倒される為だけに存在する魔王なのに、いつまで待っても勇者が来ないのでこちらから向かうことにした!

青空鰹

倒される為だけに存在する魔王なのに、いつまで待っても勇者が来ないのでこちらから向かうことにした!

我の名はゼクス! この世の全てを支配する偉大なる魔王なりっ‼︎


……なんて設定を女神様から与えられた俺は、新田にいだ まこと日本人でサラリーマンをしていた男だ。

何でこんなことになっているのかを簡単に説明すると、この世界の女神様が俺のところにやって来て「私の世界で人間同士の戦争が起きそうです! なのでアナタに共通の敵である魔王になって貰いたいです!」なんて言われてしまったんだ。


普通さ、そんなこと言われたら断るじゃん。だってやられ役をやれって言われてるようなもんだし、何よりも女神様は俺に対して殺されてくれって言ってるようなもんだよ! 言っている意味分かるよね?

もちろん最初は断ったよ。でも女神様が「もし受けてくれたなら、転移する直前の元居た世界に戻してあげますし、お金を差し上げます。……日本円で」って。

だからさ、「いくらになる?」って聞いたら「5億円一括で払います」と言ったからOKしちゃったんだ!

そして今その判断を後悔してるんだよねぇ〜。何故かと言うと……。


「魔王様……今日も勇者が来ませんね」


「ウム……そうだなぁ…………」


そう…勇者が現れないのだ! ……いや! 現れないどころか今となっては勇者のゆの字も俺の耳に入らない状態なんだ!


「魔王様好奇です! ここは我ら四天王の1人剛拳のガブスが、隣国を沈めてみせましょう‼︎」


彼は四天王の1人ガブスくん。強靭な肉体を持つオーガで腕力はもちろん脚力もあるし、何よりもそんじょそこら剣で身体に傷さえも付かないのだ!

俺と出会った頃は弱かったのに、今ではゴブリンとオーガの指揮をするほどに立派な四天王になって……嬉しいよホント。


「いいえっ‼︎ この筋肉馬鹿ではなく、四天王が1人龍王のグランガが行きましょう!」


ガブスくんの横に並ぶようにして出て来たのは、龍人族のグランガくん。彼は小さい頃に龍人族の村から追い出されたところを俺が保護してあげたんだよなぁ。それから俺の下で厳しい修行を重ねて、今では追い出した村さえも畏怖されるような強さを持った存在になったんだよなぁ〜。


そんなことを思っていたら、そのまた横に褐色の女性が並んだ。


「突撃しか脳のないアナタ達に、そんな重要なことを任せられないわ。魔王様…四天王が1人である。ミネルバにお任せ下さい」


ああ〜……この子はダークエルフ族の村長の娘でミネルバって名前の女の子だ。初めて一国を制圧したときにダークエルフ族が虐げられてることを知ったんだよなぁ。

だから友好関係を結んで生活の援助してあげたら、ダークエルフの村長が「自分の娘をアナタ様の側に置いて欲しい!」と言われたんだっけ。その頃のミネルバは子供だったから拒否したんだけど、「どうしても……」って言われてしまい押し付けられる形で引き取ったんだ。今じゃセクシースタイルな女性になったんだよなぁ。


「フォッ…フォッ…フォッ……お主達では国を滅ぼすのに数日掛かるじゃろう。

魔王様。ワシがその国を1日で滅ぼしてみせましょう」


その言葉の後に現れたのが大きな鎌を持った骸骨。死霊族のレイス。ログボーンが床からスゥーッと出て来た。


ログボーンは確か…死霊の森に視察で入ったときに俺に襲って来たんだよな。

それでビックリした俺が「いきなり襲って来るヤツがいるかぁああああああっ!⁉︎」とか言って顔を殴ったら「えっ⁉︎ 何でワシの顔を殴れるのじゃ? いや…死霊のワシに触れること事態おかいしことじゃ!」って言って混乱しているところをコテンパンにしてやったんだよな。

