回は私の負けだ」


 ミレイは予想だにしなかった敗北で溜息をつく。


「うぉぉぁぁぁーー!!! ついにミレイに勝ったぁぁぁぁぁあ!!」


 レンは声を上げて喜んでいた。


「36戦やって1勝目だぞ? そこまで嬉しいか?」

「むしろそれだけ勝負してやっと勝ったんだから嬉しいだろ!」

「……バグを使ってな」


 ミレイはクスっと微笑んでいた。浮かれているレンの姿を見ていて、僅かに笑いが込み上げていたのだった。


「あっ! ミレイ、そういえば今日初めて笑ったじゃん! 遊んでるときは笑って遊んでたほうが楽しいだろ?」

「いや、何か滑稽こっけいで思わず……それより、今日は何時まで私の部屋で遊んでるんだい?」


 すっかり陽は落ちており、時計の針は18時15分頃を指していた。


「うわヤベっ! いつの間にこんな時間に……もう帰らないと! お母さんに怒られる!」

「さっきのバグはネットで調べたの?」

「いや、友達んちで遊んでた時に俺がたまたま見つけてさ、もしかしたら使えるかなって。というか俺スマホもないし、家のパソコンはいじれないし」

「そうか、丁度良いや。じゃあコレ」


 ミレイは手提げバッグの中から道中でやっていたゲームをレンに手渡した。


「これって、ミレイがさっきやってたゲーム?」

「作ったばかりのゲームだけどテストプレイヤーが必要だと思って。だからしばらく貸してあげる。その代わりプレイしながら『デバッグ』をして欲しい」

「デバッグ?」

「簡単に言えばバグ探し。作った私が探すよりも他人が、それもメチャクチャな行動をしてくれそうな君の方が案外適任だろうし、頼めるかな?」

「えっと、俺がミレイの作ったゲームをやって、バグがないか探せばいいの?」

「そういうこと」

「いいよ! まかせて、やってやんぜ!」

「ありがとう、もし何かあったら直接連絡してくれ。それと、学校で話すのはなるべく控えて欲しい。目立つとギャラリーが増えてゲーム作りに支障をきたす」

「連絡はいいけど、俺スマホ持ってないから……家の電話で?」

「そんなことしなくても、そのゲーム機を使うといい。メールやチャット、簡単な通話くらいなら出来るぞ。私も予備機で繋いでいるからメールが送られたら確認出来るし」


 レンの心配は杞憂きゆうに終わる。聞くところによると画面はスクリーンショットを撮ることが出来て、メールには画像添付が可能、さらには通話しながらもゲームが出来ると言うから驚きだ。


「……これ、もうほとんどスマホじゃん。こんなすごいヤツ、ホントに借りてっていいの?」

「ああ、そのかわりちゃんと仕事をしてもらうぞ。じゃあ頼んだよ。――

「――おうよ!」


 このゲームが、折原蓮と聖堂寺海玲を繋ぐきっかけとなった。

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