生きてるだけで苦行なのでブラフマーストラを授かった
はむらび
第1話
人生は苦行だ。
肉体は重く苦しい。精神は辛く苦しい。
生きていても望んだことが叶うことはそう多くなく、会社、学校などの人間関係により恨みは増える。よしんば人生が短期的に幸福でも、いずれ死して失う。
ごく普通のゴミ部屋ニート、瘋癲瘋太郎(フーテンプータロー)は、そんなことを思っていた。
では、自分以外は幸福なのか?自分はゴミ部屋ニートをできているからまだいいものの、ホームレスの方々や紛争地域の皆さんはもっと辛いだろう。では、自分より頑張って競争社会で生きている皆さんはどうだろう?これもまた激しい競争社会に晒され、辛いに決まっている。
つまりはこうだ。生きてるだけでログボをくれ。瘋太郎は努力が嫌いで何も持っていないが、分け与えるやさしさだけは持っていた。全人類が、生きてるだけでログボが貰えるようになってほしいと思っていた。
そんな瘋太郎のことを、神は見捨てていなかった。神頼みしかできないやつなんだから見捨てていい。
衆生はこんなに苦しんでいるのに、私が何もしてやらないのはかわいそうだ。インドの最高神3人のうちの1人、「創造」を掌るブラフマーはそう考えた。
ブラフマーは、インドの多くの神の中でも、非常に「太っ腹」な神として知られる。自身を信仰する者や、苦行を行ったものに対して、「ブラフマーストラ」という能力を授ける。
インドの神々は「アストラ」というこの能力を授けることができるが、ブラフマー神ほど大量供給する者は他に居ない。
ブラフマーストラは、「創造」を掌るブラフマー神の持つ権能である。主に、矢や剣の軌道上に光と熱量を創造し、辺り一帯を消し飛ばす古代インド式大量殺戮兵器である。つまり、創造とは破壊であり、破壊とは創造なのだ。
ブラフマー神はこう考えた。「苦行を行ったものに対して、今まで「ブラフマーストラ」を授けてきた」「人生は苦行である」「ならば、人生を行ったものにブラフマーストラを授けるべきではないか?」魔の三段論法!
瘋太郎の体が突如神々しく発光!
「まさか、本当に神がログボを……?」光り輝く自らの肉体を眺めたのち、指先からブラフマーストラを……撃つ前に爆散!!!
何故?ブラフマー神の加護に不摂生な体と体内の中性脂肪が耐えられなかったのか?
否。彼を吹き飛ばしたのは別のブラフマーストラ。ブラフマーストラは、生きとし生けるものすべてに与えられたのだから!!!
時間を少し遡る!
「はあ……仕事なくなっちゃった……どうしよ」ブラック企業から退職し逃げ出してきた元OL!!
「こんな辛いときには……暴力!!!!」
道行く男性を殴る!道行く女性を殴る!!道逃げるひったくりを殴る!!感謝してきた、鞄をひったくられたおばあちゃんも殴る!!!
その時!!
「辛く苦しい人間関係に苛まれ、暴力に逃げるしかないとは……なんという苦行の連鎖……あなたにはこのブラフマーストラを授けましょう」
「うるせえ!あたしの暴力は逃げなんかじゃない!!これは就職する前からやってる純粋に創造的な趣味だ!!!」
出現したブラフマー神の光像を殴る!!!!!!
すると突如、拳から光が!!そう!ブラフマーストラは本来、インド叙事詩の英雄が矢を放ち剣を振ると生まれるもの。つまり、武器を振るうと発生しその威力を増すのだ!!
そして、この元OL現通り魔の武器とは……その拳!!!!
拳が振るわれるとともに出現した光と熱量は、元OL、通り魔にあった人々、そしてその射線上に居た不幸な瘋癲瘋太郎を消し飛ばしたのだ。
そして、この出来事はここでだけ起きたことではない!!!!!!
遠く離れたアフリカ、世界最大の犯罪都市ヨハネスブルク!!!!
「ヒャッハー!」ロケットランチャーを持った殺戮強盗団が、興味本位でやってきた白人観光客を襲う!彼らは学がないので、損壊度合いの低い死体なら裏市場で売れることを知らないのだ!!!!!
「可哀そうに……人から奪い、破壊することしかできない人生など、とんでもない苦行です……このブラフマーストラを授けましょう」「ヒャハ?」ロケットランチャーの軌道上にブラフマーストラが出現!!
その強力さは核兵器にも喩えられ、古代インド核戦争説の典拠ともなる(出典:月刊ムー)ブラフマーストラの威力は、白人観光客を金目のものと同時に吞み込み、そのままスラムに着弾!犯罪都市浄化!!!
パンを咥えた少女の体当たり!全国アーチェリー大会決勝戦!トラックの突進!いきなりレールガン女子高生!あらゆる「攻撃判定」が「ブラフマーストラ」に変貌!同時多発的なブラフマーストラの熱量で、人口密集地区は焼失!今後20~30日間は気温が1000度を下回ることがないという絶望的天気予報!
世界で同時多発的に発生したブラフマーストラは、地表存在を軒並み吹き飛ばし、ペルム紀、三畳紀、白亜紀を凌駕する大量絶滅を引き起こした!!
また、惑星内で発生した大量の指向性エネルギー波により地球の自転軸・公転軌道が異常変化!複数の人工衛星、スペースデブリが隕石として落下!まさに地獄絵図!!!!
しかし、この物語の世界観はインド神話であった。インド神話においては、滅亡は割と日常茶飯事だったのだ!
惑星の滅亡に際し降臨するとされる、インド最高神の1人、「維持」のヴィシュヌの最終化身体(ラスト・アヴァターラ)カルキが約43万年ほど前倒しで降臨!
世界は救われた。
……ブラフマー神は思った。なんとままならぬものであるか。良かれと思って行ったことがこんな結果を招いてしまうとは、悲しくて、苦しくて仕方がない。
つまり。神生はままならず、ままならないなら苦行である。苦行であるならば、ブラフマーストラを授ける必要がある。完璧な三段論法だ!
神々は、自分の体内から湧き出る、異質な力に気づいた。本来単一の世界事象をつかさどる神に、創造神の能力が与えられたことで暴走!神々爆散!!!
自身に権能を授ける再起処理を行った創造神ブラフマーは無限ループに陥り処理を中止!創造・維持・破壊のバランスが崩れる!
世界は滅亡した。
生きてるだけで苦行なのでブラフマーストラを授かった はむらび @hamurabi
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