そしたら「ワシら死霊族はアナタ様の強さに感服しましたぁ……。ワシの命を差し出すので、同胞の命を取らないで下さい!」なんて言われたよ。

まぁ許してあげてそこにお化け屋敷を作るように命じたら、大反響を呼んでリピーターが続質して経済が潤っているみたい。

そのお礼として当時俺を襲った…って言うか、長を現役引退したログボーンが四天王に就いた。


なんて回想をしていたら、四天王同士が言い争っているよ。


「魔王様! この俺が!」


「いいえ! この俺様が!」


「何を言ってるの! 私が!」


「適任はワシに決まっておるじゃろう……のう。主人よ」


「……あのさ。俺の目的を忘れている訳じゃないよね?」


「「「「あっ⁉︎」」」」


俺の言葉に四天王達は気が付いたみたいだ。


「しかもさ…国を滅ぼすしたり占領するのも何回目だと思ってるの?」


「……8カ国めです」


「馬鹿オーガめ! ついこの間国を占領したから9カ国目だろう‼︎」


「何を言っておる。10カ国」


「確かにログボーンの言う通り、10カ国目ね」


「さっき連絡が来て12カ国目だよ」


「「「「12カ国目?」」」」


「魔王様は何を言ってるの?」と言いたそうな顔をしている四天王に対して、真は呆れた顔をさせながら話し始める。


「1国は無条件降伏して、もう1国は先鋭部隊だけでさっき滅ぼせた」


「「「「ええ〜……」」」」


四天王が引いているのもその筈。何故ならつい1ヶ月前に攻め入ったばかりなのだ。


「それでさ、改めて聞くけど……俺の目的が何なのか理解してるよね?」


「魔王様は勇者に倒されることですよね?」


「そういうこと。なのにこの現状は何なんだよぉっ⁉︎」


魔王成り立ての頃は魔王国を守るのにも苦労をしていた。けれど今じゃ鉄壁の要塞と言われるほどになってしまった!

それにこの世界にいる筈の勇者が全く来ないから、俺を含めた四天王はLv100カンストどころかリミットブレイクしてLv300代になってるし! てか俺がLv500って凄くない⁉︎


「そう…ですね」


「確かに…私達のやるべきことは……ねぇ?」


「ワシらも分かっておるんじゃがぁ……のう?」


「もしかしたら、勇者が存在してねぇんじゃねぇか?」


ガブスくんの一言に空気が張り詰めた。ガブスくんもその空気に気が付いたのか慌てた様子で話し始める!


「…いや、俺はお前らよりも魔王様といた時間が長いんだぜ! 7年も魔王様と一緒にいて勇者って言葉を全く聞いたことがねぇんだぞ!」


準備期間に3年。そして国の維持と発展と防衛とかで5年。計8年間頑張って来た。


「女神様から“アナタが転移してから3年後に勇者が異世界から来ますから、それまでに準備しておいて下さい。”って言われたよ」


「えっとぉ〜……転移してから3年ですから……話題になってもおかしくないですよね?」


「そうじゃのう……人間国に潜伏している者から、何も連絡が来ないんじゃよ」


「もしかしてやられたのか?」


「いや…健在じゃ」


生きているのに連絡を寄越さない?


「まさか囚われてしまってるのか⁉︎」


「囚われてる訳ではなさそうじゃ……今でも諜報活動しておるそうじゃ」


「なら何で勇者の情報がないのかしら?」


「……分からん。全く分からんのじゃ」


勇者が来る様子はないし、ましてや勇者の情報が来ないなんて……あ〜もうっ⁉︎


「俺自ら人国に行ってみて確かめて来るっ‼︎」


これが手っ取り早い方法だ!


何て思っていると四天王達は驚いた様子を見せる!


「イヤイヤイヤイヤッ⁉︎ 魔王様が行かなくても!」


「そうです! 諜報活動ならこの私が……」


「いいや、俺の目で確かめてやる! ガブス、グランガ、ログボーン! お前らに俺が居ない間の城の管理を任せる!」


「「「ハッ⁉︎ 畏まりました」」」


「あの…私は?」


「ミネルバ。お前は俺と共に来い! 勇者を確かめに行くぞ!」


俺の言葉にミネルバはとても嬉しそうな顔をさせる。


「はい!」


「念の為に変装をしておけよ。バレたらとんでもないことになりそうだからな」


「畏まりました! 魔王様‼︎」


嬉しそうな顔で準備を進めるミネルバに対して、真は変装の準備をするのであった。そして準備が出来たので人国へと潜入した。


「人国の警備がこんなに手薄だったなんて……魔国でこんなんじゃ厳罰ものだぞ」


「ゼクス様。誰が聞いてるのか分からないので、安易にその言葉を出してはなりませんよ」


「おっとすまない」


俺達は冒険者の2人組と言う設定なので、俺は人の姿の剣士ふうの格好でミネルバは褐色だった肌を魔法で変えて普通のエルフの魔道士の格好で街を歩いている。


「それで、勇者がここにいるのは間違いないのか?」


「えっとぉ〜……そのようなのですが、何せ情報が4年も前のものなので当てになるかどうかぁ……」


4年も前の情報かよ…。


「もしかしたらどっか別の街に異動している可能性の方が高い気がする」


「私もそう思います。なので聞き込みしてみましょう」


情報収集するのに手頃なところと言えば……酒場とか食堂とか露店かな?


「ちょっとお店に入ってみるか? あのアクセサリーショップなんてどうだ?」


「えっ⁉︎ これってもしかして……デ…デデデ、デートのお誘いでしょうかぁ⁉︎」


デート? そんなつもりはないんだけどなぁ〜……。


なんて思っていたら周りにいた人間達が騒ぎ始め、どんどん俺達を通り過ぎて行く。


「ん? 何だ?」


「何かパレードでも始まるのでしょうか?」


俺達が疑問に思っていると1人の男性が慌てた様子で近付いて来た。


「おい! アンタらもどっかに隠れた方がいいぞ!」


「隠れた方がいいとは、どういうことでしょうか?」


「もしかして……って、そんな場合じゃねぇ‼︎ あの勇者がこっちに向かって来てるんだよ! 何をされるか分かんねぇから、さっさと逃げろ!」


「なぬっ⁉︎」


コイツ今勇者とか言ったなっ‼︎


「本当に勇者がこっちに来るのか?」


「ああ、本当だ!」


……なら好都合じゃないか!


「一体どんなヤツなのか、顔を拝ませて貰おうじゃないか…」


「そうですねぇ〜……。私も噂すら聞いたことがないので、見てみたいですねぇ〜……」


ん? 何かミネルバの声に怒気を感じるのは俺の気のせいか?


「ああ〜もうっ⁉︎ どうなっても知らんからなっ‼︎」


男性はそう言うと、俺達の後ろを通り過ぎるようにして逃げて行ってしまった。


「もうすぐ勇者が来るみたいだから、気を引き締めておけよ。ミネルバ」


「はい。魔王様」


身構えて待っていると、向こうから勇者と思わしき格好をした青年がやって来た。


あれが勇者か……。


顔は今受けしそうなイケメンなのだがぁ……首から下が取って付けたかのような膨よかな身体になっている!


なんつう体型をしてるんじゃ! コイツはっ⁉︎


相撲のような身体ならともかく、あのボヨンボヨンと動くお腹は誰がどうみても脂肪の塊にしか見えない‼︎

俺とミネルバが呆気に取られていると、勇者の方はこっちを見つめて顔をニタリと嫌味な笑顔を見せる。


「おい! お前っ‼︎」


「初対面に対してお前とは失礼なヤツだな」


「お前じゃねぇよ! バカッ⁉︎ そこにいるエルフだよっ‼︎」


エルフ? …ミネルバのことか?


そんなことを思いつつ横にいるミネルバを見つめると、もの凄く怒っているのが分かったので一歩引いてしまった!


「魔王様に……馬鹿呼ばわりですって……」


「こ…小声で言うのはそこまでにしようか。勇者こっちに来ているし」


てか空気読まねぇなぁ。コイツ!


なんて思っていると空気を読めない勇者はミネルバの前に立った!


今さら気が付いたけど…後ろにいるのは連れか? ……いや、それにしては表情が申し訳なさそうにしているし、何よりも服装が市民って感もあるなぁ。


何て思っていたら、こっちにやって来た勇者(?)がミネルバの腕を掴んだ!


「お前冒険者だろ? だったら俺のパーティーに入れよ!」


「…ハァ?」


ミネルバが「この人何を言ってるの?」と言いたそうな顔で勇者(?)を見つめるが、勇者(?)はミネルバの表情を分かってるのかどうか分からんが話し出した。


「やっぱ勇者パーティーにキレイなエルフがいるのがいいじゃん! だから俺のパーティーに入れよ!」


意味が分からん! てかお前の仲間は何処にいるんだよ‼︎


何て思っていたら、ミネルバが腕を振り払った!


「穢らわしい! 誰がアナタみたいなゲスとパーティーを組みますかっ‼︎」


「穢らわしいなんて言うなよぉ〜。お前の隣りにいる地味でクソザコっぽい男よりも頼りになるし、何よりもこの俺! 勇者パーティーの一員になればチョォ〜〜〜……ゆぅ〜めいになれるんだぜ!」


うわぁ〜……馬鹿みたいな喋り方して恥ずかしくないのか?


「地味…クソザコ…………この方を?」


…あっ⁉︎ ヤバイパターン‼︎


「ミネルバ落ち着け! こんな小物の言葉を間に受けるのは、自分の価値を下げるものだぞ!」


「小物? クソザコの脇役野郎の癖に生意気なことを言ってんじゃねえっ‼︎」


勇者(笑)が怒りの形相で俺に拳を振りかざして来た! ……のだけれども、振りかざした拳が滅茶苦茶遅くてキョトンとしてしまう


……コイツ、ふざけてんのか?


そんなことを思っているとミネルバが俺の前にやって来て、その拳を片手で受け止めた。


「なぁっ⁉︎ 俺の拳を受け止めたぁ!⁉︎」


「……死になさい」


パシンッ⁉︎


ミネルバはそう言うと勇者の顔に平手打ちかました! そしたらその場で扇風機の羽のような有り得ない回転をし始めた!


「へぶるるるるるるるるるるるるるるるるるるっっっ‼︎⁉︎」


そして地面に接触すると頭から地面にめり込んだ! 怒り狂っていたミネルバも、我に返って驚いた表情を浮かべている!


「ま…魔王様……この勇者弱いです!」


「いや……ミネルバの方が強いのかもれない」


「……何⁉︎ 魔王だとっ‼︎」


「「…あっ⁉︎」」


しまったぁ⁉︎ ついうっかり喋ってしまった‼︎


そう思っていると、めり込んでいる勇者が顔を上げてこっちを向いて来た!


「お前……生きてたのか?」


「フッフッフッ……俺の称号の1つに【勇者の使命】と言うのがあってな。魔王を倒すまで死なない身体なってんだ!」


それって呪いの間違いじゃないかっ⁉︎ てか今の会話さぁ、俺が正義の味方で勇者が悪役っぽかったから嫌な気分だったんだけど‼︎


「まさかお前の方から来てくれるとはな……正直言って感謝しかねぇ」


「……いや、お前が魔王城に来ないからだろう」


召喚されてから5年間何してたんだよ? と言いたいのをグッと我慢する。


「……フンッ⁉︎ いずれ行こうと思ってたさ」


勇者はそう言うと背中の方に挿している剣を引き抜いた。


「この剣は聖剣アスタリスク! 攻撃力が200にどんな闇の魔法も撃ち砕く!」


「アスタリスク……」


たしかこの印のことだよな? もうちょっとネーミングセンスを考えた方がいいんじゃないか?


真がそう思っている中、勇者が剣を振りかぶって言い放つ!


「魔王! この場で俺の糧となれええええええええええええっ‼︎⁉︎」


そう言って飛び上がり、落下と共に剣を振り下ろして来た!


さっきから悪役っぽいセリフしか言ってねぇし! コイツの動きが遅過ぎるし! てかマジで顔と体型が雑コラって言いたいほど合ってねぇし! てか俺のツッコミが長いって‼︎


そう思った後、落下して来た勇者の剣を片手で掴むとポイっとそこら辺に投げた。


「あべええええええええええええええええええっ!⁉︎」


勇者はそう言いながら飛んで行き、民家の壁に激突した!


「……身も知らない家主さんゴメンなさい。後で壁を直しておくので待ってて下さい」


「魔王様って、ホント真面目なところがありますよねぇ……」


「…てか本当にアイツ勇者なのか? 念の為にステータスを確認しておくか」


逆さで民家の壁にもたれ掛かっている勇者(?)鑑定スキルを使い、ステータス調べようとする。


「ん〜……ん⁉︎ こ、これは……」


「どうなされたのですか、魔王様?」


「アイツのレベルが、た…たったの7しかない!」


ミネルバが俺の言葉を聞いた瞬間、表情を凍り付かせた!


「7……レベル7…………それは事実ですか?」


「ああ……俺も信じられなかったからもう一回鑑定してみた。けど結果は同じだったぞ」


俺の言葉にミネルバは顔をポカーン……とさせてしまった。そんな中、勇者が手足をバタバタさせる。どうやら復活したみたいだ。


「テメェらぁ〜〜〜……。こんなことをしていいと思ってんのかぁ? 俺に何かあったら、この国が黙っちゃいねぇんだぞ!」


「…いや。お前と俺達は敵同士なんだから、この国のことは関係ないだろ。

ところで何でお前弱いんだ?」


「何だとぉっ!⁉︎」


「はぁ〜……この世界に来てから5年も音沙汰なし。だから気になって来てみればザコ同然のステータス。どういうこと何だ?」


「馬鹿言えっ‼︎ 俺がザコな訳ねぇだろっ⁉︎」


……ダメだ。コイツじゃ話にならない。


そう思ったので勇者の後ろにいる女性達に目を向ける。そしたら戸惑った様子でお互いの顔を見つめ合う。多分正直に話すかどうか目で聞いてるんだろうな。


「……勇者様が召喚されてから5年間。全く何もしなかったんですっ‼︎」


「それどころか昼間っから遊び歩いて、我々に迷惑を掛けて来ます‼︎」


「私の知り合いが注意したら怒り狂い、殴れました! もう限界です! このまま勇者に生活を滅茶苦茶にされるぐらいなら、いっそのこと魔王軍に支配された方がいいです!」


「いや、そんなことはないでしょ!」


国を支配されたら、ってことを考えてないのか?


「テメェらああああああああああああっ‼︎⁉︎ 俺を侮辱してんのかぁっ?」


「侮辱? アナタが我々市民を侮辱してるの間違えじゃないんですかっ⁉︎」


「そうです! 我々は勇者様が魔王軍からの脅威に立ち向かってくれることを信じて我慢してました! それももう限界です!」


「魔王様! あのクソ野郎を倒して下さい‼︎」


「クソ野郎だとおおおおおおおおおおおおっ⁉︎」


勇者はそう言うと、女性の1人に向かって剣を振り上げた!


「ッ⁉︎」


その子も死ぬと感じたのか身を縮めた!


「死ねっ⁉︎」


マズイッ⁉︎


そう思った俺は勇者と女性の間に割って入り、剣を持っている手を掴んで止めた!


「なっ…何っ⁉︎」


「……流石に今のは見逃せないな」


そう言って腕を掴んでいる手に少し力を込めると、両肩を目をひん剥いた!


「ギャアアアアアアアアアアアアッッッ‼︎⁉︎ 痛い‼︎ いだいいいいいいいいいいっ!⁉︎」


余りの痛さなのか、聖剣アスタリスクを地面に落としてしまった。


軽く握って痛いって……弱すぎないっ⁉︎


余りの情けない姿に呆れてしまったので、パッと手を離したら地面に落とした剣を拾い上げて距離を取っ……いや、逃げるように遠ざかった!


「ハァ…ハァ……なかなか、やるじゃねぇか」


「アイツ今逃げなかったか?」


「はい…逃げたように見えました」


「そ…そんなことねぇっ‼︎ 今度こそ俺の本気を喰らえ!」


勇者はそう言って剣を構えるが、俺はあることに気が付いた。


「なぁ…お前。1つ聞きたいことがあるんだが…」


「何だ? 降参か?」


「いや違う。何でスキル技どころか魔法を使って来ないんだ?」


「それは……」


俺の言葉にしどろもどろになっている。


おいおい……まさかぁ⁉︎


「お前……魔法やスキルをつ使えないのか?」


「つ、使えるに決まってるだろ!」


「いいえ! 勇者がスキルを使ったところを見たところがありません!」


「もしかしたら、スキルか魔法を使えないのかもしれないです!」


「思いっきりやっちゃって下さい‼︎」


そりゃLv7じゃ大したスキルを使えるわけないもんな。


「クソオオオオオオオオオオオオッ!⁉︎ 揃いも揃って魔王の味方しやがってぇ! お前ら魔王に寝返った敵としてぶち殺してやる‼︎」


勇者はそう言うと剣を振り上げて走って来た!


コイツ…もうダメだ。


怒りを通り越して呆れた俺は、一瞬にして勇者の懐へと入る!


「なぁっ⁉︎」


「お前みたいなのが勇者であってたまるかああああああっ‼︎⁉︎」


勇者が召喚されてから5年間サボっていた恨みを拳に込めて勇者にアッパーカットをかましたら、空の彼方へとぶっ飛んで行くっ‼︎


「あぎゃああああああああああああぁぁぁぁぁぁ…………」


叫び声が遠退いて行き、遂に勇者の声が聞こえなくなるほど飛んで行ってしまった。


「全く! 自分の使命を忘れるなんて愚の骨頂だ! 一から出直すんだな‼︎」


勇者が飛んで行った方向に向かってそう言い切った!


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ‼︎⁉︎』


「魔王様がクソ勇者を退治したぞ!」


「えっ⁉︎」


何を喜んでるのこの人達?


「これでこの国は平和になる!」


「アイツの苦しみに耐えることがなくなった! バンザーイッ‼︎」


『バンザーイッ‼︎』


え? 勇者が倒されて喜ぶの? おかしくない?


そう思っていたら、ミネルバが俺の下にやって来た。


「よかったですね魔王様。この国勇者の脅威から救われたのですよ」


「俺が脅威じゃなくて、勇者が脅威⁉︎」


「これから大変になると思いますので頑張って下さい!」


「え? 大変ってどういうこと? 教えてくれ!」


こうして勇者を倒した俺は、その国を手に入れることが出来た。手に入れた国の教育やインフラ面。それに農業技術の向上と整備をして住みやすい環境を整えたら、国民から大絶賛された。

それとあの勇者を指名手配の手続きもした。しかし数ヶ月が経とうとしているのに未だに目撃情報が出て来ないとなると……もしかしたら空の彼方まで飛んで行ったのかもしれない。

……って言うかぁ! 俺のことを倒してくれっ‼︎

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倒される為だけに存在する魔王なのに、いつまで待っても勇者が来ないのでこちらから向かうことにした! 青空鰹 @aozorakatsuo

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